泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!八話:パートナー
「今回の件は国王様にも報告させてもらう……。本当にお前達はよくやってくれた……」
騎士育成学校の三階に位置するレオナの自室に呼び出された二人はその言葉を聞くと、思わず悲鳴のような声を上げる。
「こ、こここ、国王様に!?……」
「そ、そんな名誉を……私達が、ですの!?……」
「ああ、あの忌々しい緑の独裁者は数百年も前に人類へ向けて放たれた魔族共の刺客だった。どうにか翼に傷を与える事は出来たんだが、地上での生活に適応し人間も魔物も見境なく襲う怪物と化したのがあのドラゴンの成れの果てだ……。奴を仕留める事が出来た功績は大きい……」
椅子に腰を下ろすレオナは静かに微笑むと、呆然とする彼女達へ言った。
「恐らく何らかの褒美を与えられる事になるだろう。あの怪物は我が国の優秀な騎士を多く殺してきた怪物なのだからな……二人とも、国王様に願いがあれば何でも伝えるといい……」
「そ、そんな事……いきなり言われても……」
戸惑うエリシアの隣で、一歩前に進み出たティナは力強く言い放った。
「ガードナー家の再興を、私の悲願を是非……国王様にお頼みしてもよろしいでしょうか!?」
「うむ、それはお前がこの学び舎の戸を叩いた時からの目標だったな……私からも国王様へ進言しておこう……」
「あ、ありがとうございます!……」
その迷いのない言葉を聞くと、エリシアは口を半開きにしたまま唖然とした。
国王というこの国家の最高権力者を前に、躊躇する事なくその願いを伝えられる程に彼女の意志は強い。
そして、そんな彼女の隣に立つ自分は何をすべきかを考えていた。
「エリシアは何か望みはないのか?」
「え、えっと……私は……」
口籠るエリシアが下を向きつつ唸っていると、唐突にティナが力強く彼女の両肩を掴み真剣な眼差しを向けた。
その頬は薄っすらと紅潮し、突然の出来事にエリシアは戸惑いつつも魅入っていた。
「エリシア!あなたに明確な望みがないというのなら、私のさらなる望みの為に力を貸してくださる!?……」
「はひっ!……え、えっと……それでも、いいけど……」
皆を救いたいという願いはあったものの、それを叶える為にどうすればいいのかが分からなかったエリシアはその真剣な視線と声に圧され、戸惑いつつも首を頷ける。
それを見たティナは安堵するように息を漏らすと、目線を下へと向けて声を振り絞る。
それは気高さと誇りに満ちた普段の彼女からは想像できない程に……弱々しく、か細い声だった。
「……エリシア・スタンズ……私と、結婚してください……」
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……へっ?……。
え、えっ?……今、今……なん、て……?。
恐らく、目も口も点になっているであろう私は……今しがた聞こえた言葉が信じられずに、レオナ教官の方を見た。
普段毅然とした凛々しい姿で多くの生徒達の憧れとなっているレオナ教官も……私と同じように点が三つ並んだような顔をしてティナを見ていた。
暫くの間、無言の時間が流れる。
その沈黙を破ったのは顔から湯気が昇りそうな程に顔を赤らめ、激しく動揺した様子を見せるレオナ教官だった。
「お、おおおおお、お前ら!!……そ、そういう……関係だったのか!?」
「はいっ!私とエリシアは魂で結ばれた運命共同体ですわ!」
「ど、どこまで行ったんだ!?そ、その……寮内での、はしたない行為は……周囲の生徒達の風紀にも関わるから……控えてほしい……」
……この人、すっごく立派でカッコいい見た目と実力があるのにこういう点では乙女なんだ……。
頬を両手で押さえ真っ赤になった顔で狼狽するレオナ教官を呆然と見つめながらそんな事を考え……。
いや、そうじゃなくて……それどころじゃなくって!!。
「私が獣のようにエリシアを襲いましたわ!寝ている隙に唇を奪い、薄く開いた瞳を間近で見つめながら愛を囁いて……そして、熱を帯びた胸元のボタンを一つ一つ外してこの子の柔肌を……」
「あ、あぁぁぁっ!もう、やめろ!……やめてぇぇっ……」
胸に手を当てながら自信すら感じさせる口調でそう断言するティナの言葉を聞き、恋愛という秘め事に関しては私達以上にピュアな価値観を持っている教官は更に動揺を強めた。
待って……待って!私達、確かにさっきキスはしちゃったけど……あ、あれはその場の勢いというか……雰囲気というかで……。
え、えっと……何これ?……。
「ティナ……?」
「うふふっ、なぁに?エリシア?」
「そ、その……私達は……えっと……」
「……ここで正式に私達の結婚が認められれば私達は更に多くの人々を救うための権限を与えられる事になりますのよ。婚約関係になったほうが単なる主従関係なんかよりもずっと有利に事が進みますわ……。命懸けで私を救ってくれたあなたなら、私の隣に立つのに相応しいパートナーであると考えましたの……」
あ、あー……そっか!。ティナの目標はガードナー家の再興、そして名家として再び名を上げる以上は優秀なパートナーを得た方が自他共に評判が上がるし注目も集めやすい。
グリーン・ディクテイターを討ち取った私達が婚約関係になれば王族の関係者からも期待される事だろう。
やっぱりティナはすごいなぁ……私と同い年なのに、そういった駆け引きなんかも手慣れてる……。
感嘆しつつボンヤリと彼女を眺めていると、意地悪く笑みを浮かべたティナがいきなり私の腰を抱き寄せ……そして、顎を指で持ち上げながら顔を覗き込んできた。
そして……戸惑いながら声を漏らす私へ、計算だけではない自身の感情を打ち明ける。
「それに、婚約した方が……私のエリシアを他の誰かに取られる心配もせずに済みますから……」
……この子、思った以上に……独占欲が強い……。
半泣きでアワアワと目を両手で覆いだしたレオナ教官に目も暮れず、心臓が破裂しそうになる甘い言葉をティナは囁き続けた。
「安心してくださいませ……婚約した以上は女としてもあなたを満たすとお約束しますわ……」
「お、お、お、女と……して……?」
「……人前で夜に私があなたをどう抱くかを言わせるだなんて……意外と大胆ですのね……」
士官服の生地の上から、ティナの指が私の胸をそっとなぞる……。
は、ひゃ……ひ……。
膝から力が抜けて、茹で蛸のように耳まで赤くなった私はその場にへたり込んだ。
「ふきゅぅぅ……」
「……ふふっ……これから宜しくお願いしますわ、頼りになる私の花嫁様……?」
……た、確かに……このゲームには好感度が上がると婚約できるシステムもある……。
それは、同性間でも可能で……システム上では可能な事だった……。
でも……でも……まさか、ティナから……一方的に推していたティナから……婚約を宣言されるなんて……。
へたり込んだままフラフラと体を揺らし、私はまだ生まれ変わって一日すら経っていないこの世界で……さっそく一番の目標を叶えつつある。
ティナと二人で……この世界を守る……!。