第13話 揺れる想い
数ヶ月が経ち、茜が放課後に御影の神社へ通うことは、すっかり日常になっていた。
クロウによる訓練も、以前のように息を切らすことなくこなせるようになり、茜と御影は無意識のうちに動きを同調させ、完璧なコンビネーションを築きつつあった。
お互いの存在が、単なる戦いの相棒ではなく、深い信頼と強い絆で結ばれていることに、少しずつ気づき始める。
しかし、学校では依然として茜と御影の関係に興味を持つ同級生たちの好奇心が尽きることはなかった。
「茜ちゃん、御影先輩との仲はどこまで進んでるの?」
放課後の教室で、友人たちは楽しげに話を振ってくる。
「進むって……別にそういうのじゃないし。」
適当にあしらう茜だったが、実際のところ御影との時間が長くなるにつれ、彼の誠実さ、力強さ、深い思慮に心が惹かれている自分に気づき始めていた。
——そんなある日の放課後。
校門を出ようとした茜は、そこで待っていた御影と遭遇する。
「お前、いつも訓練ばかりじゃ息が詰まるだろ?」
茜の前に立った御影は、微かに笑みを浮かべながら言った。
「たまには甘いものでも食べさせてやるよ。」
「……えっ?」
突然の誘いに戸惑いながらも、どこか嬉しくなる茜。
二人は御影神社へ向かう途中のパーラーに立ち寄ることにした。
席に着くと、茜はメニューを見ながら真剣に悩み、やがて「スペシャルフルーツパフェ」を注文した。
大きなガラスの器にたっぷりの生クリームとアイス、そして色とりどりのフルーツが盛り付けられたパフェが運ばれてくると、茜の顔がぱっと明るくなる。
「わっ、すごい……!」
キラキラした目でパフェを見つめる茜。その無邪気な表情に、御影は思わず目を奪われた。
「……そんなに嬉しいか?」
「うん、美味しい!」
目の前のパフェに頬を緩ませながら、スプーンを口に運ぶ茜。その表情は、戦いに挑む厳しい姿とはまるで別人のようだった。
そんな茜の姿を見つめながら、御影は静かに思う。
戦いの場ではいつも真剣で、鋭い眼差しをしている茜。しかし、今目の前にいる彼女は、年相応のただの女子高生だった。
——こんなふうに笑っていられる時間を、ずっと守ってやりたい。
それがただの責務なのか、それとも別の感情なのか。
御影自身、はっきりとした答えを持っていなかった。
だが、この小さな存在が、確かに自分の中で大切なものになりつつあることだけは、はっきりと理解していた。
「この娘だけは、絶対に俺が守る——」
心の中でそう誓うと、御影は静かに微笑んだ。
そして、茜の無邪気な笑顔を前に、もう少しだけ、この穏やかな時間が続けばいいと思ったのだった——。
パーラーを後にした二人は、再び神社へ向かって歩き始める。
境内へ足を踏み入れると、そこにはクロウが待っていた。しかし、いつものような余裕のある表情ではなく、何やら難しそうな顔をしている。
「お前たち、この先どうするんだ?」
クロウは唐突に問いかけた。
「えっ?この先って?」
茜は疑問符を浮かべながら首を傾げる。
クロウはさも当然のように言った。
「お前たちが欠脈を繋いでいくのかということだ。」
その言葉を聞いた瞬間、茜の心臓が大きく跳ね上がる。
「……!」
クロウの視線は鋭く、何かを見定めるように二人を見つめていた。
茜は急激に顔が熱くなるのを感じた。隣に立つ御影をちらりと見ると、彼もまた表情を引き締めている。
その時——
茜の左手首が熱を帯び始めた。
「……っ!?」
焼け付くような熱。茜は思わず手首を押さえた。
(何かが……来る!)
胸騒ぎがする。直感がそう告げていた。
神社の境内に張り詰める異様な空気。
御影もまた、周囲を警戒するように霊力を研ぎ澄ませる。
そして——