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第4話 修行の幕開け

 翌日、クロウは茜を連れて山奥の古い神社へと向かった。

 「ここは……?」

 苔むした石段を登り、茜は古びた鳥居をくぐった。神社は荒れ果て、祠の扉は朽ちかけていた。

 「ここで修行をする」

 クロウが言った。

 「お前の中に眠る力を引き出すには、時間がいる。禍との決戦までに、できるだけ鍛えなければならん」

 茜は深く息を吸い込んだ。

 「……やる」

 覚悟を決めた彼女の目は、燃えるように輝いていた。

茜の修行の日々は、想像を超える過酷なものだった。

 最初の一ヶ月は、ひたすら基礎体力を鍛え上げる期間だった。毎朝、日の出とともに起床し、険しい山道を駆け上がる。足場の悪い岩場を登り、急流の中で耐え、腕立て伏せ百回、腹筋二百回、スクワット三百回。最初は筋肉痛で身体を動かすのも困難だったが、次第に耐えられるようになっていった。

 二ヶ月目に入ると、クロウはさらに修行の強度を上げた。

 「ただの筋力では足りぬ。身体の限界を超えなければ、お前の力は目覚めない」

 そう言うと、彼は茜に枷を課した。両手首と足首に重りをつけ、山道を駆けさせる。さらに、背に薪を担がせて山を往復し、石を詰めた桶を持ち上げては運ばせた。手足の感覚が麻痺するほどの過酷な訓練だったが、茜は歯を食いしばって耐えた。

 やがて三ヶ月が過ぎた。

 彼女の体は見違えるほど引き締まり、動きのキレが増していった。走る速度も持久力も飛躍的に向上し、崖を登ることも容易になった。

 「よし、次の段階へ進むぞ」

 クロウの言葉に、茜は静かに頷いた。

 ここからは、単なる体力づくりではない。  彼女の内に眠る『力』を引き出すための修行が始まるのだ。

 新たな修行は、精神と肉体の調和を求めるものだった。

 クロウは茜を森の奥深くへと連れて行った。そこは人の気配が途絶えた静寂の世界。木々が生い茂り、鳥の囀りと風の音だけが響く。

 「ここで、お前の力を覚醒させるための修行を行う」

 クロウはそう言い、地面に円を描いた。その中心に茜を座らせると、彼女に目を閉じるよう指示した。

 「まずは内なる力を感じろ。心を静め、己の奥底に潜む力を探るのだ」

 茜は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。目を閉じると、森の音がより鮮明に聞こえた。風が木の葉を揺らし、小川のせせらぎが遠くで響く。そんな中、彼女は自分の内側へと意識を向けた。

 ——その時だった。

 暗闇の中に、何かが蠢く気配があった。

 「……これは……?」

 茜の意識の奥底で、何かが目を覚まそうとしていた。それは熱を持ち、脈打つように彼女の中で広がっていく。左手首の痣が鈍く光り、身体の奥底から力が滾る感覚があった。

 「焦るな。その力に呑まれるな」

 クロウの声が響く。しかし、茜の意識はその力に引き込まれていく。

 目の前に、影のようなものが現れた。烏の姿をした黒い炎が、彼女を見下ろしている。

 「——お前は誰だ?」

 茜が問いかけると、その影は不気味に蠢いた。そして、低い声で囁く。

 「我は、お前の中に眠るもの……」

 その瞬間、茜の視界が真っ白に染まった——。

 目を開けたとき、茜はまだ森の中にいた。

 しかし、何かが変わっていた。体の奥底に眠っていた力が、ゆっくりと目覚め始めたのを感じる。

 「これが……私の力……?」

 クロウは静かに頷いた。

 「これで第一段階の修行は終わった。次は、その力を制御する段階だ」

 茜は拳を握りしめ、強く頷いた。


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