泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!六十一話:献身
……もう、嫌……。
好きになってくれた人と、好きになった人が目の前で……また、目の前で……!!。
こんなの……もう耐えられないから……止めなきゃいけないから……。
私は今までフラフラと依存心のまま他者へ甘えてきたそれまでの生き方をぶっ壊す。
エリシア・スタンズという女の生き方を変える。
自分の気持ちを押し付けるだけじゃダメだったんだ……相手の気持ちにも寄り添って、そして相手の幸福の為にどこまでも苦しみに耐える……それこそが、愛なんだ……。
せっかく……こんなに大事な事に気付けたのに、また……手遅れになっちゃった。
でも、まだ私にはティナが居る。彼女だけはせめて、せめて……生きていてほしい……。
「……ミレーヌ、こっちに来て……貴女に人間の愛を教えてあげる……」
「……エリシア……様?……」
「……貴女は人の愛を知らないんでしょ?だったら私が貴女を愛してあげる……」
「……わたし……を?……」
……こんな奴、全然好きなんかじゃない……。
むしろ、大嫌い……ゲーム中でも一番嫌いかもしれない。ワケの分からない気持ち悪い独占欲と執着心を主人公に向けてきて、こんな風に大切な仲間を次々と殺して……好きなんかじゃない、気持ち悪くて死ぬほど嫌いな女だった。
でも、こいつに気に入られればティナが殺されるのを防げる……。
私は大好きな人を守る為に大嫌いな女を愛すると決めた……。
ぜんぶ、ぜんぶ私が悪い……今までの私の行いの全てが悪い……。
だから、罪を償わせて……。
「……エリシ……ア……?」
「……ごめんね……ティナ……」
「……なにを……しますの?……」
「……守りたいの、貴女を……幸せに生きていてほしいの、貴女に……」
仰向けに倒れたまま、ティナは朦朧とした様子で私を見つめていた。
そんな彼女に涙を溢しながら謝った。
きっと許してはくれない、嫌われるかもしれない……それでも私はこの子に生きていて欲しい。
ゲームをプレイし始めた時に最初に助けたいと思ったのがこの子だった……とっても綺麗で魅力的な姿形をしていて……それでいて、少し不器用なぐらい優しいこの子に恋してた……。
例え架空の世界の存在であっても、助ける事に必死になっていた。
ああ、そうだ……最初は確かにそうだった……。
助けたかった、守りたかった、生きている彼女の傍に居られるだけで幸せだった……それなのに、何かがどんどんおかしくなった……。
ゲームの中で抱いた純粋な望みが、現実の私の願望によって汚染された。
ミレーヌはきっと、私へ悍ましい行いをしてその愛を深めていく……狂った愛情のままに殺しては生き返らせてを繰り返し、精神が擦り切れるまで何千回でも体と心を犯し尽くすだろう。
でも……ティナが助かるならそれでいい……。
「……ミレーヌ、一つだけ約束して……私を好きにしていいからティナには手を出さないで……」
「な、何を仰られているんですか?私は貴女に憎まれたいから大切な人を奪おうと……」
「そんな下らない手探りなんて必要なくなるぐらい……私に夢中にさせてあげるから……」
怪訝そうな顔をするミレーヌは戦斧を手にしたまま私の元へ歩み寄ると、突如伸ばされた私の腕に抱き寄せられ驚いたように声を漏らす。
……嫌だ……こんな女に……キスなんてしたくない……。
でも、私がやらなきゃ……全部私のせいなんだから……私がティナを守らなきゃ……。
胸が鋭い爪で引き裂かれていくような気分に陥りながら、私は目の前の相手の頬に手を添え……唇を重ねる。
「ん、んんっ!?……」
「ん……ふ、ぁっ……」
「くっ、ふぅっ……ぅ……」
舌先で無理やり相手の唇をこじ開け、その口内に唾液と共に私自身を流し込む。
欲情した雌の声で相手を誘惑し……私以外、見えなくする……。
……初めて恋したティナの目の前で……私は大嫌いな女とディープキスを交わした。
「はっ、あぁっ……えり……ひあ……ひゃま……」
「これが……人間のキス……人間の、愛なの……」
「あっ、うっ……えりひあひゃまっ、えりひあひゃまぁぁっ!……」
「……ほら、もう私しか見えなくなっちゃうでしょ?……他の人間なんてどうでもよくなってくる……」
……頭の中が灰色に染まる。
目の前で頬を赤らめ瞳を潤ませるこの女に何もかもを捧げなければならないのかと思うと……絶望しかない。
私はティナの気持ちを……裏切った……。
「あ、あぁぁぁっ!すきれす、すきれすぅぅ!えりひあひゃまっ、すきぃぃぃぃっ!私も、もっとあなたをすきになりましゅ!えへ、えへへへっ!誰にも渡さない、誰にも邪魔させない!もっと、もっと私にキスしてくらはい!……えりしあひゃまぁぁ……♡」
身悶えする女はガクガクと体を震わせると腿に雫を垂らしながら膝を突く。
そして激しい欲情によって昂る己の本能のままにその肉体を変化させた。
魔界の権力者である四貴族は皆、支配者と崇められている最凶の竜族……サラマンダーの血筋を引いている。
私に愛された事で理性の箍が外れたこの女はこれから私を食い殺す……死ぬ度に蘇生魔術で生き返らされ、何千回も私を食い殺す……。
きっと、終わる頃に私は正気を保てなくなっているだろう。
この女の愛に押し潰され、廃人になってしまう。
だから、伝えないと……私の気持ち、伝えないと……。
「……ティナ……」
「……エ、エリシア……!」
「私、ティナの事が好きだった……貴女はきっと知らないんだろうけど、出会う前から好きだった……。ずっと貴女を助けたくて、救ってあげたくて……それで私、一度死んじゃったの……」
「な、なにを……何をする気なんですのエリシア!?すぐに逃げて!」
「……いいの……こうする事で貴女が助かるならそれでいい……やっと気付けたの、私が一番守りたいのは誰なのか……今までの行いを償うにはどうすればいいのか……」
「償う!?ちがう、違いますのよ!……それは、違う!……」
「……私が一番好きなのは貴女だった……最初にこのゲームをプレイして、最初に好きになっちゃったのはティナだった……」
「わ、私だって!貴女の事が好きでしたわ!……エリシア、貴女を……!」
……嬉しい、こんな私でも……まだ好きでいてくれてるんだ……。
嬉しいのに、寂しい……やっと気持ちが伝わったのに……これでおしまいだなんて……。
それじゃあ、最後に……遺そう……。
こんな身勝手なメンヘラ女を好きでいてくれた彼女へ……最期の言葉を……。
「……ティナ……愛してる、貴女を……」
ゴキン、メキ、グヂュ、ゴプッ、ミヂミヂミヂミヂッ、パキッ、ゴヂュゥゥゥゥッ!
体中から何もかもが絞り出される圧迫感と同時に、私の視界は真っ暗になった。
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咥え込まれたエリシアの体が……左右に揺さぶられ……。
突き立てられた鋭い牙が肉と皮膚を食い破り、白く細い腰を千切り捨てた。
真っ赤な鮮血と肉片が顔面を覆い……視界が赤く染まる。
『ア”ァァァァァァァァァァァァアッ!!!えりひあひゃまっ、えりひあひゃまっ、えりひあひゃまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!たべちゃった、たべちゃったぁあああああああっ!!♡だいしゅきなえりひあひゃま、くっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!♡』
広大なそのスペースのほぼ全てを埋め尽くし、女は悍ましい本来の姿を私の前で曝け出す。
現在魔界を統治する権力者達……四人の貴族は全てが伝説に残る凶悪な竜の末裔達だ。
爆炎竜サラマンダーは三日で世界の全ての生物を食らい尽くし、そしてそれに飽き足らず同族間ですら共食いを始めて十日でその星の生命体を壊滅させた最強にして最悪の戦争王だった。
その果て無き征服願望と支配欲は魔界に生まれた種族全てのアイデンテティになっている。
血走った眼を見開き、口元を真っ赤な鮮血で汚した巨竜は呆然とする私の前で、血の海に沈むエリシアの下半身を開けた口で攫うと……木の板が割れるような音を立てて、咀嚼した。
『ふへへひひひひひひひぃぃぃぃぃっ!!ひぃぃぃぃひゃはははははははああぁぁぁぁぁぁあっ!!エリシアひゃまの内臓、肉、骨、皮膚、髪……ぜぇんぶ私のモノぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!私のナカに閉じ込めた、私のナカに入れちゃったのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!ぎひひっ、げひゃははははははははははははははははははぁぁぁあああっ!!胃袋の中で蘇生魔術を掛けて、ずゥゥっと殺し続けてあげるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!かわいそうなエリシアひゃま、かわいいかわいいエリシアひゃまっ!!一生私のナカから出られない!!永遠に私から離れられない!!』
……エリ……シア……。
返して……ねえ、エリシアを返してよ……。
あの子が居ないと私……私は……。
「がえじでぇぇぇぇぇぇぇっ!!エリシア、がえじでっ!!がえじでぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!……」
『ふひひひっ!!ダメですよゥ、エリシア様は私とこれからずぅぅぅぅぅぅぅっと遊ぶんですからぁぁぁ♡また、キスして欲しいんですぅぅぅぅぅっ!!エリシア様のキス、すごく気持ち良かったんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!胸がドキドキして、鱗の下にマグマを流し込まれたように熱いんれすぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!これが恋なのですね!?これが愛なのですね!!……人間の持つ感情って何て素晴らしいんでしょう!!』
「う”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!かえせっ、かえせっ、かえせっ!!私のエリシアを返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええっ!!」
……殺してやる!!。
コイツの胴を切り裂いて、胃袋の中からエリシアを取り出してやる……!!。
この汚らしいトカゲなんかにエリシアは絶対に渡さない、今の私ならこの世界で勝てない存在はないのだから……。
魔女になればいい……世界を滅ぼすあの力を使ってこのトカゲを殺してやればいい!。
待っていてエリシア!……すぐ、すぐに……助けてあげるから!。
< その力を与えたのが誰であるか……貴女はもうお忘れになったのですね…… >
……その声は、確かに耳元で聞こえた。




