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キライ姫  作者: たまねぎ
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腐発弾と二人の王様

「えっ?違うの?でもトトンの実の話でしょ?」


「……比喩表現は文学のケンドラ教授から習いましたよね?」



えっ比喩?散って二度と咲かないだの実に手を伸ばすだのは何かの比喩?


会話は一方的に話すんじゃなくて相互理解を常に意識してくんないと。


ジーニアス王子って暗い部屋で引きこもって独り言ばかり言ってたから会話駄目なの?


そういえば庭園案内頼む時でもいきなり私の腕掴むし。


意思伝達が苦手?


此処は私が大人になってコミュニケーションの努力しなきゃいけないの?


めんどくさい奴だな~。


私もそんなにコミュニケーション・スキル高く無いんだけど。


え~っと、どうしよう?


会話を盛り上げるネタ……恋話?


「ジーニアスはロマンチックな例え方するんですね。やっぱり恋を語るにはロマンチックじゃないと!あっ、ジーニアスって初恋は何歳の時ですか?因みに私の初恋は4歳の時、収穫祭に来た口から火を吐く大道芸人の男に…」


椅子の倒れる音にギョッと見るとジーニアスが立ち上がっていた。


「どれほど君を求めて生きてきたことか…絶対に諦めない」


求めて生きてきたって昨日会ったばかりでしょ?


一々オーバーな奴だな。


余りのウザさに溜め息をついている間にジーニアスは部屋を出ていった。


ひとん家の団欒を邪魔した挙げ句、訳わかんない事言い出して怒り出す。


我が儘な奴だよ親の顔がみたい。


「いくら外見が良いからって中身があんな変人じゃ嫁の来手も無いだろうね」


「エラータ様、『人の振り見て我が振り直す』という格言が世の中には御座います」


クールべは格言だのことわざだのが大好きだ。


本当爺さんみたいだよね。


そういえば文学教授のケンドラ爺もよく格言だのことわざだので私に嫌みを言ってたけど、意味わかんないから全然ダメージ喰らわなかったな。


そんな事よりクールべの前に置かれたタルトは手付かずなんだが…。


「良い言葉だよクールべも肝に命じとけばお嫁さん貰えるよ!ところでそれ食べないなら貰って良い?」


無言で差し出されたタルトを受け取る私の耳に母上の呟きが聞こえた。


「…当て馬は天才料理人……なんて革新的な展開…」


母上は向こう側に行ったままだ。


妄想攻撃はイマイチな結果に終わったな。


着眼点は良かったんだけど、母上の変じ…こだわりよりジーニアスのヘンテコっぷりが上回った。


やっぱり侍女のリリスも何時でも投入出来るように配備しとかなくちゃ…。





「そんな訳で最後は勝手に出て行っちゃってさ~」


「独りで盛り上がる奴って本当ウザイですよね…あっ、エラータ様そっち持って貰えますか?」


「結構重たいね。せいの~!」


持ち上げたチェストを移動させて後、鈍く痛む腰を叩く。


「侍女の仕事って体力要るよね」


「要りますよ!男共は優雅に茶汲みだけしてると思い込んでるけど!」


リリスが散らばる小物を集めて箱に詰めながら怒り口調で言う。


その箱を受け取った私は部屋の入口近くに運んだ。


侍女の仕事は確かに大変だが何時もこんな風に埃まみれの力仕事をしている訳じゃ無い。


そして曲がりなりにも王族の私が、侍女の仕事を手伝うなんて普通は有り得ない。


侍女のリリスがこの下手をすれば何十年も放置されていた物置を掃除する羽目になったのは、侍女長に罰とし言いつけられたからだ。


普段は温和な侍女長を激怒させたリリスのやらかした事とは、実在の人物をモデルにした恋愛小説の執筆と販売。


その人物とは騎士団長(侍女長の弟)と侍従長補佐(侍女長の旦那)。


旦那と弟があんな事やこんな事してるエロ小説を自分の部下が書いてりゃ怒るのは当たり前。


そしてどんなに厳しく追求されても(騎士団長と侍従長補佐の)情報提供者の名前を吐かなかったリリスに感謝を込めて私は彼女を手伝っている。


そう情報を流したのはこの私だ!


バレたら私もかなりヤバかった。


そんな私を庇ってくれたリリス、友情キラメイテる~☆




「それにしても他国から訪れた美貌の王子とその国の宰相、当て馬は天才料理人。有りそうで無かった設定ですね…」


創作意欲を刺激されたらしい。


懲りない所がリリスの良いところだ。


「でも料理人設定はアイツに自分がモデルだってバレない様にしないと。包丁持って襲いかかってきそうじゃない?」


「刃物が一杯ある職場にいますからね~」



包丁持って襲いかかってくる料理人のアイツを想像し、ゲラゲラと笑いながら作業を進める。


早く終わったら空いた時間で二人で遊びに行こうと約束してるんだよね。


「あっそういえば今借りてるアレ母上に貸してあげても良い?」


「良いですよ。王妃様もハマり捲るんじゃないですか?」


ハマるだろうな~、今リリスに借りて読んでる『傭兵王の麗しの鎖』。


元傭兵で大国の王様になった大魔術師の男が裏の顔でもある世界的犯罪組織の首領として出逢ったのは、王族として生まれながらも叔父に騙されオークションで売られていた女性と見紛うばかりの美貌の青年。


渦高く積み上げられた設定に流石の私も引きかけたが、エロ描写がネチっこくて大変素晴らしい名作だ。


「アレって当て馬が良いよね」


「当て馬の設定は重要ですからね!」


だから自分の婚約者を当て馬キャラのモデルにしたんだろうか?


小説の執筆とは修羅の道なのか?


婚約者リリスに自分が騎士団長レイプする小説書かれても、笑って流せるリリスの婚約者はとてつもなく器のデカい男だ。


愛の強さに思いを馳せる私をリリスが呼んだ。


「何か高そうな物出てきましたよ」


リリスが荷物に巻かれた紙をビリビリと破きながら私を呼ぶ。


金目の物が出てきたら、コッソリ売って二人で小遣いにしちゃおうと話してたんだよね。


「こんな所にいらっしゃったんですか!エラータ様ダンスのレッスンサボったでしょ。講師のロリマー夫人が怒ってましたよ」


間の悪い事に丁度その時クールべが部屋のドアを開けて入って来た。


「何回サボるつもりですか?すっぽかしても夫人に報酬は払わないと駄目なんですよ!勿体無い!」


確かに勿体無いが何故そんな事を伝えに宰相職のこの男が私を探しに来るのか?


私専属の侍女だけで何人も居るのに、宰相やってるクールべが私を説教する時間の方が勿体無いのでは?


そんなに宰相職って暇なのか?


「どうでもいいがエラータはこっちだ!あんたが説教してるのは侍女のリリス!自分が仕える国の王女ぐらい見分けてよね!」


「ほっかむりしてマスクした埃まみれじゃ見分けつきませんよ!」


「醸し出す気品でわかるでしょ!普通!」


「気品のある人は、人の分の焼き菓子までガツガツ食べません」


くれたんだから貰ってもいいじゃん。


トトンの実が高級品じゃない時代しか知らないアンタにゃ私の渇望わかんないよ!


小ウルサいオッサンは無視してリリスの手元を覗き込む。


「あれ?それ…」


「ああ、こんな所に有ったんですね」


まだ梱包の紙が残るそれをクールべが持ち上げ全ての紙を取り去る。


現れたのは二枚の絵。


それぞれに描かれた男は二人共王冠を被っている。


「『聖王』と『血まみれ王』の肖像画ですね。50年前の城の改修工事の時行方不明になったんですよ」


「それってもしかしてオリジナル?」


「そうですよ」


『聖王』は有名で人気があるから星の数ほど絵が何枚も出回ってるし、『血まみれ王』は私の部屋にも絵を飾ってる。


でもこの二枚の絵は見慣れた二人の姿とは雰囲気が違う。


「『聖王』ってこんな怖そうなお顔されてたんですか?」


リリスの戸惑いはもっともだ。


よくある『聖王』の絵ってどれも何か偉いお坊さんみたいな表情してるんだよね。


薄い微笑みを浮かべた悟りきったような浮き世離れした表情。


でもこの本人を実際に見て描かれたであろう絵画は、怒り狂い苦痛に満ちた表情をしてる。


歳を取っていても見覚えのある顔立ちだけど、あの馬鹿のこんな表情記憶に無い。


別れの日の冷たい顔を除いて、いつも穏やかに笑っていた顔しか思い出せない。


あんまり王様の生活楽しく無かったのかな…?



「国王様の御先祖様の肖像画が行方不明になったなんて宰相のクールべ様もお咎めがあったんじゃ」


「50年前だよ…リリスは一体私を何歳だと思ってるの?」


『血まみれ王』の絵は……悲しそうにしてる。


伝え聞いた通りの厳めしい顔立ちなのにまるで取り残された子犬の表情だ。


「これ、も~らい!」


その切ない表情に思わず『血まみれ王』を抱え込んだ。


「駄目ですよあなたはまた勝手に!国の財産なんだから」


「王女の部屋に飾るんだから良いじやん!お父様にはチャンと言っとくも~ん」


ブツブツ言いながらもう一枚の絵をクールべは運んで行く。


「そっちの絵は南の使用人用のトイレが殺風景だから飾ったら華やかに…」


「…あなた本当に『聖王』嫌いですね…」


あったり前だぁ~!!

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