歯ぎしりって歯に悪い
「ジーニアス様に防具をお渡しして」
近くにいた兵士に命じるのをジーニアスが遮る。
「要らない」
怪我しても自業自得だけど一応気遣いしてやったのに拒否かよ。
あらあら無理しちゃって(ぷぷ)
「大切な御身に何かあれば大変です」
嫌みてんこ盛りの私の忠告にも平然とした態度のまま、金糸銀糸をふんだんに使った豪華な上着を脱ぐジーニアス。
キラキラした男によく似合っていたキラキラ上着、掻払って売り飛ばしてやろうかしら?
「大丈夫だ」
身の程知らずの引きこもり王子は皆が見守る中進み出たが、足を止め渡された練習用の剣を訝しげに見る。
フヒヒ木剣でも渡して貰えると思ったかい?
金属だよ金属、流石に刃は落としてるけどね。
ここでは相手を傷付けないように、なんて気遣いはして貰え無いんだよ。
すっごぉく重いでしょソレ。
それ当たると痛ァァイよ~~フヒヒ。
ごめんなちゃいわぁ~?
ごめんなちゃいするなら今だよ~~?
防具着けなかったら下手すると死ぬよ~。
私がニヤニヤ笑いながら差し出した防具を無視してジーニアスは剣を構える。
可愛く無いヤツだ!
剣を構え開始の合図を待つ王子と兵士。
あれ?ジーニアスって結構がっしりした身体してる?
ジーニアスのクセに生意気だ。
まあ対戦相手に比べればもやしっ子だけどね。
審判役の兵士が声を張り上げる。
「試合始め!」
構えていた兵士が一挙に間合いを詰め、ジーニアスに打ち掛かる。
私は直ぐに呆気なく倒されるだろうジーニアスにどんな嫌みを言うべきか考えた。
敗北感バリバリで地団太踏んで悔しがる、ちょっと泣いちゃう効果的な嫌みはとはいったい…?
私って口下手な人だから上手く言えるかしら?し・ん・ぱ・い☆
(カーン!)
響いた金属音に私は慌てて試合に眼を向けた。
?????
何…何が起こったの?何で兵士の剣が落ちてるの?何でジーニアスの剣が兵士の喉に突き付けられてるの?何で???
「し…勝負あり…」
かすれた審判役の兵士の声が試合が一瞬の内に終わった事を告げる。
何で負けたの?何でウチの兵士が負けるの?
何かやったでしょう、アンタ!
私がちゃんと見てないからって何か卑怯なズルしたでしょ!
何か知んないけど絶対そう!
こ~の~野郎(怒)
「随分お強いのね~☆」
顔が引きつるのに気付きながらも何とか嫌みを放った。
まだだからな!今回はズルしたの見逃してやるけどまだ負けた訳じゃないからな!
喉元に突き付けられていた剣が引かれると同時に地面に手をつきうなだれる兵士を立ち上がらせた私は、再び兵士達に呼び掛けた。
「次にお相手出来る者は?」
一瞬シンと静まり返った鍛錬場は爆発音にも似た男達の声に包まれた。
より一層興奮した兵士達は今度こそ自分が選ばれようと叫ぶ。
「姫どうか私にやらせて下さい」
けして大きな声では無いのに、その一言で水を打ったように辺りは静まり返った。
内心、屈辱に切れそうになっていた私は、その声の主を確認すると思わず笑い出しそうになった。
「あなた自らやってくれるのですか?」
「はい、余りに不甲斐ない部下の姿にシャシャリ出て参りました。先の試合よりはまともにお相手出来る筈です」
その見上げるまでの巨漢の男に私は頷きジーニアスに振り返った。。
「彼ならばお強いジーニアスのお相手が十分に務まりますよ。
お疲れでしょうがもう一人相手をしてやって頂けませんか?」
勝ち逃げなんて許さねえ!!
そう眼で脅したのが効いたのかジーニアスはあっさりと受けた。
「では上級兵士15番隊隊長マティス・ビドロ、あなたにジーニアス王子との手合わせを命じます」
ニヤニヤ笑いをかみ殺し滑舌よく言い切れた自分を誉めてやりたい。
ひゃははははァ!はい死んだぁ!ジーニアス完全に死んだぁ!