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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!七話:英雄

……すごい……すごいよ、ティナ……!。


あのバケモノをたった一人で……倒しちゃった……。


精霊の姿が消えるのと同時に、炎は急速に鎮火していく。やがて残ったのは灰になった木々と、黒く焦げた地面だけ……。


ティナは確かに、この段階でのレベルは相当上に設定されていた。それでも……まさか、魔剣士に至るまで戦いの最中に成長するなんて……!。


手にした剣を放り投げると、ティナは一目散に私の元へと駆けてきた。


「エリシア!体は無事!?大丈夫!?……」


「……うん、平気だよ……ティナのおかげ……」


「……よかった……あなたが無事で、本当によかった!……」


私の体を抱き締めると、心から安堵しているのかその頬に涙が光った。


結局、私……何にも出来なかった。


このゲームをやり込んでるからって、得意になって……自信満々で皆を守るなんて言ったのに……。


……結果はこの有り様……。


守りたい人も守れず、守ると誓った人に逆に守られてしまった……。


「……っ……ひっく……」


「……エリシア?……」


「……ほんと、カッコ悪いよね……わたし……自信満々で一人で突っ走って……呆気なく死にかけて……結局、二人を助けられなかった……」


「……今は生きている事を喜ぶ時ですわ……後悔なんてそれからでもいい……」


「でも!……助けてあげたかった……あの二人が生きてたら、あの二人とも……友達に……なりたかった!」


「……本当に、今日のあなたは変ですわ……。昨日まで可愛い妹みたいに思ってきたのに……」


……そんなに、優しく……しないで……。


もう、これ以上……これ以上、こんな姿……見られたくない……。


恐怖心、情けなさや罪悪感、悲しい気持ちとこうして頭を撫でてくれるティナへの感謝……色々な感情が渦を巻き、何もかもをぶつけてしまいそうになる。


きっと、大声で……泣いてしまう……だから……だから……。



「……私の耳にはこうすればもう……何も聞こえませんわ……。だから、ぜんぶ吐き出して……」


「……う、うぅぅぅぅっ……ゔあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!ティナッ、ティナァァァァァァァァッ!……」


私の両手を掴み、自身の耳へと宛行うその優しさを感じて……もう、我慢なんて出来なくなった……。


「痛かった!!痛かったよぉぉぉぉおっ!!足を食い千切られて痛かった!!頭を食い千切られて怖かった!!……お腹の中を舌で舐められて……気持ち悪かった!!……怖かった、怖かったよぉぉっ……」  


「……使命感や責任感で自分の痛みを誤魔化すようになってしまったら……人は痛みを感じる心が麻痺してしまうから……。そうやって、痛さや怖さを感じる事で人は他人の痛みも感じる事が出来るんですわ……」


「ティナっ、ティナぁぁっ!……」


「……エリシア……あなたはいつまでも、人の痛みが理解できるあなたのままでいて……そして……」


掴んでいた私の手へ、ティナはその白く細い指を絡めて……静かに握り締めた。


そして……未だに嗚咽を漏らす私の唇へ……目を細めながら、自身の唇を重ねた……。



……そのキスを拒むような体力も、気力も……そして、理由も……今の私にはない……。



「……そうして、いつまでも放っておけない……あなたのままでいて……」


……不思議だった、ティナにそうされた事が……まるで当たり前の出来事のように感じた……。


女の子同士だからとか、何だとか……そんな言い訳がくだらなく感じるぐらいに……。


顔を離して私の頬に手を添える彼女は……ただただ、美しかった……。


------


「す、すごいぞ二人とも!まさかグリーン・ディクテイターをまだ正式に騎士にもなっていないお前達が討つなんて……!」


隻眼の女騎士であり騎士育成学校の教官を務めるレオナ・ハミングバードは半ば呆然としつつそう声を漏らした。


グリーン・ディクテイターと呼ばれる悪食の竜は古くからこの森の周辺に君臨する恐るべき怪物としてその悪名を轟かせていた。何十年も前から名うての騎士達が討伐隊を結成し森へ入り、そして誰一人として帰って来る事はなかった。


その犠牲者の中にはレオナの親友も含まれていた。


だからこそ、銀色の髪を持つその女騎士は顔中を血で汚した教え子の一人が必死に助けを求めてきたのを見ていち早く状況を察し戦争すら行える量の人と武器を連れその場へと駆け付けてきたのだ。


しかし、仇敵の竜はまだ育成学校を卒業すらしていない二人の少女の手により打ち倒された。


「……アイツの手で私の親友も食い殺された……見つかったのは腕が一本だけだった……。本当に、お前達にはどう感謝していいか……」


「そんな事ありませんわ……ぜんぶ、エリシアが勇気を与えてくれたおかげ……」


「わ、私なんて……何も……」


「あなたがあの恐ろしい怪物を前に文字通り命を削り尽くしてでも私達を守ろうとしてくれた勇気……そんな勇気が私の心を奮い立たせてくれたんですわ……」


エリシアの手を取ると、ティナは静かにその手を自身の胸へと添えながら微笑んだ。


そんな二人の様子を見て、かつて心を通わせた親友との過去を思い出したのかレオナは小さく息を漏らすと両手で彼女達の頭を抱き寄せながら声を震わせた。



「……ありがとう、二人とも……生きて戻ってくれて……本当に、ありがとう……」


他の生徒達は拍手を鳴らしながら、強い絆によって結ばれ強敵を打ち倒した二人を祝福する。


そんな二人の姿を、顔を赤い液体で汚した少女は黒く濁った瞳で見つめていた。


「すごいよねぇ、あの二人……あのグリーン・ディクテイターを倒しちゃうんだもん!」


「ホントよねぇ、偉そうにふんぞり返ってたクセに目の前で友達が食われてなぁんにも出来なかった誰かさんとは大違い!」


それはティナと別れ一人助けを求めるべく逃げ延びてきた少女だった。


高いプライドとティナへの深い愛情を抱く彼女はクラス中でもティナに次ぐ程の剣技を持ち、その実力を鼻にかけ他の生徒達を見下してきた。


今までであればその実力に恐れを抱く生徒達は彼女の前に平伏し敬意を示してきた。だが、恐怖によって心が折れた今の彼女にそうしようという者は、もはや誰も居ない。


「ねえ、臭いんだけど?アンタひょっとしてちびっちゃったの?」


「あははっ!ズボンがおしっこでグチョグチョじゃん!なっさけな!」


失禁した尿で濡れた白い士官用のズボンを指差され、悪意に晒された彼女は俯きながら体を震わせた。


「ティナ様だけならともかくあの落ちこぼれのエリシアまで死ぬ気で戦ってたっていうのにアンタは怖くておもらししながら逃げるだけだなんて……ほんとに情けない!」


「私なら恥ずかしすぎて自殺しちゃうかもねぇ……この場で舌でも嚙み切って!あははっ!」


二人の英雄の誕生は、実力至上主義のその空間に新たな生贄を生み出した。


悪意に満ちた笑みを浮かべる生徒の一人が、その乱れ切った髪を掴み上げながら耳元で囁いた。


彼女の自尊心の全てを打ち砕く残酷な言葉を。



「……お前なんて騎士失格よ……さっさと消えたら?」



目を見開きながら嗚咽を漏らす彼女の中で、何かが砕けた。



















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