「帰って来たら伝えたい事がある」って言って!!
マティスが手早くに防具を身に着ける。
ハッキリ言って彼が防具を着ける必要性は全く無い。
ジーニアスの剣がマティスの身体に触れる可能性なんてまず無いだろう。
思ったよりもジーニアスが剣技に長けていたのは認めるがマティス相手では流石に歯が立たない筈だ。
何度か眼にした事のあるマティスの戦いぶりを思い出し、私は安堵と興奮の入り混じる落ち着かない気分になった。
鬼神のごとき激しく凄まじい剣。
体格を生かした強い打ち込みと身体能力の高さを伺わせる軽やかな身のこなし。
そして頭の良さを感じさせる相手に対応する戦法の切り替え。
きっちり装着した防具は彼の慎重さを如実に表している。
獅子は鼠を倒すにも全力を尽くすという。
…素敵すぎる…。
何とかこの機会にマティスに急接近する方法は無いものかと私は頭を捻った。
私の事を崇拝しまくってメチャクチャ可愛いとか思って甘やかしまくってしまう惚れさせ方とは一体?
おまじない系からこの私が聞いてもドン引きするテクニックまで色々アドバイスは受けたんだけどいざ実行するとなると二の足を踏んでしまう。
照れ屋さんだからな私。
気になる彼とラブになるスゴテクについて考え込む私の耳にマティスの声が聴こえた。
「どうか防具を身に着けては頂けませんか」
「不要だと言ったはずだ」
防具を着け終わったマティスがジーニアスの身を案じてか懇願している。
ほっとけよ、そんな奴。
死にたいんだよきっと。
「一介の兵士である私が世継ぎの君を傷付けたとあっては、いくら合意の事とはいえレデル国民は良い感情を持たないでしょう」
「まるで私が一方的に受け身をとらされる羽目になるといっているかのようだな」
「そうではありません。あなた様はお見受けした所かなりの剣の使い手でいらっしゃる。だが私も隊長の地位を戴く程には実力が有ると自負しております。そんな私達が戦えば当然お互いに無傷ではいられない。だが両者の負うだろう傷は余りに価値が違うと申し上げているのです」
マティスの静かな口調の説得に暫く黙り込んだジーニアスは私をチラリと横目で見てからマティスに提案した。
「ではこうしないか?お前の剣が少しでも私に触れたらお前の勝ちとしよう」
なんでそんなに防具を嫌がる!!!
確かに男達の汗をタップリ吸い込んで殺人的に臭いけど!!!
「…それなら長く打ち合うこと無くすみますね…ではそのルールでやりましょう」
ジーニアスが梃子でも防具を身に着け無いと悟ったのかマティスはその提案を受け入れた。
おのれジーニアス!マティスが心配してくれてるのに!
負けたら押さえつけて防具の熟成された香りを堪能させてやろうか?




