援護射撃は腐臭を放つ
何でやねぇぇん???!!!
イバネス国の国王夫妻とその子供達&イバネス国の頭脳とよばれる宰相の集うお茶会に参加したがる奴は今までゴマンといた。
でも一度としてお客を招いた事は無い。
コレは外交だの政治だのは一切関係無い純粋な家族の団欒だからだ。
まあクールべも家族みたいなもんだし。
それなのに寄りによってアイツを呼ぶだとぉ!
何でだよ父上ぇぇ!
誰か私と一緒に反対してくれ!
あっそうだ、エバンス!あんた確かコミュニケーション取ろうとして拒否られたはず!
お姉様と一緒にアイツを撃退するのよ!
姉様はアイツが部屋に入って来たら椅子をぶん投げるから、あんたはテーブルを盾にして…って何頬を染めてるの?
「あの美しい方にまたお会い出来るのですか?」
何言ってんの?
あんたまさか…!
駄目よ駄目!あんたの恋する人なら姉様、相手が婆さんだろうがオッサンだろうが応援するけどアイツだけは駄目!
不吉なモノを感じるの!
あのゾワンとする感じ!
アイツ絶対死霊とかが取り憑いてるのよ!
アイツん家絶対身内が次々謎の死を遂げてる筈!
きっと裏でもとんでもなく悪い事をやってるに違いない!
あの眼は確実に3人は殺してるわね。
本能よ!本能が私にそう告げてるの!
可愛い弟をどうやって救い出すか悩んでいる内に部屋の外が騒がしくなって、やがて侍従に案内されてアイツが入って来た!
ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!
「娘と息子には先日会っているけど、妻には今日が初めてだね。妻のフェリシアだ」
家族団欒に水を差した男はニコニコと笑い母上の手に口付けた。
「レデル国の王子ジーニアスです。お見知り置きを」
母上を見れば少女のように頬を薔薇色に染めている。
わぁ、さすが母と息子おんなじ反応☆
なんて言ってる場合じゃ無い!
なんとかしなきゃ…そうだ!
私の灰色の脳細胞が冴え渡る。
よ~するに自分から「もう帰りたい(涙目)」って言わせればいいのね、グェへへ。
女の恐ろしさ骨の髄まで味あわせてやるわい。
ジーニアス王子が母上に挨拶を終えると私達はまた席につく。
例え家族団欒のお茶会だとしても他人、増してや隣国の王子が参加するとなるとそれなりの礼儀作法が求められる。
その最たるものが席順だ。
国王とその正妃、世継ぎの王子とその姉王女、宰相、そこに加わる隣国の世継ぎの王子。
この中で一番身分の高い国王とその妻が一番奥の席に並んで座るよね当然。
お客様であるジーニアス王子は父上(国王)の隣。
本来クールべ(一番身分が低い)が座る筈の席に私が腰を下ろすとクールべと眼が合った。
ニヤリ。
私の笑みにクールべが怪訝に眉を顰める。
可哀想だけどあんたには犠牲になってもらうわよ。円テーブルだからちょっと上手く行くか心配だったんだけど、5人が気取らず使う為のテーブルだから余り大きく無いのが幸いした。
ジーニアス王子の隣に座るのはクールべ。
超絶美形王子とイケメン宰相が肩が触れそうなほど近づいて並んで座ってる…母上の眼がギラリと光った。
仕込みはバッチリだぜ!ヒィヒャハハハハハハァ!
侍女のリリスが言ってた。
「我々は岩と砂があれば妄想を始めるのです」と。
今リリスに借りてる本、読み終わったら母上に貸してあげてもいいか訊いてみよう。
「おくつろぎの所、ご無理を言いまして」
分かってるならちっとは遠慮しろ!
「構わないさ、君は同盟国の王子というだけで無く私の甥でもある」
そう言えばそうだったコイツと私は従兄弟同士………オェ。
「君の母上が亡くなっても君は私達と同じ聖王の末裔である事に変わりは無い。これからはもっと頻繁に我が国を訪れて欲しいね」
もっとうち(イバネス国)に来いだの聖王(裏切り者の馬鹿勇者)の末裔だの私をムカつかせるキーワードが並ぶ。
「そうですね、この国がこんなにも素晴らしい国だと知って、どうしてもっと早く訪れなかったのかと悔やみました」
来るな、引きこもってろ。
用意した兵器を作動させるタイミングを待ちながら、私はトトンの実のタルトに集中した。
「美味しそうに食べるんだね」
不意にかけられた言葉に顔を上げると乱入王子が私を見ていた。
見るな、タルトが減る。
「娘はとってもこのタルトが好きなのよ」
「コレはトトンの実を使ったタルトですね」
「今年は豊作だと話していた所だよ」
そうお前が来るまで楽しく会話してました。
「昔は余り収穫量が上がらない作物だった…と聴きました」
「らしいね。昔は実付きの悪い樹木で、庶民の口にはめったに入らなかったそうだね」
そう、このトトンの実って前世ではかなりの高級食材だったんだよね。
私一度だけ口に出来る機会が有ったんだけどこの世にこんな美味しい物が存在するのか!ってビックリしたよ。
例の『血まみれ王』の時代に品種改良が進んで誰でも食べられる食材になったんだよね。
「実は滅多に食べる機会はなかったけれど花は身近だったそうです。花は美しく咲き誇っても実を結ぶ事無く、儚く散る様が人々の心を捕らえたのでしょうね」
「花言葉の初恋はピッタリのイメージね」
キタ―!!!!!
「初恋なんて初々しいイメージよりも、実を結ばないと知りながらもその美しさに魅入られる『禁断の恋』の方が相応しいのでは?」
私の押したスイッチにイバネス国王妃フェリシア・エル・ドゥ・イバネス(38)の瞳が輝き出す。
「それまでどんな女達も捕らえる事の出来なかった彼が魅入られたのは決して愛してはならない美しい人…実を結ばない関係に周囲は彼らを引き裂こうと…でも二人の愛はより一層…嗚呼ああ」
垂れ流され出した妄想に空気が澱んでゆく。
母上、私はあなたを今日ほど頼もしいと感じた事は有りません。
 




