《番外編》勇者様の捨てたもの (Ⅳ)
魔王どころか小さな魔物を倒す事さえ危うい力量不足の“仲間”を私は当初軽蔑していた。
魔王討伐と言えば聞こえは良いが要は魔物とその親玉を殺す旅。
その旅に参加する魔法術士と司祭は人並み以上の技量と経験を求められるはず。
しかし女二人はどう見ても未熟だった。
人ならざる神秘の力を操る者と呼ぶには余りに胡散臭く幼稚な彼女達の参加の理由は出立直後に判明した。
要するに見栄。
高位の貴族階級の息女である彼女達は、魔王討伐に参加した実績を目当てに、本来この旅に参加する筈だった者達を家柄にモノを言わせて押しのけて参加したのだ。
家柄だけで自分達を討伐隊に選ばせた事は彼女達にとって誇るべき事らしい。
旅の初日に自ら自慢げに種明かしされた時は軽くめまいを感じたものだ。
魔物と戦う力をろくに持たぬまま旅に出る危険は“いざとなれば何とでもなる”と呆れ返る楽天思考でいたようだ。
彼女達も彼女達を送り出した近親者達も後方支援の部隊が娘達を守ってくれると愚かにも信じ込んでいた。
そして残る剣士の男。
彼こそがこの捨て鉢な旅に最も相応しい“仲間”だった。
彼は女二人とは違い力を十分に持っていた。
つまり…剣士としての“殺す力”だ。
驚く事に彼は王族の一員で本来、供の一人も付けず旅をする身分では無かった。
何故それなのに?
その理由もしばらく旅を共にすればわかる。
彼をこの旅に参加させた―――おそらく彼の一族は彼がこの旅で命を落とす事を期待している。
騎士道の欠片も無い下卑た性格に加えて、極めて凶暴で攻撃的な彼を一族や周囲は持て余しているのだろう。
楽天的見栄と厄介払い、絶望的な状況に怒りは感じても、自分一人でも成し遂げられると私は傲慢に信じた。




