順風満帆だったのに…
「きぇ~」ガキン!
「とりゃ~!」ドコン!
「そりゃ~」ドッカン!
「お見事です姫様!」やんややんや!
拍手してくれる兵士たちに、疲れた体に鞭打って笑顔で手を振った。
そして尻餅を着いている騎士に手を差し伸べた。
高まる歓声と拍手に包まれながら、私に負けた騎士と健闘を称え合う。
巨体を屈め私と握手する熊みたいな強面の騎士の笑顔に罪悪感を飲み込んだ。
勿論彼はワザと私に負けてくれた。
小さな頃から剣術を学んでは来たが、こんな実戦を経験してきた者達にアッサリ勝てると思い込むほど自惚れてはいない。
まあ一種のデモンストレーションだ。
おらが国のお姫様が兵士の訓練に混じって凛々しく活躍、なんてまあ国民に受けるからね。
6歳下の弟は剣術とかの体を動かす事がからっきし駄目だから、姉の私が頑張ってるってのもある。
女だてらに剣術だの馬術だのを学ぶ私に初めはいい顔をしなかった周囲も最近は割と認めてくれてる。
いや一人だけ未だにグチャグチャ文句を付ける奴が…。
「エラータ様!アナタという方はまた汗だくで小汚い格好をして!」
きた!まるで口うるさいじいやのような男、宰相のクールべだ。
お人好しの父をガッツリと支える優秀な人物のハズだけど、王女である私に対してどうも敬意が感じられない。
私を野放しにしがちな皆とは違いフォークの上げ下ろしにまで駄目出ししてくる。
「さあ早くお風呂に入ってドレスを着て下さい」
「はあ?ドレス?なんで?」
私は普段動きやすいズボンを愛用している。
「お客様に挨拶されるのに、男みたいな格好で会うつもりですか?」
「挨拶?しなくてもいいってお父様が…」
今、我が国を訪れている隣国の王子は大変な人間嫌いで酷く気難しい人らしい。
だから王である父と数人の重臣達が会うだけで、私は会わなくていいと言われていた。
「何を仰有ってるんです。全く王もあなたを甘やかしてばかりで…。レデル国の王家は我が国の外戚、王子はあなたの従兄弟にあたる方ですよ!一度ぐらいは顔を合わせておかないと!」
面倒くさい。
いずれ王位につく弟のエバンスならわかるが、なんで王女の私まで会わなきゃいけない?
肩が懲りそうだ。
「その嫌そうな顔、王子の前では絶対にしないで下さいね!」
「わかってるよ!」
「女性のあなたはやらなくて良いことはやりたがる癖になんでこういう普通の事は避けたがるんですか?」
溜め息をつくクールべにニヤリと笑って答えた。
「自分の身を自分で守る方法は知りたいんだよ」
今世の私ならあんな悲しい結末を迎える事は決して無い。