バニラアイス
ユウは一時期お香にハマった
特に甘い香りを好んで焚いた
今は玄関先だけにつく残り香
食事の際に常に甘い匂いがするのが嫌になってやめた
ある日の話
仕事帰りにバニラアイスを買って戻ると
3階に着いた時点でバニラの香りが匂ってきた
思わず自分のコンビニ袋を確認したほどの異臭、いや好きな匂いだが…
原因が自分の部屋だとすぐ気づく
申し訳なかった、しかしどうにもならない
回した頭で出た結論が消臭剤
同じフロアの他の四部屋に消臭剤を謝罪ついでにお裾分け
気の良い住民達は皆許してくれた
そして収穫
304号に住むユウは同じフロアの住民の顔を知らなかった
タイミングが合わなかったせいかどうかはともかく
302号室には綺麗なお姉さんがいることを知れた
これが収穫
男はこんなことで幸せになれるバカな生き物だ
そしてこの女性とまさかの一波乱あるとこの頃は思わなかった
部屋に着いたユウはベッドの上にジャケットを投げる
部屋では部屋着を着るのがコダワリ
ジャージ姿になるとテレビをつける
時刻は0時になった頃
その日のスロットの収支をまた手帳に書き込む
ユウはメモ中毒なのかもしれない
仕事用にはGUCCIの手帳、スロット用に無印良品のメモ帳
書き込まれた5月14日の120000円のプラス額
五ヶ月間でのトータルプラス額が200万に到達していた
と、言っても全額残るわけでは無い
家賃は11万するし生活費もある
スカウトは時に担当する女の子のケアもする
客に金を払わせるわけにはいかないのだ
焼肉、酒、メシ
貯金は10万出来れば最低限と決めた
…疲れた、今日はもう寝よう
風呂にも入らずそのまま横になる
ここから寝付きが悪い
二時間はこのままだろうことを知ってる
テレビを消すと暗闇に時計の針の音がする
カチッ…カチ…
すごく嫌いな時間
寝れない時は考え事をすることが多かった
医者に言わせればそれがダメらしい
考えるのをやめるってどうやって?
…
無限とも思える時間
夢と考え事の境界線が怪しくなる頃寝ているようだ
夢は毎日のように見る
妙に現実感があって手触りの感触
でも現実起こり得ないようなのが夢の世界
この日は餃子の皮に巻かれて焼かれる夢を見た
………
チュンチュン
予定が無いので寝れるだけ寝た
餃子になった夢を見たわけが
コタツをつけて寝たせいかはわからない
時間は10時を過ぎたあたり
…今日はスカウトするか
完全歩合のスカウト業
ユウの働く会社は出社義務が無かった
基本給が無いのでフレックスに動ける
スロプロと兼務出来るなんてこれくらいだろう
投げっ放しのスーツに着替える
ユウが紹介出来るのは先のピンサロとキャバクラ一件
もし他の希望がある女の子を見つけたら上司に報告しなければならない
家を出るとようやく暖かくなってきた感じの陽気
しかし平日昼時の池袋は少しスカウトには荷が重い
ターゲットがなかなか見つからないのだ
そんな時は決まってユウは漫画喫茶に行った
駅北口の漫画喫茶に入店
「5時間パックで」
店員とのいつものやり取りを終えて個室に向かう
途中何冊かマンガを持って部屋に入る
リクライニングのシートに座りパソコンをつけた
検索サイトから出会い系サイトに辿り着く
そして書き込みをパララと読んでから自ら書き込む
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そのような書き込みをしたらマンガを読む
ユウはマンガ好きでもある
リアルなストーリーが好きだった
恋愛モノならセックスシーンが無ければ読まない
キスで満足するような男は病気と考えた
人間にリアリティが無いのは面白くない
少年漫画でも少年誌の壁を攻める作者の姿勢が大事だった
一巻読んでチェック
また次読んでチェック
書き込みが消えた頃にまた書き込む
今でこそベタな業者の手法
ユウは少しだけ最先端で使っていた
そんなこんな釣り針に何人か掛かる
17じゃダメですか?ダメ
男はありますか?残念ホストは担当外
ダメだダメだダメだー
ほとんどダメなことが多かった
しかし
体験入店からでも良い?
良い!
すぐアドレスの交換をして待ち合わせを決める
出会い系サイトを使うとその日のうちに会えることが多かった
その後某SNSでやってたら強制退会させられたのはもう少し後の時代の話
待ち合わせは17時に決まる
パック料金が終わるまでは漫画喫茶にいたかった
もちろん出会い系サイトで仕事しつつのマンガタイム
商売と趣味を同時進行、最高の作戦
その後数件の約束を取り付け退店
なかなか出来が良かった
ユウはそのまま昨日のパチンコ屋に顔を出した
店内を見回るとイベント前日の割には出ていた
…あちゃー読み違え
とか考えているとコウタ発見
「なにやってんだ…お前…」
「うわぁぁん…ユウさん…クソ台がぁ」
どうやら昨日の給料で勝負したようだ
そして無くなった、と。
なんと可哀想な小動物
しかし肉食獣の餌になるのが宿命
「…明日はよろしくな」
それだけ言い残して違うホールも回るため移動
情報収集は自分の目で
めんどくさくても勝つためには労を惜しまない
池袋を周り切った頃待ち合わせの時間になった
特に収穫なかったがいつもの事である
待ち合わせ場所は西武東口のとある場所
時間的に居てもおかしくなかった
その場所の目の前に女が立っていた
…間違いない
ユウは声をかけた
「ミクさんですよね?
ユウですこんばんは~」
「…違いますっ!」
違った
そそくさと歩いていく女性
あらら。と思っていると後ろから声をかけられた
「ユウさん?ミクです」
振り向くとミクが立っていた