あなたの妄想、私の天然
薄笑いを浮かべそうになる口元をタルトを頬張る事で誤魔化す。
「エラータは花よりも実が好きだったんだね」
両側に座る男二人の引き吊った表情を気にする様子も見せず、ジーニアスはしつこく私に話し掛けてくる。
ああそうだよ!あたしゃトトンの実が大好物だ!
前世じゃ一度食べた味が忘れられなくて、トトンの花の季節にゃ満開の花をみてこれがみんな実をつけたら…なんて想像しながら涎をたらしたもんだ。
生まれ変わって良かった!と思う事のひとつにコレが食べられるってのがある。
何がそんなに楽しいのかクスクス笑い声を立てるジーニアス。
てめえは妄想の餌食になってろ!
母上、もっと頑張って!
「やはりエラータ王女は可愛い方だ」
え~と…私『可愛い』なんて言われる行動なんかしましたっけ?
「イバネス王、先日の話はもうエラータ王女に伝えて頂いたのでしょうか?」
「いや、なにぶん急な話なのでね。お互いにもっとよく知ってからの方が良いと考えていた。この茶会に君を招いたのは、君自身にももう一度エラータに接してよく考え直して貰うためだ」
何故私の名前が出てくる?
「たった一度だけの出会いでの申し込みは、確かに父親として不安を覚えられるでしょう。ですが私の思いに揺らぎはありません」
ジーニアスの言葉に父上は考え深げに顎髭を触る。
「エラータ、実はな…」
「イバネス王、私から伝えさせて下さい」
父上が私に何か言いかけたのを遮ってジーニアスが私を見る。
「エラータ王女、私の妻になってくれないか?」
「嫌です」
王族同士の結婚というものは本人達の感情よりも国同士の利害が絡んでくる。
だからジーニアスも色々計算して私との結婚の申し込みをしてるんだろうけど…。
イヤイヤイヤイヤイヤイヤ嫌!
おっっっっっっことわりダ~!
「そんな!エバンス王子は確かにお世継ぎを残さなければいけないお立場ですけれど、真実の愛を捨てて子をもうける為だけに女を求めるなんて!」
母上ハッスル中。
「義務の為にイバネス国の王女を求めるのではありません。これからの人生を共に歩める女性はエラータ王女だと思ったからです」
「慣習に隷属するのですか!」
「フェリシアや…戻っておいで…」
疲れた顔で父上が母上を止める。
クールべも精神的疲労をその顔に浮かべながらも黙っている。
ふう、何を言い出すのかと思えば寄りによって結婚とはね。
迎撃用の武器(母上)仕込んでおいて良かったよ。
まあキッパリ断ったし、後は父上が上手くやってくれるでしょう。
残り少なくなったタルトを名残惜しくゆっくりと味わう私の耳に低い声が聞こえた。
「儚く散って二度と見る事さえ叶わないと思い込んでいた花が、永い時を経て美しい実を付けていたと知って、手を伸ばさずにいられる者が居るだろうか?」
いや、トトンの樹は毎年どっちゃり実を付けますが?
「自分勝手なのは百も承知だ。それでも誰にも渡したく無い」
えっ?独占!美味しい物はみんなで食べた方が……。
あっそうか、レデル国の料理不味いの?
だからこのトトンの実のタルトの美味しさに感動して?
まあコレ作った料理人は例のスブュータァにパイリ入れる頑固者だけど確かに腕は良いんだよね。
「絶対に国に連れ帰る…例えどんな手段を使っても…」
美味しい物を食べれ無い生活って結構不幸だよね。
同情した私は優しく王子を諫めた。
「まあそれは本人の意志を尊重してやって下さい。でも国を出て腕試ししたいって言ってるそうですから大喜びで付いて行くと思いますよ。『俺は生まれた国の城で一料理人として終わる男じゃ無い』とか言っちゃってるそうなので。あっ、でもアイツの作るスブュータァは何時もパイリの実が…」
「エラータ様、王子の仰っておられる事はそういった意味合いの事では無いのでは?」
クールべが更にゲッソリとしている。