第3話 禍との邂逅
その瞬間、境内の奥から闇が広がり、一つの人影が姿を現した。
「待っていたぞ——茜」
冷たい声が、境内に響いた。
茜はその声の主を見つめ、背筋が凍るのを感じた。
黒い衣を纏った男が、ゆっくりと近づいてくる。
「私が影なるものたちの主、禍だ」
クロウが羽を広げ、警戒の色を示す。
「ついに姿を現したか——」
禍は薄く笑い、茜に向かって手を差し伸べた。
「お前の力を見せてもらおうか」
茜とクロウは、ついに禍と対峙した。
禍は黒い衣を翻しながら、冷ややかな笑みを浮かべている。
「さあ、見せてもらおう。お前たちの力を」
次の瞬間、闇が波のように押し寄せた。禍の足元から黒い影が広がり、無数の手のようなものが伸びてくる。
クロウがすぐに羽を広げ、鋭い声で叫ぶ。
「茜、下がれ!」
しかし、茜はその場を動かなかった。左手首の痣が熱を帯び、彼女の意識が冴え渡る。
「……私は逃げない」
彼女は右手を前に突き出し、集中した。その瞬間、手のひらから光のようなものが放たれ、禍の影をかき消す。
「ほう……」
禍が興味深そうに目を細める。
「やはり、お前は覚醒しつつあるようだな」
クロウがすかさず空へ舞い上がり、鋭い爪で禍を襲う。しかし、禍は軽く手を動かすだけで闇を操り、クロウの攻撃を弾いた。
「まだ足りぬ……。お前たちは、この程度か?」
禍の声が響いた次の瞬間、茜の背後に闇の刃が出現する。
「……!」
クロウが間一髪で茜を弾き飛ばし、闇の刃が地面に突き刺さる。
禍は薄く笑いながら、ゆっくりと手を下ろした。
「まだ時は満ちていない。だが、すぐに分かるだろう……。お前が本当に守るべきものが何なのか」
その言葉とともに、禍の姿は闇へと溶けるように消えた。
静寂が戻る。
茜は拳を握りしめた。
「……逃げたの?」
クロウがゆっくりと降り立ち、鋭い眼差しを向ける。
「いや、やつはまだ余裕がある。次は本気で来るだろう」
茜は息を整えながら、禍の残した言葉を思い返す。
——お前が本当に守るべきもの。
それが何を意味するのか、彼女にはまだ分からなかった。
だが、次に禍と対峙するときが、決戦の時になる。
その確信だけが、茜の胸の奥で静かに響いていた。