野獣のごはんはキラキラ王子
ジーニアスが形の良い眉をひそめる。
不思議かい?私が笑顔なのが。
世の中にはね、激怒すると顔の筋肉が変な風に引きつって、笑ってる顔になる人もいるんだよ。
「此処は鍛錬場ですよ。客人とはいえ場にそぐわぬ事をされると困りますよジーニアス」
「私も身体を鍛えろとでも?」
「それよりせっかくお越し頂いたのですから、ウチの兵士達に手合わせでもしてやってくれませんか?」
後ろの護衛騎士達が顔色を変える。
友好国で練習試合とはいえ他国の兵士と剣を交えるなんて、どんな危険が有るかわからないから普通しないよね。
「ああ、綺麗なご衣装が汚れちゃうからやめときますか?」
私はすっごぉぉく嫌みな笑顔で笑った。
人を不快にするのは得意だ任せとけ!
「綺麗なお顔に傷が付いたら大変ですもんねぇ。寝る前お肌に化粧水塗ったら染みちゃいますねぇ」
ジーニアスは何時も浮かべてる微笑みを消して真面目な顔で私に訊いた。
「私が誰かに痛めつけられているところを見たい?」
見たいよ!
「痛めつけるだなんて滅相も無い!何十年も戦争の無い平和な我が国の兵士達に、気合いを入れて頂きたいだけですよ」
平和な我が国の兵士は、全然平和呆けなんてして無いけどね。
上級兵士は他国の戦場に秘密裏に派遣された経験がある者がほとんどだ。
志願者だけだから行かなくてもいいけど派遣された経験は査定の対象だから、のし上がる夢みてる奴は大概志願するんだよね。
因みに鍛錬場では如何なる相手でも手加減しないのは暗黙のルール。
実戦経験のあるウチの兵士と引きこもり王子が手合わせ。
ギッタギッタにされちまいな。
「面白そうだやろう」
私のプライド逆なで作戦が上手くいった。
「兵士達よ!隣国レデルの王子ジーニアス様が手合わせして下さるそうだ!我こそは、イバネス国上級兵士の実力をお見せできるという者は名乗りを上げよ!」
ウオーと獣のホウコウのような歓声が上がる。
「姫!お相手に私をご指名下さい!」
「いいえ!私に!」
「私が!」
あらあらしょうがない子達ね、そんなに興奮しちゃって☆
いますぐおいちいエサ(ジーニアス)をあげまちゅからね。
よく噛んでお腹いっぱい食べるんでちゅよ。
どの子にしようかしら?粒揃いだからまよっちゃうわ☆
我が我がと名乗りを上げる男達を私はゆっくりと見回す。
全く頼りになる男達だよ。
顔を興奮で赤らめ、選ばれようと叫ぶ男達は益々獣じみている。
私はその中から一際身体が大きく凶暴そうな面構えの男を選び出した。
隣国の王子を叩き伏せた伝説造っちゃいなさい!!!




