異議あり!
マティスはその大柄な体躯に関わらず普段とても穏やかな男だ。
荒々しい男達の中にあってもまったりとした空気を醸し出してるというか何というか。
今だってイバネス国上級兵士の威信をかけての戦いに挑んでいるというのに気負いは全く感じられない。
でもいざ戦いが始まったら豹変するんだよね。
王子と兵士、身分違いの二人が相対する。
「始め!」
合図の声と同時にマティスは稲妻のような速さで間合いを詰め、ジーニアスに打ち掛かる。
やっぱりね。
予想通りジーニアスは受け身一辺倒だ。
体格差だけで優勢になっているのじゃ無くて、マティスは反撃を許す隙を全く与えてない。
まあ、ジーニアスはあれだけマティスの攻撃を受け止めてるだけでも誉めてやるよ。
まあそれもそろそろ限界でしょ。
そんな事を考えていたらマティスが大きく剣を振り上げるのが見えた。
体力が尽きてきただろうジーニアスの手から剣を叩き落とすつもりだったんだろう。
武器が無くなればそこで試合は終了。
やっぱり防具を着けていないジーニアスの体を剣で打つのよりは怪我させないで終われるからね。
ところが…。
不思議な音が響いた。
それまで聞こえていた剣の打ち合う音とは微妙に違う。
「なっ!!!」
シンと静まり返った場の中心でマティスが青ざめて立ち尽くす。
ジーニアスが余裕の笑みを浮かべてマティスの胸に剣を突き付ける。
「勝負はあったね」
憎ったらしいジーニアスの声に被せて私は叫んだ。
「この勝負は無効だ!」
勝負あったじゃねーよ!ふざけんな!
こんなのオカシイだろ!!!
「もう一度やり直して――」
「お待ち下さいエラータ姫。この勝負私の負けです」
抗議する私を何故かマティスが止める。
「マティスは負けてないよ!だって…」
「姫、もしここが戦場だったとしたらどうでしょう?」
彼は手に持つ、根元でボッキリ折れた剣を私に見せながら穏やかな口調で興奮している私を宥めた。
「敵に剣が折れたから待ってくれといったところで通じるはずが無い。この勝負私の負けです」
…なんて…潔くて…格好いいんだ……。
好きだぁぁあ!!!




