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短編集

大好きなママ

作者:

今日は学校で「勤労感謝の日」の作文を書いた。先生が、「いつも働いてくれている人に、ありがとうを伝えましょう」と言ったから、私もその言葉を思いながら書いた。


帰ったら、いつもよりママが遅かった。冷蔵庫に貼ってあったメモを見ると、『今日は少し遅くなるから、先にお風呂に入ってね。ご飯は炊飯器の中だよ。ママ』って書いてあった。


私はため息をついた。ママはスーパーでレジをしている。毎日朝早く出て、夜遅く帰ってくる。休みの日も、疲れてすぐ寝ちゃう。私は一人でお風呂に入った。お湯に浸かりながら、今日書いた作文を思い出していた。


『私の大好きなお母さんは、毎日とても疲れて帰ってきます。でも、私のために笑ってくれます。だから、私もお母さんが笑ってくれるように頑張りたいです。いつもありがとうございます。』


最後に「大好きだよ」って書きたかったけど、恥ずかしくて書けなかった。どうしても照れちゃって、でも本当はそう思ってるのに。


お風呂から上がると、玄関の鍵が開く音がした。「ただいま、綾ちゃん」ママの声が、いつもより小さく聞こえた。私は急いで玄関に走った。ママがコートを脱ぎながら、足を引きずって歩いている。


「ママ、どうしたの?」


「ちょっとね、立ち仕事で足が痛くなっちゃって。」


ママは笑ってたけど、目が赤かった。泣いた後みたいだった。私は黙ってママの手を引いて、リビングに連れて行った。ソファに座らせてから、自分の部屋から作文を持ってきて差し出した。


「これ、今日書いたの。」


ママは不思議そうに顔をしかめながらも受け取って、読み始めた。だんだん目が潤んできて、私の心も何だかあったかくなった。


「……綾ちゃん」


ママが立ち上がって、私を強く抱きしめた。ちょっと痛いくらいに。


「ごめんね、いつも遅くなって。」


「ううん、私、ママが大好きだから。」


私はママの背中に顔を埋めて、安心した。ママの匂い、ちょっと疲れた匂いもしたけど、それが私にとってはすごく安心する匂いだった。


「今日は、私がママの足を揉んであげる。」


私はママを寝室に連れて行って、ベッドに寝かせた。ママの足をそっと持ち上げる。小学生の私の手じゃ上手く揉めないけど、一生懸命に押した。ママがくすぐったそうに笑った。


「綾ちゃん、ありがとう。本当に……ありがとう。」


その夜、私はママの隣で寝た。ママはすぐに寝息を立て始めた。私はママの髪をそっと撫でた。ママが働いてくれるから、私たちは一緒にいられる。それが私にとっては一番の幸せだと思う。


「おやすみなさい、私の大切な人。」


私はママの手を握ったまま、眠りに落ちた。


いつも、ありがとう。

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