グッドなスメルの素敵な面々
お食事中の方はご注意下さい。………今更か?
此処にいる素敵なアニキ達の基本は上半身裸だ。
んまあ☆乙女の目の前で素肌を晒すなんて☆
なんて恥じ入る事は無い、彼らは皆立派な毛皮を纏っているので肌の露出は少ない。
常夏なのに真冬並みに毛皮を?
いいえその毛皮は一年中纏っておられる自前の逸品です。
腕毛胸毛があっちでモッサ~こっちでもモッサ~。
滝のように流れる汗と絡み合う様は…ハアハアハア。
たまらん!
筋肉にくにくモッサ~☆にくにくモッサ~☆
汗だくの肉だるま共が獣じみた声を漏らしながら、ある者は抱えた巨大な石を上下させ、ある者は殺し合いとしか思えない組み手に興じ、ある者は謎のポーズをとったまま微動だにせず立っている。
上級兵士には基礎訓練のマニュアルが無い。
身体を鍛えたく無いなら鍛えなくていいのだ。
だだし一定の運動能力を保っていなければ“上級”を名乗る事は許されない。
駄目ならサッサと一般兵士の身分に格下げ。
アレしなさいコレしなさいと命令され無くても自己責任で自分を鍛えなきゃ所属し続けられ無い。
抜き打ちで行われる実戦想定訓練はスイスイこなせて当たり前。
もんのすご~く厳しい階級なんだよ“上級兵士”って。
そんな緊張感みなぎる男達をウットリと眺める私。
でも私の至福の時間は最悪な形で遮られた。
「こんな殺伐とした場所は君には似合わないね」
はい幻聴!はい、コレは幻聴!気のせい気のせい!
あら?なんでみんなビックリした顔で私を見てんの?
そんなに私に夢中?
私の背後じゃなくて私を見てるんでしょ?
ダメじゃ~んトレーニングに集中しないと☆
ほらほら集中集中、ガ・ン・バ・レ(ハート)
「粗野な男達を眺めていたって楽しく無いだろ?」
楽しいから今ここにいるんだよ!!!
振り返った私の眼は人殺しの眼をしていたと思う。
なんでテメーがここに現れる!
ここは野獣達の蠢く『イバネス国上級兵士鍛錬場』。
キラキラした王子様なんかお呼びじゃ無い。
「何故ここに?」
問い掛ける自分の声には、もう取り繕いきれず敵意が滲んでしまっている。
「君に逢う為に来た」
引きこもりからストーカーにジョブチェンジ?
「わざわざ王子自らお越し頂かなくても、私付きの侍女にでも取り次ぎを申し付け頂ければ私から伺いましたのに」
(訳)ちょっとあなた礼儀って言葉御存知?アポイントも取らずに突撃して来るなんて一体ご実家ではどういう躾をなさったのかしら?
息子の嫁をイビル姑気分で嫌みを放つ私を、じっと見下ろしていたジーニアスが不意に身体を屈めて私の瞳を覗き込む。
「嘘つき」
とろりと耳に流れ込むジーニアスの甘い囁きに私は思わず固まった。
「逢いたいと伝えたら、君は例え窓からでも逃げ出すだろ」
うん!絶対全速力で逃げる!
私の正直すぎる表情を見てジーニアスは笑う。
「やっぱりね。随分嫌われてしまったな」
そう言いながら急にぼんやりと遠くを見る眼。
「それでも諦められないんだ」
悲しげな呟きに、何だか私が凄く酷い態度とったみたいに罪悪感が湧く。
いやいやいや私悪く無いっしょ!
ちゃんと庭園案内したじゃん!
家族の団欒邪魔されても大人しくタルト食べてたじゃん!
滝汗男共の鑑賞邪魔されてもまだキレてないじゃん!
Q,一目あったその日からキライなやつが付きまとってきます。どうしたらいいですか?(嫌われてるって気付いても諦めません)
A,無視しましょう。
私は再びねっちょりとした視線を毛玉肉だんご共に向けた。
ああ惜しい、鍛え上げた背筋が背毛で隠れてる。
毛と毛の間から時折覗く筋肉の盛り上がりが究極のチラリズム。
再び流れ始めた癒やしの時間を、突然両肩を掴んだ手が止める。
不意を突かれてぐるんと後ろを向かされる。
なんじゃあ???
むにゅ……。
柔らかなものが唇に押し付けられて、眼を閉じたジーニアスの顔が私の視界を塞ぐ。




