第一章 再会
第一章 再開
疾風が事故に遭いかけてから七年が経った。当時は小学一年生の七歳だったため、現在は中学二年生の十四歳である。
疾風は学校が終わり、何気ない日常を過ごしていた。
疾風はあの事故でであった、アンジェラという少女を薄っすらと覚えている。
「お~い。疾風、どうしだんだよ」
疾風は知らぬ間にぼうっとしていたらしく、友達に呼ばれる。
「わりぃ。今いくわ」
疾風は小走りで、その友達のところへ駆け寄る。
疾風とその友達がしばらく歩いていくと、例の事故の横断歩道に着いた。
あの時は誰も怪我が無かったため、特に何も起きなかったが、あれで誰かが怪我でもしていたら大騒ぎになりそうなぐらいだった。
友達と気ままに喋って、信号待ちをしていると、しばらくすると赤から青に変わる。
疾風は事故に遭いかけたあたりを見る。
(やっぱり、あの時だけだったか。信じられないけど、天使なんてこの世にいるはずが無いんだ)
疾風はあの事故以来、助けてもらったアンジェラという名の天使ともう一度会えないかと、思っているのだ。だが、何故そう思うのかを疾風は分かっていない。
疾風が会いたいと思っているアンジェラとは、この七年間会う気配は全くしない。
無事に横断歩道を渡り終えた疾風は、友達とわかれ家路に着こうとした。
「わあっ。久しぶりの人間界!」
アンジェラは久しぶりに人間界に来て、はしゃいでいる。
丁度、疾風の真上にいる。
大きな純白の翼を大きく広げ、空に浮かんでいる。
幸か不幸か、お互いにすぐ近くに捜し求めている相手がいる事に気づかない。
「あ、だめだめ。今日は仕事できたんだから」
アンジェラは軽く自分の頬をぺしぺしと叩く。
「あの時の……少年に会えるかな?」
アンジェラは呟いた。だが、その呟きは都会の騒音によってかき消される。
「今日の仕事は、人間界の状況についてまとめる事かぁ……まあ、事件は耐えないようだけど、平和だよね。この世界は」
アンジェラはどことなく、あたりを見渡す。
「仕事はこれぐらいにして、楽しまなくちゃね」
アンジェラは記録用紙に、適当にさっと人間界の状況を書き、どこかへと飛び去っていった。
「ただいま~」
疾風は家に帰り、返事を待つが返事は返ってこない。
疾風には両親と姉が一人いる。両親は共働きをしていて、夜遅くにしか帰ってこない。姉は高校二年生で殆んどのときが疾風のほうが先に帰ってくる。そのため、家に誰もいなくても当然といえる。
疾風は返事が無いのにも気にせず、二階にある自分の部屋へ向かう。
勉強机の椅子に座った疾風はそこから、窓の外を見る。
木々がざわめき、青々とした緑が煌く。
「何かつまんないなぁ」
疾風は小さくため息をつく。
(ん?)
疾風は何者かの気配を感じ、窓の外を見た。
すると、窓から純白の翼を生やした天使らしき者が疾風の部屋から入ろうとしていた。
「なっ!」
疾風はとっさに声を上げる。
「ん?私が見えるのか。人間界なのに珍しいな」
天使は大きい目を更に大きくする。
天使は純白のワンピースを着ていて、とても清楚に見える。普通の人間と違うのは、背中から少女を包み込むような純白の翼があることだろう。その異常な点さえなければ、どこかのモデルと思わせるような顔立ちとスタイルをしている。
「まさか、あの時の天使?」
「あの時の少年?」
お互いが同時に同じ事をいい、小首をかしげている。
「もしかして、アンジェラ?」
「たしか……疾風?」
お互いが、疾風が事故に遭いかけたときに言った名を覚えているようだ。
「うそぉ!」
アンジェラが嬉しそうに声を上げる。
アンジェラはもう一度疾風に遭えるとなど思っていなかったのだ。アンジェラは人間界を一通り回ろうと思っていて、まずは文化に慣れたいと思っていたため適当に家に入ろうとしていたのだった。そして、たまたま選んだ家が疾風の家だったということだ。
これは全くの偶然で、アンジェラは驚いている。だが、しばらくしてアンジェラははっとしたように動く。
「そ、それじゃあ」
アンジェラは何を思い出したのか、急いで疾風の家から出ようとした。
「ま、待って!」
疾風は立ち去ろうとするアンジェラの手首を握る。
「どうして、ここにいるの?」
疾風の方を振り返ったアンジェラは、苦虫をつぶしたような顔をしている。
アンジェラは真剣な眼差しを向ける疾風に逆らえなかったのだ。
疾風とアンジェラは疾風の部屋で話をしていた。
「私は七年前に会ったときと今は人間界の把握を行うために人間界にきているの。それは私だけでは無いわ。他の天使も状況把握を行うために人間界に来るのだけど、私以外の天使には会ったことが無いようね」
疾風は黙って頷く。
「本当は、天使と人間は関わってはいけないのよ。何故だかは知らないけれど、人間界と展開とのバランスが崩れてしまうらしいわよ」
「でも、今まさに関わってしまってるじゃないか!」
アンジェラはため息をつく。
「そうなのよ。まえのときは辛うじて人間と関わった事はばれていないけれど。だから、私はここから立ち去ろうとしたわけ」
疾風は天子がいる事なんて信じていないが、目の前で天使の格好をした者がいられては信じられないわけが無い。
「分かった?とにかく、私は君とはかかわりが持てないのよ」
アンジェラは哀しそうに目を伏せる。
「それじゃあ、私は仕事が終わったし、天界に帰るから」
アンジェラは逃げるように、どこからか鍵を取り出し、その鍵を何も無いところでひねる。
すると、その鍵から扉が現れアンジェラはその扉を開ける。
疾風はアンジェラと居たかったため、呼び止めようと服の裾をつかんだとき、アンジェラは扉の中に入る。
アンジェラは一瞬驚いたように目を大きく見開いたときには遅く、アンジェラと疾風は淡い光に包まれる。
そして、誰もいなくなった疾風の部屋に扉だけが残る。その扉は、アンジェラと疾風を天界へと引きずりこんだ後、跡形もなく僅かな光を帯びて消えていった。