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わたしだけ、魔物じゃなくて【人間】を殺害しないと経験値をもらえないんですが?~『癒やし系大天使』とバズった幼女、実は配信の裏で『虐殺』しています~

作者: 北川ニキタ
掲載日:2026/02/07

 朝の光がレースのカーテン越しに差し込む。小鳥のさえずりと共に、わたしはパチリと目を開けた。   

 おはよう、世界。

 今日もわたしは「完璧な美少女」として、みんなにかわいいを届けなくちゃ。


「ん……ふぁ……」


 計算されたあくび。あどけなく目をこすりながら、ベッドの上でモゾモゾと動く。

 タイミングを見計らったかのように、控えめなノック音が響いた。


「おはようございます、アリスお嬢様」


 専属メイドのセーラが入室してくるなり、頬を紅潮させてため息をつく。


「まあ……! なんて愛らしい寝起き姿なのでしょう。まるで天使が羽を休めているかのようですわ!」


 えへへっ、とわたしは返事をしつつ、内心は「わたしが愛らしいのは当然だよね」ってところだ。

 それから着替えを済ませ、リビングへ。

 扉が開いた瞬間、待ち構えていた二つの影がわたしに殺到する。


「あああ! アリス! 私のかわいい天使、おはよう!」


「今日も世界一素敵よ、アリス! なんて愛おしいのかしら!」


 父様と母様だ。二人は左右から同時にわたしを抱きしめ、頬ずりをしてくる。

 わたしはあえてその腕の中で、とろけるような笑顔を見せる。


「おはようございます、お父様、お母様! えへへ、わたしもギュウッってされるの大好きです!」


「んぐふっ……!」


 両親が悶絶している。うんうん、チョロい。

 このクライネルト公爵家での「愛されポジション」を維持管理するのは、生存戦略の基本中の基本だからね。


 ダンスのレッスンでは、優雅なワルツを完璧に踊りこなす。


「素晴らしい……! 六歳にしてこの身のこなし、まさに妖精の再来ですわ!」


 刺繍の時間では、複雑な薔薇のグラデーションを一瞬で仕上げる。


「なんと……! 芸術の神に愛された申し子……!」


 歴史の講義では、大人が読む専門書の本質を一度で見抜く。


「神童だ、アリス様は間違いなく神童であらせられます!」


 鏡の中にいるのは、透き通るような錦糸のような髪をきらめかせ、宝石のような瞳を輝かせる、極上の美少女。

 ただそこにいるだけで周囲の人間を虜にする、凶悪なまでの「かわいさ」。


 わたし――アリス・フォン・クライネルト、六歳。

 わたしは、世界でもっとも完璧でかわいい女の子だ。

 


                  ◇



【本日のアリス様を見守るスレ Part4】


254 名無しのダイバー

うわああああ尊い!

今、アリスちゃんがクッキー食べる時に口元隠したぞ!

育ちの良さが滲み出てる!


255 名無しのダイバー

マジで天使。この子を見るためだけに、俺は毎日この配信を見てる

現実の辛い仕事も、アリス様の笑顔があれば乗り切れるわ


256 名無しのダイバー

セーラさんの視線が、常にアリス様を追ってるのが笑うwww

セーラさん、この子のこと好きすぎだろwww


257 名無しのダイバー

お、アリス様がお父様のところへ。「公爵家の娘として街をみて勉強したい」だってさ

健気すぎて泣ける

はじめてのおつかいクルーーー!?


258 名無しのダイバー

おいおい大丈夫か? 街中だと、スリとか酔っ払いとかのイベント起きるぞ

アリス様に指一本でも触れたら、俺が画面越しに呪うからな


259 名無しのダイバー

大丈夫だろ

護衛の騎士たちがガチ勢すぎる

それにしても、あんな華奢な子が街中を歩くなんて……想像すぎるだけでかわいいすぎる

みんな、全力で見守るぞ!



                  ◇



 領都オーベニール。

 馬車から降りたわたしを包み込んだのは、市場の熱気と喧騒だった。


「わぁ……っ! すごい! セーラ、見て見て! 人がいっぱい!」


 わたしはセーラの手を引いて、はしゃいだ声を上げる。

 その無邪気な姿に、護衛の騎士たちも目を細めている。


 けれど。

 わたしの視線は、カラフルな露店に向けられているわけではなかった。

 わたしが探しているのは、この平和な光景に紛れ込んだ「獲物」だ。


 ――見つけた。


 大道芸の人だかりの中、明らかに芸ではなく、着飾った商人の懐を狙っている男たちがいる。

 わたしの「勘」が、あれはクロだと告げていた。


 ドンッ、と混雑で人波が揺れた瞬間。

 わたしはまるで手品のように手首を返し、セーラの拘束からスルリと抜け出した。


「えっ……アリス、お嬢様……!?」


 セーラの悲鳴を背に、わたしは雑踏の隙間を縫うように移動し、光の届かない路地裏へと滑り込んだ。


 そこは、腐った生ゴミと鉄錆の匂いが漂う、冷たい闇。


「……さてと」


 わたしはスカートの埃を払い、誰もいない路地裏で、ニヤリと唇を吊り上げた。

 天使の仮面を外し、冷徹な捕食者の顔を覗かせる。


 ――カツ、カツ、カツ。


 足音が二つ。

 入り口の方から、光を遮るようにして二つの影が伸びてくる。


「おやおや? こんな汚い場所に、随分と可愛らしいお人形さんが迷い込んだもんだなぁ」


「へへっ、お嬢ちゃん。パパとママとはぐれちまったのかい?」


 現れたのは、予想通りのチンピラたちだった。ナイフを持った痩せ男と、ニヤニヤ笑う小太りの男。  わたしは、あえて少しだけ体を震わせてみせる。


「……あ、あの、誰ですか? わたし、お家に帰りたいんですけれど……」


「ガハハ! 安心しな、おじさんたちが『いいところ』へ連れてってやるよ」


 男たちが、じりじりと間合いを詰めてくる。

 わたしは、スカートの隠しポケットに手を伸ばした。

 そこにあるのは、黒塗りのダガーナイフ。


「ねえ、おじさんたち」


 わたしは、にっこりと微笑んだ。

 それは、天使のように愛らしく、そして悪魔のように傲慢な笑みだった。


「アリスと遊んでくれるなんて、ありがとう」


 ヒュッ、と痩せ男がナイフを突き出してくる。

 遅い。あくびが出る。

 わたしは瞬きひとつせず、最小限の動きで切っ先を避けた。

 そのまま踏み込み、男の懐へ。


 ――ザリッ。


 すれ違いざま、手首の内側、橈骨動脈を一閃。


「あ……が……!?」


 鮮血が噴水のように吹き上がり、路地裏の壁を汚す。

 悲鳴を上げる暇も与えず、わたしは背後に回り込み、膝裏の腱を断ち切った。

 男の巨体が崩れ落ちる。


 これで、視線の高さが合ったね?


 わたしは躊躇なく、這いつくばる男の喉仏にダガーを突き立てた。


 ズプッ。


 気道と血管を同時に破壊する、慈悲の一撃。

 男はゴボゴボと赤い泡を吐き出し、痙攣して動かなくなった。


「ひ、ひぃぃ……ッ! な、なんだお前! なんなんだよぉ!」


 もう一人の男が、腰を抜かして後ずさりをする。

 わたしは血のついたダガーを軽く振り払い、とろけるような視線で彼を見つめた。


「ねえ、おじさん」


 わたしは血の海を歩き、彼に迫る。


「わたし、もっと強くなりたいの。だから……」


 逃げようとする男の背中に飛び乗り、頚椎の隙間へ刃を滑り込ませた。

 糸が切れたように、男が沈黙する。


 静かになった路地裏。

 足元には、二つの死体と、広がる血の海。

 わたしは自分の手を見つめた。小さくて、白くて、華奢な手が、今は赤黒く染まっている。

 不思議だ。手が震えていない。むしろ、深い達成感すらある。


「……んー?」


 わたしは血のついた頬を指先で拭いながら、困ったように小首を傾げた。


「もしかしてわたし、自分で思っている以上に……『殺しの才能』があったりするのかな?」


 だとしたら、ちょっと複雑。

 だって、こんなにかわいいわたしに、そんなかわいくない才能、似合わないなーって。


「――ステータス・オープン」


 そう口にすると、フォン、という電子音と共に、青い画面が展開される。



 名前:アリス・フォン・クライネルト

 レベル:27



 たった二人のチンピラを殺しただけで、もともとのレベル6から27に跳ね上がっていた。

 普通にモンスターを倒してコツコツ育てれば数年はかかる領域だ。

 わたしは、画面の下部に表示されている、禍々しい黒色のスキル欄をタップした。



【スキル:殺人鬼の加護】

・人間殺害時:獲得経験値増『極大』

・その他(魔物討伐・特訓等):獲得経験値0(無効)

※NEXT:あと8人殺害でレベルアップ



「……ははっ。本当、クソゲーだね」


 わたしは乾いた笑いを漏らした。

 すると、誰もいないはずの虚空から、ノイズ混じりのファンファーレが鳴り響いた。


『ぴんぽーん! おめでとうございまーす! 初キル、お見事でしたぁ!』


 空間が歪み、虹色に発光する小さな妖精が現れる。

 管理AIの端末、【ピュピュア】だ。

 愛らしい見た目に反して、その声はどこまでも人を小馬鹿にしている。


『いやぁ、最初は心配しましたよ? 温室育ちのお嬢様に、汚れ仕事ができるのかなーって。でも、杞憂でしたね! さすがは元・最強ゲーマー!』


「……うるさいわね。確認だけど、本当にこれ以外にレベルを上げる方法はないの?」


『はいっ! ございません!』


 ピュピュアは空中でくるりと一回転し、残酷なルールを嬉々として語りだした。


『現在、全人類一億人がこの仮想世界――『Gnosis Online』に閉じ込められています。ですがぁ……ここがゲームだと知っているのは、あなたを含む7人の【救世主】だけ! 他のみーんなは、記憶を封印されてます。ここを現実だと思い込み、本当の人生だと思って、泣いたり笑ったりして暮らしてるんですよぉ。滑稽ですよねぇ!』


 そう。それがこのゲームの最も悪趣味な点だ。

 父様も、母様も、セーラも。

 みんな、自分がゲームのプレイヤーだなんて露知らず、この世界を現実だと勘違いしながら必死に生きている。

 わたしは、そんな「善良な一般市民」を殺さなければ、強くなれない。


「……で、クリア条件は『ラスボス』の討伐、だったわよね」


『その通りでーす! この広大な世界のどこかにいるラスボスを倒せば、ゲームクリア! 全プレイヤーがログアウトできます!


『で・す・が!』とピュピュアは大仰に付け足す。


『もしアリス様たち救世主が全滅しちゃったら、即ゲームオーバー! 連帯責任で一億人全員の脳みそを焼き切って本当の意味で殺しちゃいまーす♡』


 理不尽極まりない。

 わたしが「いい子」でいようとして、誰一人殺さずにレベル1のままでいれば、逆立ちしてもラスボスとやらを倒せない。

 そうなれば、世界は終わる。

 つまり、一億人を救うためには、わたしは殺人鬼となって、殺してレベルを上げ続けるしかない。


『まあ、でも……気にする必要ないと思いますけどね―。アリス様に殺された人間は、通常通りログアウトされて、現実の世界に戻るだけでからねー』


 人の心を読んだかのようにおちょくるピュピュアを尻目に、わたしは覚悟を決めた・


「……やるしかない、か」


 わたしは、宙に浮くピュピュアに向かって、ニヤリと唇を吊り上げた。


「……そのラスボスとやらをぶっ飛ばして、このふざけたゲームを『クリア』してやる」


 そのためなら、誰であろうと殺してやる。

 鏡を見なくてもわかる。今のわたしは天使なんかじゃない。最高に性格の悪い、ゲーマーの顔をしているはずだ。


『きゃー! 素敵! それでこそ救世主様ですぅ!』


 ピュピュアの拍手を背に、わたしの瞳が冷たく光った。

 せっかくだし、効率よく、確実に、最強を目指そう。


 さあ、次は誰を「食べて」あげようかな?

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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