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Ep.1 序幕

初投稿です。対戦よろしくお願いします。

誰しも危機的な状況ってあると思う。

例えば毒キノコを間違って食べて死にかけたり、突然イノシシに突撃されたり、同じパーティーの仲間♀に夜這いをかけられたり、多種多様。だが、()()()()()()にいないとそんな目には遭わないだろう。まぁ先ほど挙げた例は全て彼女の体験談であるが。

しかし、そんな危機的状況の中でも特に、命に関わる場合がある。絶対絶命、死は今すぐそこに、みたいな状況。

それが彼女─工藤莉々夏の場合、間近に迫っていた。


「リリカは私が護る。貴様はそこで指でも咥えて見てろ」

「あ”ァ?引っ込むのはてめぇの方だ、クソ騎士!アタシの方がリリカを護れる!」

「痛い痛いいたいっ〜〜〜!!」


リリカは先刻から同じパーティーの仲間×2に両側から腕を思いっきり引っ張られていた。方や背の高い女騎士、方や女にしては筋骨隆々な戦士。そんな筋肉ダルマ共に引っ張られているリリカの細く白い腕はいい加減千切れそうである。


「リリカはアタシを選ぶよな!?こんなクソ騎士よりも!」

「リリカ、悪いことは言わないからコイツだけはやめておけ!」

「っ〜〜〜!!!!!あんたたちねぇ!!腕千切れちゃうからやめなさい!!」


何故ただの少女がこんな目に遭っているのか、それは半年前に遡る。




─半年前


「あなたは『WoQ(ウォーク)』最新作のモニターに選ばれましたぁ!?」


絶叫と共にリリカは手元の手紙とスマートフォンの画面を交互に睨めっこする。一応頬もつねってみたが、じんわりと痛みが伝わってきたことからリリカは今の状況が幻ではないと確信した。

『WoQ』─正式名称は『World of Quintia(クインティア)』。オープンワールドRPGに区分されるゲームで、ワールドの至るところにいるNPCを仲間にして五人のパーティ『クインテット』を組んで最終的にラスボスを倒すっていう超シンプルなゲームである。『仲間にする』っていうのは簡単に言うと『恋愛ゲーム』みたいなシステムで好感度をMAXにするとプレイアブルキャラとして入手できるというものだ。しかし、強いキャラだと中々上手く行くこともなく、難易度は激ムズである。人によっては一人の攻略に何ヶ月も要するほどだ。

しかし、このゲームにはその面倒さを差し置いてでもリリカが熱中する()()()()()があった。それは出てくるNPCが超イケメンなことである。

リリカは例の如く無類のイケメン好きであった。WoQの登場キャラたちは揃いも揃ってイケメン揃い。特に最強格である異名の付いた四人のNPC…『騎士』『傭兵』『大司祭』『天使』はイケメン揃いのWoQの中でも際立って見目美しい。

リリカも当然の如く、現行のWoQはしっかりこの四人をパーティーに入れ、冒険をしている。まぁそもそもエンドコンテンツはこの四人をどうにか攻略して何とか仲間にしないと詰んでしまうため攻略必須なのだが。しかしこのゲームに溺れるようにのめり込んだリリカはこの四人を最大値まで育成して約50万人いるWoQの全プレイヤーの中でトップのプレイヤースコアを叩き出した。所謂リリカは『トッププレイヤー』なのだった。

そして…このゲームはずっとリリカの大きな支えとなっていた。

現実で嫌なことがあってもWoQをプレイしている時間だけは忘れられた。WoQはリリカ人生の宝物であり、生きがいと言っても過言でないのである。だからWoQの最新作が出ると聞いた時は何よりも嬉しかったし、すぐにモニターに応募したほどである。

(今、私が見てるのは夢なんかじゃないんだ…)

差出人にWoQの制作会社『JOY ART』、受取人に工藤莉々夏と載った手紙を持っているのは紛れもない現実である、そう考えながらリリカは嬉しくて何度も何度も手紙を抱き締めた。


「今週の土曜日…JOY ARTの本社ビル、ね…」


手紙の中の概要に書かれてある時刻を確認しながら呟く。18時とちょっと遅い時間であるがリリカにとってはなんら問題のない時間であった。なぜなら、リリカの家族はリリカに無関心であるからだ。彼女の父親の再婚相手は彼女のことなんてちっとも目もくれず、また彼女の義妹も彼女のことを汚いモノのように扱ってきた。

(私の帰りが遅くたってラッキー程度に考えてるんだろうなぁ)

本当は夜通しプレイしたいリリカであったが、今回のお呼ばれはあくまで新作ゲームのモニターである。がっつりどっぷりプレイなんてできるはずもなく、せいぜい一、二時間遊んで帰るのが関の山だ。

(近くでご飯食べてカプホに泊まろ…お父さんもいないし、あんな家にいたって嫌な思いするだけだし)

リリカの父親は三ヶ月前から長期出張で不在であった。幸い、出張に行く前に十分にお金をリリカに与えたためリリカの懐は温まっている。多少無理をしても大丈夫だった。


(ちょっぴり楽しみになってきた…!)


彼女を取り巻く日常はとんでもなく最悪であるがこれからのことを考えると未来は明るい。

明日に備えてリリカは早めに眠ることにした。





「き、きた…!」


翌日。リリカは約束の地─JOY ARTの本社ビルを訪れていた。

(たっっっか!)

ビルの前に来てからというものの、リリカはビルの高さに圧倒されていた。雲をも突き破ってしまいそうな高さである。それもその筈、WoQは毎月のセルランに毎度顔を出しているのだ。それはそれはとんでもない額の儲けが出ているのだろう。でなかればこんな都会の一等地に高層ビルなんて建てられない。流石天下のJOY ART様である。

意を決してビルの内部へ入ると、そこには綺麗で洒落た内装がリリカを待ち受けていた。受付へ向かうと、綺麗な女の人がリリカの対応をしてくれた。


「あ、あの…モニターで応募してた工藤なんですケド…」

「工藤様ですね、お待ちしておりました。本日はお忙しい中、ありがとうございます。モニター室はこちらです。さぁ着いて来てください」


女性はにっこりと笑うとリリカを連れ、ビルの奥地へ足を進めた。床のしっとりとした絨毯が緊張しきってぎこちないリリカの足をぽすっと受け止めてくれたおかげがリリカは内心ほっとしながら女性の後に続いた。

(わぁ…すっご…)

ビルの内部はリリカのようなファンを泣かせたいのか『はじまりの街─アーバンブルク』からWoQの舞台である『魔法都市─マギアロン』の全体像が描かれたラフ画が名画のように額縁に飾られていた。リリカは不覚にも泣きそうになってしまう。

しかし不審にもそのラフ画の中にキャラクターデザインなどはなかった。キャラクターデザインの良さはリリカが思うWoQの一番のウリである。一体何故なのか。

そんな疑問を抱きつつ、リリカは最奥の部屋へ到着した。部屋には人一人がすっぽり寝られるサイズの棺桶上の箱と、頭に被せるようなヘッドギアが置いてあった。


「さ、最新作はヘッドギアなんですね…驚きました」


それもその筈である。従来のWoQは全て画面を見ながら手元のコントローラーを動かすことで操作する。思いがけないことにびっくりしながらリリカは女性に感想を伝えた。


「ええ。このヘッドギアはWoQの世界にどっぷり浸れるために精巧な作りをしていて…これを頭に装着するとゲーム内の自分のアバターと感覚が共有されるんです。つまり、視覚だけでなく、聴覚、触覚、嗅覚、味覚…文字通り五感で楽しめます」


とんとん、とヘッドギアの調子を確認しているのか本体を軽く叩きながら女性が説明する。リリカはまるで夢の機械みたいだ、とふといつか見た小説に重ねてしまった。だがすぐにリリカの中にある懸念が生まれた。

(いやでもあの小説はヘッドギアを付けた瞬間、そのゲームの世界に飛ばされて、出られないよう閉じ込められちゃったよね?いいや、でもそんなこと、現実で起こるわけないか)

ほんのちょっと浮かび上がった疑問をふるふるとかき消してリリカはまた女性の話へ耳を傾ける。使用方法などのレクチャーを十分ほど受けたあと、実際にヘッドギアを装着することになった。


「これを付けた瞬間ゲームが始まるんですか?」


ふと疑問が浮かび上がったのでヘッドギアに手を掛けながらリリカは女性に質問する。女性はにっこりと笑って


「ええ。目を閉じて次に開けた瞬間にはもうゲームの中ですよ」


と答えた。どうやら目を閉じた瞬間にこちらの五感とゲームの世界での五感をリンクされるみたいである。あんな短時間でそれをやってのけるとは大感服だ、などと呑気なことを考えながらすぽっとヘッドギアを頭へ装着する。完全に締め切ってしまう前に棺桶型のベッドへ体を沈ませた。


「あの、」

「─?はい、なんでしょう?」


カチャカチャ、とヘッドギアの接触を確認する女性にリリカはまた声をかけた。一部透明部分になっているギアの窓から女性の顔を覗き込みながらリリカは先ほどからずっと気になっていること意を決して聞いた。


「ここに来る前に、ラフ画がいっぱい飾られてあった道を通りましたよね。それで…その、都市や施設のラフはいっぱいあるのに、キャラデザのラフ画だけないのが少し気になったんですけど…」


リリカがそう問いを投げると、女性は一瞬黙り込んで、その後バツが悪そうな、申し訳なさそうな顔をして、


「ごめんなさい、私も一端の社員ですので詳しいことはあんまり分からなくて…」


と苦笑した。どうやらあの謎は社員でさえも知らないようである。


「あぁ、でも社長なら知っているはずです。もしこの体験が無事に終わったら聞きに行ってはどうでしょうか?私が許可を取っておきますよ」

「い、いいんですか!?やった…!あのジーカ氏とお話できるなんて…夢みたいです!」


はぁ、とリリカは思わずうっとりしてしまう。ジーカ氏はJOY ARTの社長兼WoQを作った張本人である。そんなジーカ氏の手掛けたものはキャラクターデザインから街の外観、攻撃モーション、そしてBGMまで多岐に渡る。まさにゲームクリエイトの天才。WoQプレイヤーの間では『創造神』として崇め奉られる存在だ。リリカも例に漏れずジーカ氏を崇拝する一人でもあった。


「そんなことを言ってくださるなんて…社長も喜びます。伝えておきますね」


そう淡々と告げながら女性はテキパキと準備を終えていく。そして最後に開いていた口元のガードをかちゃん、と締めた。


「それでは電子音が鳴ったあとに目を閉じてゆっくり十秒数えてください。もう目を開いた先はゲームの世界ですから。それでは行きますね?」


女性の問いかけにリリカはこくん、と頷いた。女性はリリカが頷いたのを見て、カチッとこめかみあたりにあるスタートボタンを押した。すぐさま頭の中にピーッと鋭い電子音が鳴り響く。リリカはピク…と瞼を動かして瞳を閉じた。


(じゅー、きゅー、はち─)


女性に言われた通りにゆっくりと十を数える。その間、リリカはこれまであったことを思い返していた。

(あの女の人、とっても優しかったな…)

そんな呑気なことを考えつつ名前くらい聞いておけばよかった…と後悔する─


暇などリリカにはなかった。



(いっっっっったぁ!!!)


突然、剃刀でぐっさり肉を抉り取られたみたいな鋭い痛みがリリカの頭に走る。最早痛すぎて声なんてものは出なかった。

(なんで、どうして?一体、今どうなってるの?)

色々な疑問が痛みと共にリリカの脳に流れ込んで来る。本当は目を開けて状況を確認したかったが、そこはかとなく嫌な予感がしたため、リリカはぎゅっと目を瞑った。

その後、痛みはほんの数秒後で過ぎ去っていった。しかし、リリカの脳は別のモノを映し出していた。

(なに、これ…)

それは薄いエメラルドグリーンのポップアップ。その色はWoQのシンボルカラーでリリカの大好きなである。そのポップアップには『現実と虚構をリンクさせますか』の文字。リリカには一体何が何なのかサッパリ分からなかった。

しかし、リリカに迷っている時間など無かった。画面中央に血みたいな赤色をしたカウントダウンが表示されたのだ。5、4、3、と刻一刻と無情にも時間は迫っていく。

(もうどうにでもなれ!)

残り時間が2、1、そして0に差し掛かろうとしたところでリリカは『はい』の項目を押した。その瞬間、リリカの体は目を瞑っていても分かるほど、眩い光に包まれた。

そして、またリリカの脳にあの色のポップアップが映し出された。そして今度の内容は『プレイヤーネーム:リリカ/Level.1』の文字。紛れもないWoQのプレイヤーUIである。それはリリカの目の前にパッと現れた瞬間にフッと蜃気楼のように消えてしまった。

その後すぐに光が消えてリリカの体は一瞬にして闇に呑まれた。





それからどれくらい時間が経ったのかは分からない。


リリカは気づけば闇から逃れ、草地に落下していた。目を閉じていても分かる鼻腔を擽る草の匂いがそれを物語っている。


(ん…なにこれ、重…っ)

リリカはふと、頭に何かが乗っかっているのを感じた。重さは顔全体と胸あたりにかかっていたのでサイズは小さいが意外と重さがあるのをリリカは悟った。

(とりあえず起きよう)

リリカは頭をぶんぶん振ってその物体を弾き飛ばした。


「一体何が私に乗っかって…ってええッ!?」


リリカがこうも驚くのは仕方のないことであった。なぜならリリカに乗っかっていた物体の正体は小さな女の子だったからである。それに頭から地面に突き刺さっていたため心配せざるを得なかった。


「ごっごめん!あなたが乗ってるなんて思わなくて…とにかく怪我は…」


リリカは急いで女の子の元へ駆け寄った。その女の子はひっくり返った虫のように小さく震えて、その瞬間、体を地面から引き上げ、空中へと浮かせた。


「え、ええぇ!!と、飛んでる!!」

「ふー…死ぬかと思った…!もう、リリカ!ボクじゃなきゃ死んでたぞ!」


その女の子はパタパタと頭の土を落としながらぷんすかリリカに文句を言った。

(え、かわいい…)

先ほどまで顔がつちに埋もれて分からなかったが、女の子の顔はお世辞抜きに可愛いとリリカは思った。目も大きくてまん丸で、まさにお人形といったようである。

しかしそれとは別にリリカの脳裏にはある疑問が浮かんでいた。


「な、なんで私の名前を…?」

「そりゃ知ってるよ!だってボクはリリカの案内人なんだもん!」

「案内人…?」

「その顔…理解できてないみたいだね。まぁ仕方ないよ、さっきここに来たばっかだもんね。あ、でも来て早々ボクの顔を土に埋めたのは許してないけどね!」


ずもも…と実際には出ていないが見える怒りの炎をメラメラさせながらその女の子は言った。


「あ、あなたは…?」

「ボクはディナ!アーバンブルクへようこそリリカ!」


リリカの大好きなゲーム『World of Quintia』のはじまりの街の名を言いながら、彼女─ディナは手を差し出した。


─続く

次回予告

(何故か)ゲームの世界に飛ばされてしまったリリカ。自称案内人のディナが言うには、元の世界に帰るためには最強格のNPC四人を攻略して仲間にし、ラスボスを倒さなければならないという!そんな簡単なことなら、と意気揚々と一人目のNPC『騎士─ジーク・ローズナイト』の元へ向ったリリカだったが─

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