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聴診器をラカの上半身の至る所に何度か押し当ててから、医者はジェームズの顔を見て、この上なく険しい顔をした。
「もう治らないみたいね私。一か月前から熱も咳も止まらないし。お医者さんの言う通り不治の病の一つ。コルカタ猛熱病みたいね。ジェームズおじいさんと一緒に旅や冒険に行ったときが、とっても懐かしい思い出になりそうだわ」
「そうかい? それは大変だね。咳くらいなら咳止めという薬があるんだよ」
「あ、お医者さんを変えてみようよ。きっと、違うことを言うわ」
「いやいや、ラカ。お医者さんは誰でも優秀なんだよ。たくさん勉強をしているからね」
ジェームズは、ベッドに横たわる真っ赤な顔の孫娘のラカの愚痴を窘めながら、軽い眩暈を覚えていた。何故かというと、コルカタ猛熱病とは、古くから悪魔の病気ともいわれているのだ。この病気にかかると、全員悲惨な末路を辿るのだそうだ。その病気がなぜ悪魔と呼ばれているのかというと、その症状にあるのだ。かなりの長期間に渡り、体内が高熱によって破壊されていくという恐ろしいものだった。そして、終いには高熱にうなされながら息の根が止まるという。なんとも、この世のものとは思えないほど身の毛がよだつ病だった。
ここは清涼な風しか通らない昼下がりの屋敷の小部屋だった。知らせを受けたジェームズは旅先からすぐに帰ってきて、その足でルコルベック家の屋敷へ急いで赴いたのだ。
それにジェームズには、心底不安でもあるが、決してそうはならないだろうと思っている心の部分もあった。いや、正確には記憶の部分だ。
ラカの決して治らない病。
コルカタ猛熱病は治るはずだった。
ジェームズには奥の手というものがあるのだ。そう、伝説が治ると言っているのだ。
少年時代からどんなものでも興味を持ち、色々な人から様々なことを耳にしているジェームズは、その中の一つの伝説で、八宝石というものがあった。多くの旅先でも決まって口々に旅人からいわれている八宝石伝説は、かなり奇妙で、また確信が持てるものだった。
「八宝石を全て手中に収めたもの。どんな願いも叶えてやろう」
今から100年前に日本という場所の海域にある無人島から、奇跡的に出土した石版にそう書かれていた。
石版は旅行船が難破した際に、乗組員の一人が偶然見つけ、それから不思議と帰還できた乗組員が、愚直にも会社へ届けてから、それからずっと後になって研究所へ運ばれた。
その後、石版はおおよそ100年もの間に様々な研究をなされ、しかも、でてきた事実は恐るべきものだった。石版は、今から8万年前に作られたオーパーツだとわかったのだ。書いた人はもはや人類ではないのだそうだ。
何故なら、書かれた石版の文字は現代のどんな言語にも対応できるシンプルな詩ような文字で書かれていたからだ。




