第二章 未知の世界へ
第二章 未知の世界へ
「あっちゃ~」
アンジェラは頭を抱えている。
「なんでついてきっちゃったのさ」
何が起こったのかわかっていない疾風は、ただ呆然としている。だが、アンジェラに声をかけられ、ようやく我に返る。
「あれ……ここは?」
「ここは、天界だよ。本当に……どうしよう。天界に人間界はつれてきてはいけないというおきてがあるのに……」
疾風はアンジェラが話しているのにもかかわらず、後半部分は聞いていなかったように見えた。
疾風はあたりをはしゃいで見渡している。
それもそのはずである。疾風とアンジェラは雲の上にいるようなのだから。足場は綿菓子のようなふわふわした足場に覆われているが、下に落ちるような事は無い。
その雲のようなものが当たり一面に広がっており、雲と雲との間には蒼い綺麗な空が広がっているかのようである。
そして、疾風達のいる所から少し先には聖堂のような大きな白い建物が見える。
「すっげぇ!」
疾風は見たことの無い、世界に目を輝かせている。
アンジェラはそんな疾風の無邪気な姿を見て、ため息をついた。
「……能天気ね」
アンジェラはそう呟いたが、はしゃいでいる疾風には何も聞こえなかった。
「ちょっと待ちなさい」
今にもはしゃいでどこかいいってしまいそうな疾風をアンジェラは止める。
「何?」
「貴方……本当は人間が天界に入ってくる事がいけない事だって分かってる?」
「そんなこと初めて聞いたぞ」
アンジェラは記憶を探すようにしばらく黙っていたが、
「……確かにいって無かったわね。とにかく、本当は人間が人間界に来るとことは許されないのよ!」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
アンジェラはそっとため息を漏らす。
「天使は翼を持ってるでしょ?それで、貴方はその翼を持っていない。だから翼を持っていないと天使じゃないんじゃないか、って思われるわけよ。それで――――」
「?」
疾風は急に何かを探し出したアンジェラを不思議そうに見つめる。
「はい、これ」
アンジェラは疾風に小さい翼の形をした白くて硬いものを差し出す。
「何だこれ?」
「それは翼を縮小したものなのよ。天使が翼を使えなくなったときに使われる予備のようなものなの。それは私の物なんだけど、身を隠すためだわ。しょうがないからそれをあげるわ」
アンジェラはそれにそっと息を吹きかける。すると、見る見るうちにアンジェラと同じぐらいの翼へと変わる。
「うわっ!」
「はいはい。動かないでね」
アンジェラは疾風の背後へと回る。そして、翼を疾風へつけた。
「えっ!これ自分で動かせるのか?」
疾風は自分に翼がついたようで、ぱたぱたと小さく動かしている。
「まあね。貴方だと動かす事しかできないだろうけど」
アンジェラは微笑む。
疾風はアンジェラを見て、顔を真っ赤にする。
(笑うと、こんなにも綺麗なんだな)
アンジェラは疾風が顔を真っ赤にしているのを幸いにも気付かなかった。
「とりあえずは貴方が人間だってばれないでしょ。とりあえず、来てしまったんだから天界の案内でもしましょうか」
「いいの!?」
「ええ。まあ、あんなところで扉を開いっちゃった私も悪かったし。それに――――」
「それに?」
「な、なんでもないわ。行きましょ」
アンジェラは顔を紅く染めて、そっぽを向く。
「ここはね、天界でも人気の小物屋さんなのよ」
アンジェと疾風は扉から出たあたりから、丁度まっすぐ行ったあたりにある小さな小物屋についた。
女の子が持っていそうな可愛らしい文房具やアクセサリー、アンティークなど、様々なものが店内には置かれていた。
疾風にはその良さがあまり分からなかったのだが、アンジェラが楽しそうなのを見て、それでもいいや、と思う。
「あ、ごめんなさい。私ばっかりはしゃいじゃって」
「ううん。いいよ」
疾風は首を振り、近くに置いてあった二つの指輪を見る。
それらはいたってシンプルで飾りなどは全く無い。だが、煌びやかに輝いている。その指輪の横になにやら文字が書いてあるが、それは天界の文字で書かれていたため、疾風は何と書いてあるのか分からなかった。
「あ、それ欲しいの?」
「いや、ちょっと見てただけ」
それ以降も疾風は指輪のあたりを見る。本当はその横にある天界の文字の方を見ていたのだが、アンジェラはそれを疾風が欲しがっているように見えた。
アンジェラは店長と思われる女の人に、何かを話しているが疾風は何をいっているのかまでは分からなかった。
「?」
女の人は一回中に入っていって、何かが入った小さい箱を二箱持ってくる。
女の人はアンジェラに微笑み、何かを言う。
それを聞いたアンジェラは、顔を真っ赤に染める。
「はい、これ」
アンジェラは二箱のうちの人は子を疾風に差し出した。
「なんだ、これ?」
「開けてからのお楽しみよ」
疾風は気になって箱を開ける。
「これ、さっきの指輪!!」
「それ、貴方にあげるわ」
アンジェラは少し照れくさそうにしてぶっきらぼうに言う。
「で、でも。もらえないよ、こんなにも高いやつ」
疾風は天界の文字を見ていて、数字は人間界のものと一緒だったため、この指輪が高い事は分かったのだ。
「大丈夫よ。天界での値段ではそんなに高く無いわ。その指輪はまだ安い方だったんだから。それに、お土産が無いのもおもしろくないでしょ」
「……でも」
「まだ言うの?しつこい男は嫌われるわよ」
疾風もそういわれると何も言えなくなり、渋々それを受け取りポケットの中に入れる。
「でも、どうして二つなんだ?」
「それは…………ペアリングだったのよ。一つだけじゃ無理かって頼んだけど、無理だって言うし。それに……」
貴方とおそろいでもいいじゃない、といおうと思ったアンジェラだが恥ずかしさのあまり、アンジェラは何もいえなかった。
(何を急にもじもじしだしたんだ?)
アンジェラの気持ちに気付かないまま、疾風は少し足を進める。
「もうっ。人の話ぐらい聞いてくれたっていいのに……」
アンジェラは頬を膨らませている。それに気付いた疾風は、
「何をふくれてるんだ?」
「本当に……鈍感ね!」
「?」
更に意味が分からないといったように、疾風は首をかしげる。
「まあいいわ」
(本当に気付いてないのね)
アンジェラは呆れながらも疾風に目を戻したときに、ある事に気づく。
「ちょっと!どうしたのよ、その体!!」
「え?」
疾風はそう言われて、自分の体を見る。
「!?何だこれ!」
疾風の体は何故だかは分からないが、透け始めていた。
「やっぱり……おきてを破ってしまったから?」
アンジェラは顔を曇らせる。それを見た疾風が、更にあわてる。
「ちょっと、これどうすればいいんだ?」
アンジェラは苦虫を潰したような渋い顔をする。
「……しょうがないわね。ちょっと、来て頂戴」
疾風はアンジェラに手を取られ、先ほど通った道を戻るのであった。
毎週土曜日更新とか言いつつ、三回目にして破ってしまって大変申し訳ないです。