美顔器と腫れた顔
「あーごめんなさい
さっき間違えてさぁ」
「見てましたよ(笑)ふふっ」
そうやって笑うミクはあまりかわいくなかった
この話をしたら女性陣には顰蹙を買うだろう
スカウトはほぼ顔でランクを決める
声をかけるのはランク1でも100でも。だ
それでも自分の財布に入るのだから当然高ランクが欲しい
言い方は悪いがミクはハズレだ
「んーとっ立ち話もなんだから
ファミレスでも行こうか?」
「はい!」
…元気は良い子だな
ファミレスに着くとユウは具体的な仕事の話をした
自分が持っている店の紹介を手帳から
いかにハズレでも真摯に対応することは大事だ
ランクに差があっても金になればいい
ミクは真剣に聞いてくれた
とりあえずは体験したいという理由だった
「でもキャバクラは嫌なんです
どうしたら良いでしょうか?」
「あとピンサロしか無いよ?
でも体験入店ならキャバが普通だよね」
ミクは少し考えた様子で言い切った
「じゃあピンサロで!」
…おお!マジかよ…
声に出したか出してないかわからないが顔には出ただろうほど驚愕した
まさかの展開である
ミクは19歳フリーターだった、年齢はクリアー
キャバよりはピンサロがこっちも都合が良い
でも未体験の女の子がなぜ?
気になった
客との深い話は良くないのは承知
でも気になったんだ
「なんでそこまで金が必要?」
「…うち騙されやすくて」
そう話し出したミクが語ったのはキャッチセールス
相当悪質だった、それはもう悪質
美顔器とスポンジのセットが50万、そのまま借金になった
美顔器の効果はあるらしい
…そ、そうですか
だから後悔は無いが高い、そりゃそうだ
「なんでキャバクラは嫌なの?」
なんとなくわかっていたけど聞いた
「働いてる子みんな綺麗でしょ?
私なんかじゃ…バカにされるし」
想定内ど真ん中の回答
こんな女の子は多い
「じゃあ、明後日美容院行こうか!
俺が出してやるし知り合いのとこで」
「え!?良いんですか?でもなんで…」
「伸びっぱなしは良く無いよ!
ピンサロだって見た目は大事なんだ」
ミクは髪を触り考えた
それでも久しぶりの美容院に嬉しかったのか笑った
そのままメールで美容院を予約し決定
メシをおごりそのまま帰らした、電車賃も出す
いつのまにか時間は21時
ユウはいつものスロット店に戻る
撃沈したコウタは居ない
見渡すと中々の出玉だった
翌日は大きなイベントが控えているのに?
下見は大事である
スロットは店選びで勝率が大きく変わる
ダメな店にいてはダメだ
運の要素は確実にあるが
それをどこまで薄めれるかは大事なこと
労力を惜しまない奴が最後は勝つ
もしかしてどの業界も同じかもしれないが…
店内を周りメモを取る
何台かアタリを付けてその日は帰宅
イベントの日の朝は早い
ユウは部屋で数人に連絡をして
また長い闘いの後に眠りにつく
その日の夢は美顔器を使ったら老けるという夢だった
………
ジリリリ!!!!
目覚まし時計が鳴る、5時
全然寝れてないがユウは朝に強い
メールを確認すると二人バイトを追加できた
自分とコウタを含めると四人体制
もし三人閉店まで雇い続けたら時給だけで13000×3
それでもお構いなしだ
シャワーを浴びて朝なので少し厚手の服を着る
最近スーツばかりなので私服がすごい楽に感じる
スロ屋がイベントの日はスカウトはしない
スーツやキレイ目な服でいる必要が無い
仕事の日であり休日のようなイベントデー
気合を入れるためユウは栄養ドリンクを飲んで部屋を出た
パチンコ屋の開店は10時(地域差アリ)
なので6時は早すぎるのではないか?
そう思った方も多いと思うが実はそうでもない
すごい店になると前夜の閉店から並ぶとこもあった
それぐらいに朝イチの恩恵は大きいと言えた
ユウも朝から並ぶ、なるべく早く入りたいからに他ならない
現地に辿り着くとすでに数名の客が並んでいる
コウタとほぼ同時に着いたので話しながら残りの2人を待った
…遅い
ユウ達の後ろに十数人並んでいる
約束の時間から一時間が経つ頃2人は到着した
そのままニコニコと列に入ろうとしたので手で制す
「後ろに行け」
ユウの言葉に2人は驚いた様子で渋々後ろに並んだ
態度が気に入らなかったユウは2人のとこに歩き出す
「おめーら謝りもしないでなんだ?
何時って言ったよ?何時なんだよ!
今何時なんだコラァ!」
そう言い始めると徐々にヒートアップして片方を殴り始めた
蹴飛ばす、殴る、掴んで投げ飛ばす
殴られて無いほうが「すいません」と謝り停める
ターゲットが変わって今度はそちらが蹴飛ばされる
異変に気付いたコウタが間に入る
「ストップ!ストップ!
ちょっとユウさん落ち着いて」
荒い息になったユウはうずくまる2人を見下ろす
少し落ちついた様子でコウタの手をどけると2人に近づいた
「お前らさ
そんなんだから仕事バックレんだろ?
収入の無い可哀想なてめーらに手差し伸べてんだよ
人の好意だけはちゃんと受け取れよ」
どうやら2人は元同僚のようだった
「今日は帰れよ、邪魔だからよ」
………
「帰れってんだよ!」
「は、はい!」
2人は腫れて鼻血の出た顔で駅に歩いていった
「良いこと言うけどやり過ぎっすよ?」
「…はい」
落ち着いたからか後輩になだめられて反省する
「警察来たらどうすんすか!?」
「…はい」
元居た場所でショボンと座るユウ
コウタのお説教は開店まで続いた
どうやら警察は来ないようで2人は安心した