第十一夜「告白」
夜は深まり、星々は沈黙の証人となっていた。ジャックは膝を抱え、炎を見つめていた。その目が濡れているように見えたのは、火の反射だけではなさそうだった。
「私が…あの女たちを…」ジャックは声を絞り出すように言い始めた。喉の奥で何かが詰まったようだ。「最初の彼女は、メアリーと言った。笑顔が、春の日差しのようだった」
彼の指が震え、それを止めようとして強く握りしめる。
「彼女の…首に刃を当てたとき、彼女は私を見た。恐怖ではなく、悲しみを浮かべて」ジャックの声は震えていた。「その目が、今も私を見ている」
ソクラテスとガリレオは黙って聞いていた。焚火の音だけが、沈黙を埋めていく。
「二人目は…アニーだった」ジャックは続けた。「子供がいると言っていた。だが、私の中の何かが…止められなかった」
彼の頬を、一筋の涙が伝った。
「夜ごと、彼女たちの顔が浮かぶ。その声が聞こえる。私は…逃げられない。自分自身の闇から」ジャックは顔を覆った。「私は怪物だ。それが私の正体だ」
ガリレオは眉を寄せ、犯罪者の懺悔を聞きながらも、その言葉の真偽を量っているようだった。ソクラテスは静かに、だが鋭く観察していた。
「許しを…」ジャックの肩が震えた。「許しなど求めるつもりはない。だが、この苦しみだけは、誰かに聞いてほしかった。この永遠の夜の中で…」
シェイクスピアは身じろぎもせず、劇作家の目でジャックの一挙手一投足を見つめていた。
そして突然、何かが変わった。
ジャックの肩の震えが、微かに異なるリズムを刻み始めた。それは…笑いだった。
低く、しかし確かに、笑い声が漏れ始めた。やがてそれは大きくなり、ジャックは頭を後ろに反らして高笑いを上げた。
「ハハハハハ!なんて顔だ!」ジャックは腹を抱えて笑った。「本気で信じたのか?この茶番を!」
ガリレオが立ち上がる。顔に怒りが浮かぶ。ソクラテスも目を細め、その場に緊張が走った。
「哀れみを見せる顔、そして今の顔」ジャックは笑いながら言った。「人間とはなんと簡単に騙されることか。演技一つで、魂の扉を開いてしまう」
「貴様…」ガリレオの声は冷たかった。
「なあに、ほんのジョークだよ」ジャックはコートの襟を正した。「殺人鬼の懺悔劇、感動的だったろう?シェイクスピア殿、台本はいかがだった?」
シェイクスピアは答えず、ただ深く、悲しげな目でジャックを見つめていた。
「お前たちの”大いなる問い”とやらも、所詮はこの程度だ」ジャックは立ち上がり、焚火の側に置かれていた革のクッションを蹴飛ばした。「人の痛みを知らぬ者たちが、宇宙を語るとは片腹痛い」
クッションは闇の中へ飛んでいき、鈍い音を立てた。
「理性の光?問いの炎?」ジャックは後ろ向きに歩きながら、嘲るように言った。「闇の中でこそ、人は本当の顔を見せる。それが真実だ」
彼は徐々に闇の中へと溶けていった。最後に残ったのは、その白い歯の光だけ。
「お元気で、偉大なる思想家たちよ」
その声は風に乗って消えた。
焚火の側には、重い沈黙が残された。三人の賢者たちは、互いの顔を見合わせ、そして再び火を見つめた。
「あれもまた…人間の一面か」ソクラテスがやがて呟いた。
ガリレオは望遠鏡に手を伸ばし、レンズに触れた。「闇は光の不在にすぎぬ。だが、それも観測すべき対象だな」
シェイクスピアはペンを取り出し、何かを書こうとしたが、やめた。「舞台には、道化も必要だ。だが…あの男の演技には、真実の断片が混じっていた。それが最も恐ろしい」
三人は再び沈黙し、星々の問いに耳を傾けた。夜はまだ、続いていく。




