要は好みの問題ですよ
「さあ!グズグズしない!急いで急いで!」
追い立てるクールべを睨みながら、侍従達や侍女達が噂していた隣国の王子の話を思い出す。
隣りのレデル国は父の姉(私の伯母)が嫁いだウチよりお金持ちの国。
その伯母が産んだたった一人の王子ジーニアスは、幼少の頃から頭は良いんだけど兎に角気難しくて、限られた人しか近付けなかったらしい。
要するに我が儘なガキだったのね。
成人した今では高い頭脳を生かして父王を手伝ってるけど、人前にはなかなか出て来ないから従姉妹の私も会った事が無い。
同じ従兄弟でもアルル国のトマス(叔母《父のすぐ下の妹》の息子)とかサャナ国のエベル(叔母《父の末の妹》の娘)とかは子供時代に何度か会って一緒に遊んだ事があるんだけど。
どうせならずっと引き篭もってりゃいいのに、もうすぐ王位を継ぐかも知れないから同盟国とちょっとは交流しとこうと外にお出かけする事になったんだってさ。
ケッ!
「“王女様スマイル”をお願いします!」
部屋の前まで来るとクールべが立ち止まって私に要求してくる。
にょ~ん(笑顔)。
「そんな下品な表情では駄目です!もっとピュアでエレガントで儚く可憐な感じでお願いします!」
「そんな巧みの技持ってる人材この城には居るか!」
「居ますよ。侍女のヘレンとか料理女のサマンサとかはいい仕事します」
そいつらの笑顔は(男)狩りの時のみ発揮されている。
このオッサン(イケメン)の前だけで繰り出す技だよそれ!
女の戦略について説明する私に、部屋で待つ王子様が美形らしいとクールべは私に釣り餌を投げる。
神経質で繊細な美形!
「最も私の好みじゃないタイプだね」
「え!?」
驚くクールべにこの際ちゃんと伝えておかねば。
「私の好みは腐った肉でも平気で食べそうな、ちょっと人類の進化を逆行しちゃった容姿の男!(じゅるり)」
「……ちょっと待って下さい。あなたよく剣術の稽古とかで、娘さん達がべそかいて逃げ出しそうな凶暴そうな熊みたいな相手ばかり選んで手合わせしたりしてますけど…あれ…」
「見て楽しい相手の方が良いじゃん(モジモジ)」
クールべは可哀想な人を見る目で私を見た後咳払いをした。
「では情報の訂正を致します。今この部屋には、エレべトス山(我が国の国境に有る山・頂上には万年雪)のエレビー(その山にいるとされる未確認生物・目撃者多数)が…」
「もしかしたらその雪男も守備範囲かも知れないけど、あんたは自分の国の王女が雪男にモーションかけても良いのか?」
「…まあ…面白いから応援します」
扉が開いて弟のエバンスが従者を伴って出てきた。
「姉上…」力無い声を出すエバンスの顔色が悪い。
どうしたんだ弟よ!
いつものリンゴほっぺが青ざめてるぞ!
「ジーニアス王子にご挨拶して親交を温めようと思ったんですが、あまり話が弾まなくて」
悲しそうに笑うエバンスの横で弟の従者が怒ってる。
「いくら何でもエバンス様に対してあの態度は無いでしょう!」
「そんなに怒らないで。ジーニアス王子はお疲れでいらっしゃったのかも」
フォローする弟がいじらしい。
どうやら挨拶の後、雑談でもしてコミュニケーションを取ろうとした弟に、木で鼻をくくるような応答しかしなかったらしい。
さすが“引きこもり”コミュニケーションは拒否!!
まあ、向こうが嫌がってるなら好都合。
一言挨拶した後サッサと自室に戻ろう。
侍女から借りて読んでる本の続きを早く読みたい。
部屋に入るとまず最初に護衛の騎士達の姿が目に入る。
うち(イバネス国)のと向こう(レデル国)の護衛達が見守る様は緊張感が有ってちょっと怖い。
おっとビビってちゃいけない、営業スマイル!
捕獲した雪男とのドキがムネムネしちゃう出逢いに、笑顔を浮かべて部屋の奥に進んだ。
うっひゃ~~~~きっっっれいなオトコぉぉぉぉ~~~!!!!
父上&我が国の重臣達としゃべっている王子らしき男は、アヒルの群に舞い降りた白鳥どころか、鶏の群れに混ざった水晶で出来た天国の鳥だ!
まだ離れた位置に立ってるのに超絶美形だってわかる!
窓からの光で淡い金の髪が輝いて、後光がさしているかの様に見える。
私が入って来たのに気付いていないからか、顔をこちらに向けないままだが瞳の色が青にも緑にも見える不思議な色だとわかる。
ふと王子が私に視線を向ける。
宝石細工みたいな男と目が合う。
ぞわん。
あ……この感覚は………。