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火に問う  作者:
4/17

第四夜「光の旅人」

焚火は安定した温もりを保ち、周囲に柔らかな光を投げかけていた。オレンジ色の炎は時折小さく踊り、木の枝がはぜる音が静かな夜に溶け込んでいた。仏陀が立ち上がると、火の揺らぎが一瞬静まり返った。

仏陀は穏やかな声で言った。「こうして語らうのも、いいものですね」

軽く一礼し、静かに去っていく。その足音は落葉すら揺らさなかった。

その直後、木々の向こうから奇妙な足音が聞こえてきた。ソクラテスとプラトンが顔を向けると、一人の老人が姿を現した。白髪は少し乱れ、その目は鋭い知性とどこかユーモアに満ちていた。手には懐中時計と、長年の使用で端が擦り切れたノートを持っていた。

「ああ、これはまた…時空を飛び越えてしまったようだね」老人は首を軽くかしげながら言った。「焚火…いいね。エネルギーの保存則に反することもないし」

ソクラテスは眉をひそめつつも、微笑みを浮かべた。「君は誰だ? そしてこの”保存則”とは何の徳を指すのかね?」

「アルベルト・アインシュタイン」老人は答え、にやりと笑った。「君らの言葉で言えば、『自然の法に問いを投げ続けた男』さ」

プラトンは腰を少し前に乗り出し、興味深げに尋ねた。「科学者…ですか? では、あなたも”真理”を探しているのですね」

アインシュタインは焚火の温かさに手をかざした。「もちろん。でも私は、真理は方程式の中にも、星の光にも、そして人間の良心にも宿ると信じている」

「それは興味深い」ソクラテスは言い、視線を火から老人へと移した。「私もまた、『善き魂』が世界の秩序を保つと考えていた。だが君は、世界を”数式”で語ろうとするのか?」

アインシュタインは少し考え込むように天を仰いだ。「数式は言葉と同じ。ただの記号だよ。でも時に、それは宇宙の沈黙に触れるための”音楽”にもなる」

ソクラテスとプラトンが意味ありげに顔を見合わせる。

「“音楽”とはまた、詩的ですね」プラトンが言った。「仏陀様は沈黙で語り、あなたは数式で歌う。哲学者も科学者も、結局は『見えぬもの』を見ようとしている」

アインシュタインは近くの横たわった乱雑に積まれた丸太に腰を下ろし、焚火の深みを見つめながら言った。「私は神を信じているよ、ただし”サイコロを振らない神”をね。宇宙に偶然はない。だがそれを理解しようとする人間の姿に、私はいつも感動する」

ソクラテスは膝に手を置き、身を乗り出した。「ならば問おう。君にとって”魂”とは何か?それは原子の集まりか? あるいは、数式の外にある何かか?」

アインシュタインは一瞬目を閉じ、深い呼吸をした。炎の熱が彼の顔を優しく照らしていた。

「魂…それは、宇宙が自分自身を見つめるための”意識の窓”かもしれない。我々はただの粒子ではない。愛し、問い、涙を流す。それは、どんな数式にも現れない”謎”だ」

しばし沈黙が訪れた。風がふわりと流れ、焚火が優しく揺れ、影が周囲の木々に踊った。

プラトンは静かな声で言った。「師よ…この人もまた、“知らぬことを知っている”者ですね」

ソクラテスはゆっくりとうなずいた。「ああ。しかも光速より速く、問いにたどり着くようだ」

アインシュタインは苦笑いしながら肩をすくめた。「その点に関しては、私の理論でもまだ説明できないな」

三人は火の周りに座り、言葉を交わさずとも、ただそこに”共に在る”ことを感じていた。知を超えたところで交わる魂たち。夜はさらに深まり、頭上では星々が静かに瞬いていた。

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