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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!五十九話:制圧下

……最低な臭いが私の目を覚まさせる。


肉が腐ったような激しい腐敗臭だ。思わず咳き込みつつ、フラフラと身を起こした私は……。


「……なに……これ……」  


そこはひどく通気性の悪い地下のようだった。石造りの壁と床、そして壁に取り付けられた松明の灯りがその地獄絵図を浮かび上がらせる。



「……ひっ……い……」


……肉が、無数に……散らばっている……。


それは人の形をしていて、中には人の形をしていない物も……ある……。


まるでゴミのように、無数の人間の死体が……捨てられていた……。



「ひぃぃぃぃぃぃああああああああああああああああっ!!んぐっ、お"っ、え"っ!……ぇ……あ……」


口元を押さえ、私は胃の中身を全て嘔吐した。


……なにが……起きて……私は……どうして……。


そこで思い出す。


以前の世界は終わりを迎え、そして……また新たな世界が構築された。


そして、この新しい世界は……。


「ようやくお目覚め?随分と長い間眠ってたからその間にいっぱい殺しちゃいました……」


突然聞こえたそんな声に思わず悲鳴を上げた。


腰を抜かしたまま後退る私の視界の先では、一人の小柄な少女が薄明りの下でこちらを見つめていた。


その相手を見た瞬間……私はこの世界の何もかもを理解し、そして……絶望する。



「ミレーヌ……!」


「あら、嬉しいです!コルセアで最後の最後まで戦い抜いた人間の英雄であるエリシア・スタンズ様に名前を認知されていたなんて!」


「……人間は……負けた……」


……ミレーヌは魔界に名を轟かせる四貴族の一人だ。この女がこうして私の前に立っているという事は……人類は魔族に負けた。新しく作り直された世界は、もう最初から終わっていた……。


「本格的に我々が軍を進めたのが一か月前、そして貴女がこうして捕らえられたのが三日前……その間に人類は実に勇敢に私達の軍を相手に戦いました!魔界による軍事侵攻の手引きをしたラウル・ホワイトホースを打ち倒し貴女と仲間達は最前線で強大な力を持つ我らを相手取り戦い抜いた!……それはもう、この私が惚れ惚れしてしまう程のお姿でした……」


魔界の権力者の一人である女はその力を誇示するように伸びる竜族の象徴である角を松明の明かりに輝かせ、恍惚とした笑みを浮かべ私を見つめる。


ミレーヌはこのゲームに登場する魔族の中でも特に危険な人物だ。


強いだけではない、力を持っているだけではなく……その性格が極めて危ない女……。


高い背丈に引き締まった体付き、そして白い肌を包むボンテージファッションのような黒く光沢を帯びた衣装は男女問わず心を惑わせる。性的な匂いをこれでもかと漂わせながら、その整った顔立ちに浮かぶ表情は子供のように無垢で……そして、残酷だ……。


「私はエリシア様にとっても興味があるの!人類を勝ち目のない戦いへ導いてきた貴女をもっと知りたいの!私も貴女も戦う女として軍を率いて戦ってきた!そんな貴女と私は何が違うのかを知りたいのです!」


「……うる、さい!……さっさと、殺しなさいよ……アンタに言う事なんて何もない……」


「エリシア様は私の事が好きなのではないんですか?似た者同士である私に興味があるのではないのですか?」


「そんなものあるワケないでしょ!アンタはどれだけ人間に近い姿形をしてても、どれだけ綺麗な顔してエロい格好しててもバケモノなの!……こんな風に、大勢殺してゴミみたいに……捨ててる時点で私達とは違う!……」


「……よく分かりません。私達の住む世界では殺すのも捨てるのも当たり前の事です、どうして強い者に食われた者の事まで考えなくてはいけないんですか?」


「はっ!だから分かり合える事なんてないの……アンタが私をどんな風に思っていようと、私がアンタに嫌悪感以外の感情を抱く事なんてない!」


……話にならない。


こいつら魔族の常識は食うか食われるか、その二択しかない。


誰かを愛する事もないし、守りたいという気持ちもない。そんな奴らに私の気持ちなんて理解できる筈がない……こんなバケモノなんかに……。


顔を俯かせた瞬間、そこで私は下着以外全ての衣類を脱がされていた事と足に太い鎖の枷が嵌められている事にようやく気が付いた。


灰色の思考が頭の中を覆っていくのを感じながら、私は掠れた声で相手を挑発する。


「……ほら、どこにも逃げられないんだから……逃げる気すらないんだから……さっさと殺しなさいよ……」


「……そういえば聞いた事があります。人間は大切な者を守ろうという本能、愛と呼ばれる感情を持っていて愛によってとても力強く戦える生き物なのだと……」


「……アンタ達には理解できない感情でしょうね……その人の事で頭がいっぱいになって、死んでもいいから守りたくなる……そんな気持ちなんて分からないでしょうね……」


「その人の事で、頭がいっぱいになって……死んででも守りたくなる……」


……何もかもが時間の無駄だ、さっさと殺せばいいのに……。


もう、誰かを愛する事に疲れた……誰かに依存していくのが嫌になった……。


殺して、早く私を……殺して……。


「……エリシア様、私……きっと貴女様を心から愛しています!」


「……は?……」


「戦場で貴女の率いる部隊に苦戦を強いられている時にいつも貴女の事を考えていました!どんな人がこのような見事な作戦を立てているんだろう、どのような人がこんなにも勇敢な兵達を率いているんだろう、どんな人が私の考えを読んで指揮を執っているんだろうって!ずっとずっと、貴女の事ばかり考えていました!そんな貴女をもちろん殺す気なんてありません!生きている貴女をもっと見て、もっと知りたいんです!……これって、愛なんですよね?」


「……なに、言ってるのよ……?」


いきなり何なのよ……この女……。


あのゲームの中でもワケの分からない性格の女だった。


イカレているように見えて、子供のように無邪気で無垢……そして……。



「これから貴女の大切なお仲間を処刑します!まだ息のある女が一人、そこに居たと思いましたのでちょっとお待ちください!」


純粋無垢な狂気と悪意を持った生まれ持っての純粋悪……それが、このミレーヌという女だった。



------


ミレーヌは赤い灼熱のマグマを思わせる髪を揺らしながら踵を返すと荒く息を漏らしながら折り重なる人間の体から一人を選び出した。


それは灰色の髪をした背の高い女であり、エリシアは静かに目を閉じる彼女の顔を見て思わず間の抜けた声を漏らした。



「……レオ……ナ……?」


それは、先ほどエリシア・スタンズが過ごしてきた世界で愛憎のままに殺し合った女性だった。


目を見開いたまま硬直したエリシアは髪を掴み乱暴に引き摺り出された彼女の名を呼ぶと、慌てて駆け出そうと足を動かした。


張った鎖が音を立て、エリシアは顔面から地面に倒れ込む。


「あはははっ!やっぱり!やっぱり!この女は貴女の大切な戦友ですものね!レオナ・ハミングバードは大切よね!」


「ま、まって……その人は……ダメ……!」


「私は貴女を知りたいの!もっと、もっと知りたいの!守るという気持ちが、愛という怒りの爆発がどんな影響を貴女に与えるのか知りたいの!愛に狂った貴女がどんな言葉を吐くのか!どんな呪いを吐くのか!見たいんです!エリシア様の本能が見たい!」


「レオナを殺さないで!その人だけは、その人だけはやめて!お願い、お願いだから!」


「うふふふふ!必死ですね、一生懸命ですね!殺しがいがあります!この人を殺したら貴女はどんな反応をするのか気になります!」


「や、やめて!ねえ!やめてよ!そのレオナは何も知らないの!私を愛してなんかいない!大切な人なんかじゃない!ちがう、ちがう、ちがうの!ちがうんだから!」


混乱と焦りのままエリシアは自分でも矛盾している事を言っていることに気付く余裕すらなかった。


それは、激しい罪悪感だった。


以前の世界で彼女の愛情を裏切ってしまった罪悪感が激しく精神を揺さぶった。


しかし、魔女として世界を移り続けている彼女の事情など知る由もなくミレーヌは狼狽えるそんな態度を見て異なる確信を深めていく。


「あはははっ!とっても分かりやすい方ですね!……どうでもいい人だったらそんな風に慌てたりしませんよ?エリシア・スタンズは人類の反抗の希望である英雄、そして全人類から敬意と愛を傾けられる希望……そんな貴女が愛したのは共に戦場を駆け抜けた戦友であるこの方なんですね!」


「ちがうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!違うから、違うんだからぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


「私は誰かを愛する気持ちを知りたい、魔族には備わっていない感情で戦う貴女を知りたい……この気持ちって恋というんでしょうか?」


「やめて、やめて、やめて!……いやだ……やめてよ、お願い!……」


「うふふっ……私は貴女に恋してるんです!だから見ていて、エリシア様!目の前で貴女の大切な人が私に四肢を切り落とされている様を!……」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!」


掴んでいた相手を乱雑に床へ引き倒すと、仰向けに倒れ込むレオナ・ハミングバードの肢体を見下ろしながら純粋悪は静かに片手を掲げる。


魔界を治める有力者として絶大な力を奮うミレーヌは子供のように無垢な笑顔を浮かべたまま……その凶器を具現させた。


開いた掌を閉じ、握り締めたのは黒一色に染め上げられた巨大な戦斧だった。人の背丈をも超える圧倒的な破壊力を持つソレは無垢な狂気を宿す女が好んで使う処刑器具だ。


地面に這いつくばるエリシアが涙と鼻水を垂れ流しながら絶叫する中、小さく声を漏らしながら呻くレオナの右腕を掴み上げ伸ばすと女は脳を焦がすような衝動のまま熱を帯びた声を上げた。



「ああっ……とっても素敵な姿です、エリシア様……やはり私の気持ちに嘘偽りはなかった!貴女様の色々な顔が、声が、流す液体がもっと見たいし聞きたい!愛というものを私は知りたいんです!奪われた後に残るもの、愛を失った貴女が私に向ける感情を!貴女が私を嫌ってくれれば嫌ってくれるほど愛の大きさに私は気付けるのです!」


「やめてぇぇぇぇぇぇっ!……おねがい、おねがい、おねがいです!……殺すなら、私を……私を殺してぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「どうしてそこまで必死になれるのですか?どうしてそんなにも他人を愛せるのですか?なんで守りたくなってしまうのですか?……愛する者を殺された貴女を見れば、そんな疑問の答えをきっとエリシア様は示してくれる!そうする事で私は貴女を愛する事ができる!」


地下を照らす松明の炎が黒い戦斧の凶刃へ鈍く反射する。顔を上げたエリシアが発する懇願を、女の狂気が制圧する。



「……もう、やめて……おねがい、やめ---」


「さあ教えてください!エリシア様!……愛っていったいなぁに!?」



両手で人体を切断する処刑器具を振り上げた女は紅潮した顔で天井を見上げたまま声を張り上げ、その破壊的な質量と鋭利な刃先で地面に倒れ込む女の右腕を切断する。



















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[良い点] うひょーおおおお!!愛を知りてぇ系女子だああああああ!!
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