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もぐら國王傳

〈湯氣立てる如く血圧上がりけり 涙次〉



(私の大事なキャラクターの一人、* 怪盗もぐら國王を新シリーズになつてから取り上げてゐない事に氣付いた。ので、今回はもぐら國王の半生を。カンテラもじろさん・テオも出て來ません。)



* 前シリーズ第184話參照。



【ⅰ】


歳末である。人は一年を振り返る。だが、ともすればその枠を大きく外れ、自分の半生を回顧してしまふ事もある。怪盗もぐら國王も、己れの生きて來た道を叛芻してゐた。彼は元より大土龍の正體を持つ者ではなく、人間・杉下要藏として生を享けた。月足らずで産まれ、未熟児だつた。それが長じてこんな巨漢に育つとは、その頃誰に想像出來たらう。要藏は子供の頃、友逹と外で遊ぶ事より、一人で家に籠つて空想の儘に繪を描く事が好きだつた。土龍の繪も良く描いた。だが、彼は本物の土龍と云ふ物を見た事がなかつたので、想像を膨らませ、何やら土龍じみた何物かを描いてゐるに過ぎなかつた。それは怪獸であり、妖魔であつたかも知れない。



【ⅱ】


父親はフリーランスの建築設計士だつた。所謂「中流」以上の家庭に要藏は育つた。泥棒となつた今でも、國王の挙措に或る種の品の良さがあるのは、そのせゐだつたかも知れぬ。母は専業主婦だつた。要藏の世話を何くれとなく焼いてくれたが、中學校に進むと特に理由もなく要藏は「グレ」た。煙草の味を覺え、自分の弱さを隠す為、不良(當時はツッパリと云つた)グループに身を投じた。指の曲がつた少年- 万引き置き引きカツアゲ。小遣ひ錢を稼ぐ為なら何でもした。父親にはとうに見放されてゐて、彼にカネを渡すのを已めたからだ。



【ⅲ】


高校は中級以上の偏差値の學校に入つたが、彼の存在は浮いてゐて、直ぐに辞めてしまつた。この頃からである、大土龍の活躍(暗躍)するノワールな夢を見るやうになつたのは。アルバイト先は轉々と變へた。彼には最早自棄の道しか殘されてゐないかに見えた。グループの皆の家は、大體自営業を営んでゐた。何となく家業の手傳ひをして、彼らは仕事に馴染んだ。要藏には、父親の跡を嗣ぐには學歴が必要だつたのである。それはもう無理であつた。或る時、バイト先で置き引き事件を起こして、それは警察には未成年・初犯と云ふ事で大目に見て貰へたのだが、彼はそれをいゝ事に、惡事を重ねた。そして夜中、万引きした店から自轉車で逃走した- その事が彼の人生を大きく變へた。



※※※※


〈無為の日があからさまなる夜明け頃冷茶を飲めば震へが來たり 平手みき〉



【ⅳ】


自轉車は猛スピードで突つ込んで來たクルマと正面衝突、自轉車は大破し、要藏は生死の境を彷徨つた。色々な登場人物が彼の無意識下に出て來たが、もつと大事な事があつた。さう、幻想の大土龍と彼が、一體化したその脊景には、この臨死體驗があつたのである。奇蹟的に一命を取り留めた後は、家を出て、ひたすら盗みを本業とした。こゝに怪盗もぐら國王の誕生となつた譯。



【ⅴ】


泥棒業は一貫して我流を貫き通した。誰に教はると云ふ事なく、己れのイマジネイションに從つて動いた。大土龍となつてトンネルを掘り、後は人間としての巨體を生かした荒仕事。赤外線警報装置も全く無視。事が終はつたらさつさとトンネル傳ひにとんずら、と云ふ彼の盗みの様式美は、若くからのものだつた。



【ⅵ】


その内、中目朱那との運命的な出會ひがあり、彼の人生は彼が惡漢である事のアピール(それは彼のセックスアピールに似たものである)と化した...



【ⅶ】


「かう寒いと、* VMAXに乘る氣も起きねーな」-「あら、冬のツーリングこそバイクの醍醐味だつて聞いたけど」。今では一流の調度品に囲まれた「もぐら御殿」に巢喰ふ彼と朱那。其処に至る迄の道程は、陳腐であつたかも知れないが、以上ざつとこんなところである。臨死體驗を持つた事が、彼の轉機であつた。蘇つた彼こそが、「怪盗もぐら國王」の名を名乘るに相應しい。これも神祕と云へば、神祕。この『カンテラ物語』の1エピソオドとしては、過不足なからう。お仕舞ひ。



* 前シリーズ第37話參照。



※※※※


〈小掃除をするに留める年用意 涙次〉


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