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ローファンタジー・ホラー・その他短編

回顧

作者: トウリン

 なあ、お若いの。

 お前さんは、戦場ってモンを知ってるかい?

 ワシはな、もう、何べんも行った。

 そりゃ、兵士だったからな。それが仕事ってモンだ。

 戦場ってのは、どんなモンだと思う?

 ワシが軍隊に入ったのは十八ん時だった。

 まあ、柄の悪いとこに住んでてな、ちょいと、しでかしちまったんだよな。で、刑務所に行く代わりに軍に入れば、勘弁してくれるってんでよ。

 まあ、そんなわけで、たいしたやる気もなく軍人になったのさ。

 けどな、入ってみると意外に水が合ってなぁ、ちょいとヤル気を出しちまって、海兵隊に志願しちまったりもしたさ。

 海兵隊ってのは軍の中でも特に強者揃いだ。訓練じゃ、何十キロもある重い装備を背負って、何十キロもの道なき道を行くんだぜ? もう、そりゃ、死んだ方がマシだってモンさ。ボロボロボロボロ、ついてけなくなったヤツが出る。最後まで残ったモンも、終わった時にゃ、身体からも頭ン中からも、いらねぇモンはキレイにこそげ落とされる。自慢の身体もげっそり幽霊みてぇに痩せこけてな。だが、そんだけのことを耐え抜いたヤツは、それだけで一目置かれるんだ。

 訓練学校出て、バッヂをもらって。

 ちょっとやそっとじゃビクともしねぇ、『鉄のおとこ』ってヤツが出来上がる。

 そんな漢たちが、戦場で一番怖がるモンが何か、知ってるか?

 自分に向けて弾が飛んでくること?

 うんにゃ、そうじゃねぇ。そんなもなぁ、あっという間に慣れちまう。

 突然ゲリラどもに襲われること?

 そんなの、とっくに心構えってモンができてるさ。

 ちっとも思い付かねぇのか?

 じゃあ、言うけどな。

 ワシらが一番怖ぇことは、自分がぶっ放した弾が、誰かに当たっちまうことさ。

 笑っちまうだろ?

 殺す為に給料もらって、死ぬほど訓練して、はるばる海越えてくのに、それが一番怖ぇんだ。

 妙なモンでな、自分の弾が当たったかどうかは、何となく判るもんなんだよ。

 その瞬間は、何とも、イヤな感じになる。

 ワシが撃った弾が当たったヤツを、じかに見たことぁねぇ。

 だがな、こうやってお役ゴメンになってボォッとしてるとな、ワシが殺したヤツらがその部屋の隅に立ってるような気がしてならなくなってくる。ナンも言わず、ただ、黙って、ワシの方をジイッと見つめてるような気がしてくるんだ。

 別に、恨まれてるとか、そんなふうにゃ、思っちゃいねぇ。お互い様だからな。こっちが殺さなきゃ、ワシの方が殺されちまう。戦場ってのは、そういうもんだ。どちらかがどちらかを殺さなきゃならん。

 それは解っとる。

 解っとるんだけどな、時々、フウッと、そんな気がして、一晩、月を眺めていたりする時があるんだよ。

 ワシが殺したヤツは、生きとったら、今頃何をしとったんかなぁ、とか思ったりしてな。

 全然、知らないヤツのことをな、そんなふうに思ったりするんだよ。

 恨みもナンもなく殺したヤツのことは、顔も見たことがねぇってのに、ちっとも薄れてくれんのだよ。

 多分、墓場まで一緒に連れてくんだろうなぁ。

 ま、それもそう遠いことじゃないんだろうけどな。

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