尾ヒレ胸ビレついても75日
「あなたがこんな所に居るなんて珍しいですね」
顔を上げればクールべが何冊も本を抱えて立っていた。
「うん、ちょっと調べたい事があってさ…」
あっそうか!
このオッサンに訊けば手っ取り早い!
「ちょっと訊きたい事あるんだけど!昔この国の宰相してたリチャード・カペラっていうヤツの家系って今どうなってるの?」
前世の私に手切れ金押し付けた宰相のオッサン(ハゲ)にムカついた私は、蛇のように執念深くその子孫の荒探しでもして憂さ晴らしをする事にした。
しかしお昼を食べてからずっと此処(城の図書室)にこもって調べてるんだけど、カペラ家が今どうなってるかちーっとも分かんない!
『家系のうんちゃら~』とか『歴代の重臣のどうたら~』とか何冊よんでも全然載って無い!!
「リチャード・カペラ?ああ聖王の時代の宰相ですか?」
「……そう聖王の時の人」
聖王ってのは、要するにあの馬鹿勇者、私を捨てて王女様と結婚した裏切り者の事。
魔王を倒して国を救った英雄はその国の王様になり、人々から聖なる王様『聖王』と呼ばれるようになりましたとさ。
よ~~するに私はあの裏切り者と尻軽王女様の子孫て事だ!!
あぁぁぁいやだ!
贅沢言いたくないけどどうせなら別の国に生まれ変わりたかった!
「家系は断絶してますよ」
え?
「『血まみれ王』の時代に粛清されました。不正蓄財がバレて一族の主だった者は処刑されました」
「えぇぇぇ!」
うっひゃ~、そりゃ調べても調べてもわからない筈だ。
『血まみれ王』ってのは『聖王』の二代後の王様の事。
物凄く厳しい人で悪い事してた貴族や役人を次々冷酷残忍な方法で徹底的に排除した事から“血まみれ”なんて物騒な仇なで呼ばれてる。
彼の怒りに触れたが最後、この国の歴史から抹殺されちゃったんだよね。
勿論公的な文書からも遡って名前を消されちゃう。
さすがに伝説の英雄『聖王』に仕えた宰相の名前は無かった事には出来なかったけど、名前以外は見事に消されてる。
こわぁ~。(ガクブル)
でも歴史をよく知ってる人達は、『血まみれ王』の方が救国の英雄だと思ってる。
一般的には知られて無いけど『聖王』って政治に無関心で国を荒れさせたんだよね。
私捨ててまで王様になったんだからちゃんと仕事しろっての!
どこまで馬鹿なんだあの男は!!!
『聖王』が年を取って死んだ後その長子が王位に着いたんだけど、ソイツも弟と権力争いばっかりやってるわ金使い荒いわで国をボロボロにしたらしい。
それを立て直したのが実は『血まみれ王』なんだよね。
家柄に胡座をかいてムチャクチャやってる貴族達を排除して、家柄に関係無く才能のある者達を重用。
いまこの国イバネスが平和なのは『血まみれ王』のお陰だよ!
現在に続くイバネス国の医療福祉とか身分制度とかの基礎を作り上げたのも『血まみれ王』だよ!
ハァァン、かっこいぃぃん(ハート)
彼の絵、私の部屋に飾ってるんだ。
すんげ~悪人顔で熊みたいな、私のモロタイプ(グフフ)
まあそれならあのハゲ宰相への仕返しは完了とするか。
『血まみれ王』様ありがとう!
残る問題は……。
「え~と、クールべさん?あのですね…話は変わりますけどぉ…ちょっと小耳に挟んだんですけどぉ」
「何ですか?」
「単刀直入にお聞きしますけどぉ」
「その口調ではどうせろくでもない話ですね」
今日朝ごはんを食べ終わった私が真っ先にした事はクールべと私がデキテルなんてみんなが勘違いしていないか調べる事だった。
まあ結論から言えばそんな誤解は全くされてなかったんだけど…。
「そのぉ、クールべさんてぇ女性より男性とアレな方って本当なんですかぁ?」
「……」
色恋&玉の輿に血道を上げる城の女子野獣どもが、すごテクを駆使してもこの優良物件にはまったく効果が無いらしい。
余りのスルーぷりに女子達は捜査を開始しその結果衝撃の事実が判明した。
いや~知らなかったよ。
みんな、クールべと付き合いの長い私が聞いたらショックを受けると思って耳に入らないようにしてくれてたらしい。
女同士の思いやりね。(ホロリ)
「色々大変だろうけどぉ頑張ってください☆」
「私は同性愛者じゃ無いので応援して頂かなくて結構です」
えっ!違うの!!
じゃあ…まさか……!(ゴクリ)
「ロリコンでもありません!」
青筋たててクールべは否定した。
クールべは同性愛者でもロリコンでもショタコンでもありません。