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第9話 現実の中の異変

 茜は現実世界に戻ってきた。目の前にはいつもの教室、聞こえてくるのは級友たちの笑い声や授業の合間の談笑。しかし、何かが違っているように感じた。自分の視点がわずかに変わったような感覚——そして、それを取り巻く視線。

 「ねえ茜、なんか雰囲気変わった?」

 クラスメイトの一人が不思議そうに声をかけてきた。他の生徒たちも、次々と似たような疑問を投げかける。

 「ちょっと締まったっていうか……鍛えてた?」  「いや、それだけじゃなくて、目つきが鋭くなった気がする」

 茜は動揺を悟られぬよう、なるべく自然に笑みを浮かべた。

 「最近、ちょっと運動するようにしただけだよ」

 そう言いながらも、心の中では冷や汗をかいていた。確かに修行を終えた後、自分の体は一回り引き締まり、霊力をまとったせいか雰囲気も変わってしまったのかもしれない。だが、それを普通の高校生活に馴染ませるのは簡単ではなかった。

 どうにか話を交わしながら、無難に一日を過ごす。そして、放課後——。

 茜は誰にも気づかれないように、静かに学校を後にし、御影の神社へ向かった。

 神社に足を踏み入れると、すでに御影が待っていた。彼の鋭い視線が、茜を捉える。

 「随分と変わったな、茜」

 御影の言葉は、確信に満ちていた。茜は驚きつつも、やはり彼には隠し通せないのかと悟った。

 「何が……変わったっていうの?」

 茜が問いかけると、御影は静かに目を細める。

 「霊力が、以前とは比べものにならないほど高まっている。おそらく、お前自身は完全に意識していないだろうが、力の質がまるで別物だ」

 彼の指摘に、茜は思わず息を呑む。

 「どうして……そんなことが分かるの?」

 御影は一瞬沈黙し、それからゆっくりと言葉を紡いだ。

 「俺も、普通の人間じゃないからな」

 茜の目が見開かれる。

 「御影……?」

 彼はふっと小さく笑い、それから神社の奥へと歩みを進めた。

 「お前に話しておくべきことがある」

 茜は彼の後を追った。境内の奥にある静かな社——そこに、御影は立ち止まる。

 「俺の家系は、代々この神社を守ってきた。そして、その役割は単なる神職ではない」

 彼の表情は真剣だった。

 「俺の一族は、八咫烏と深い関係がある。お前の家系ともな」

 茜は息を呑む。

 「私の……家系?」

 御影は静かに頷く。

 「お前の本当の姓は——『神宮じんぐう』。そして、俺は『御影みかげ』。この二つの家は、遥か昔から八咫烏を守り、時にその導きを受けてきた家系なんだ」

 茜はその言葉の重みを噛み締めるように、拳を握った。

 「私が……八咫烏と繋がっている?」

 御影は深く頷き、続けた。

 「俺の家系は、八咫烏と共に影なるものと戦い続けてきた。そして、お前の家系——神宮の血筋は、八咫烏の加護を受ける『守護の血』を持っている」

 茜の心の中で、これまでの出来事が繋がっていく。彼女が霊力を持ち、八咫烏と出会い、そして今、影なるものと対峙しようとしているのは、偶然ではなかったのだ。

 「だから、お前は選ばれた。お前の力は、決して偶然のものじゃない」

 御影の言葉は、茜の決意をさらに固めるものだった。

 「……ならば、私はその力を使って戦う。『守る力』として」

 茜の瞳には、揺るぎない光が宿っていた。

 御影は静かに目を閉じ、それを受け入れるように頷いた。

 「ならば、俺も共に戦おう。影なるものとの戦いは、もう始まっている」

 静寂の中、神社の灯火が静かに揺れていた。

翌日——。

 茜が学校で授業を受けている最中、突如として空気が変わった。窓の外に黒い影が蠢き、次の瞬間、ガラスが砕ける轟音が響く。

 「きゃああっ!」

 生徒たちが悲鳴を上げ、教室内は混乱に陥る。黒い霧のような影が床を這い、異形の姿が現れた。影なるものの先遣隊——。

 「来たか……!」

 茜は席を飛び出し、御影の教室へと走る。廊下の向こうで、すでに彼もこちらへ向かってきていた。二人は目で合図を交わし、臨戦態勢に入る。

 天井が震え、巨大な黒い翼が舞い降りた。

 「クロウ!」

 八咫烏の姿のクロウが、茜と御影の前に舞い降りる。

 「奴らを迎え撃つぞ!」

 激しい戦闘が始まる。影なるものは数を増し、学校の壁を破壊しながら迫る。茜は霊力の刃を展開し、御影も術を使って応戦する。

 そして、隊長格の影なるものが茜の前に立ちはだかる。巨大な黒い爪が茜を襲うが、彼女は間一髪で回避。しかし、防戦一方の状態が続く。

 ——負けられない。

茜は「守る力」の本質に気づいた。

 それは、ただ守ることではなく、「攻撃は最大の防御」であるという覚悟だった。

 彼女の霊力が刃の形を成し、蒼白く輝く。

 隊長格の影なるものが、黒い霧をまとった爪を振り下ろす。茜はその圧倒的な力に押され、必死に防戦する。しかし、ここで止まるわけにはいかない。

 「——この力を、ただの盾にするつもりはない!」

 彼女の声が響いた瞬間、刃がさらに輝きを増した。

 茜は刃を振るい、影なるものの爪を打ち砕く。怯んだ隊長格に向かい、瞬時に跳躍。そして——一閃。

 影なるものは咆哮を上げながら、闇へと消え去った。

 クロウと御影は驚愕の表情を浮かべる。

 「茜……お前の力は……」

 戦いの幕が、ついに上がった。


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