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第12話 訓練と噂

 学校では、茜と御影が付き合っているという噂がすっかり定着していた。

「ねえねえ、やっぱり本当なの?」 「御影先輩と神社で何してるの?」 「まさか夜な夜なロマンチックな時間を……!」

 女子たちの好奇心は留まるところを知らず、茜はうんざりしていた。

 「……はぁ」

 肩を落としながらため息をつく茜を、友人たちはからかうような笑みで見つめている。だが、彼女たちが考えているような関係では決してない。確かに御影とは強い絆を感じている。だが、それは恋愛感情とは異なり、むしろ戦友としての深い信頼関係だった。

 「まぁ、別に否定しなくてもいっか?」

 面倒くさがりな茜は、あえて否定しないことで噂を鎮火させようとしたが、それが逆効果となり、周囲はますます確信を深めてしまった。

 「やっぱりそうなんだ!」  「お似合いじゃん!」

 誤解はますます広がるばかりだった。

 ——だが、そんなこととは関係なく、放課後にはいつも通りの訓練が待っていた。

 御影神社の境内に立つと、既に御影とクロウが待っていた。静寂な空気の中、クロウは不敵な笑みを浮かべる。

 「今日から訓練のレベルを引き上げるぞ。」

 クロウの言葉とともに、漆黒の影が空間を裂いて出現した。

 「……これは」

 現れたのは、これまでよりも遥かに強大な隊長格の影なるものの幻影だった。茜はすぐさま霊力の弾丸を放つ。しかし、影はそれを見切ったように身を翻し、軽々とかわした。

 「当たらない……!?」

 次の瞬間、影なるものが跳躍し、鋭い爪を振りかざす。茜は瞬時に霊力の大太刀を形成し迎え撃つ。しかし——

 「なっ!?」

 影の爪がまるで大太刀のように変化し、茜の刃と激しくぶつかり合った。火花が散り、衝撃で後方へと押し戻される。

 「……こんなの、今までなかった!」

 茜は歯を食いしばりながら、渾身の力を込めて霊力の大太刀を振るった。

 「これで……決める!!」

 乾坤一擲の一撃が影なるものの幻影を貫いた。刃が深々と突き刺さり、影が形を崩して霧散していく。

 「はぁ……はぁ……勝った……」

 膝に手をついて息を整えながら、茜は倒れた影を見つめた。

 一方、御影もまた、別の戦場で苦戦していた。

 無限に湧き出る影なるものの幻影が、これまでと違う動きを見せ始めていた。

 「……散開する?」

 これまでのように一斉に押し寄せるのではなく、影なるものたちは一点突破し、分裂しながら襲いかかってきた。御影はすぐさま霊力を降り注がせるが、動きの速さに対応しきれず、影のいくつかがすり抜けていく。

 「このままじゃ……間に合わない!」

 その時、クロウが静かに言葉を投げた。

 「ただ降らせるだけではダメだ。狙う場所を意識しろ。一点に集約し、そこから爆発的に広げるんだ。」

 御影はクロウの助言を受け、霊力の流れを変えた。今までのようにただ雨のように降り注がせるのではなく、一箇所に大きな霊力を凝縮させ、それを叩きつけるようにして攻撃範囲を拡散させる。

 「これなら……!」

 御影が放った巨大な霊力の奔流が、影なるものたちを飲み込み、一気に消滅させた。

 「やった……」

 息を整えながら、御影は自分の術が新たな段階へと進化したことを実感していた。

 クロウはそれを見届け、満足げに笑みをこぼす。

 「悪くない。確実に強くなっているな。」

 その瞬間、クロウの身体が揺らぎ、人間の姿へと変化した。

 「さて、仕上げといこうか。」

 そう言うと、クロウは鋭い眼差しで二人を見つめ、一気に間合いを詰めた。驚く間もなく、茜と御影に猛然と攻撃を仕掛ける。

 疲労困憊しているはずの二人だったが、日々の鍛錬で体力がついてきており、クロウの攻撃に何とか食らいついていく。しかし、いくら攻撃を繰り出してもクロウには決定打を与えられない。

 「お互いの呼吸を合わせろ!意識を同調させろ!!」

 クロウの叫びに、茜と御影は集中を高めていく。

 無意識のうちに、二人の動きがかみ合い始める。攻撃のタイミングが合い、まるで一つの意志を持つかのように連携が生まれていく。

 「今だ!!」

 渾身の一撃を二人が放った。

 クロウはそれを受け止めたものの、一歩後退し、目を見開く。

 「危なかった!あと少しで倒されるところだった!!」

 そう言って、大笑いするクロウ。

 そして、その場に力尽きて倒れ伏す茜と御影。

 クロウはその姿を見て、楽しげに笑うのだった。

 夜の静寂が神社を包み込み、茜と御影の訓練の日々は、また一つ新たな段階へと進んでいく——。


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