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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!五十七話:後悔

「……まあ、この結果は予想通りですわね……」


大地を揺るがす轟音と太陽が降ってきたような閃光が収まると、ティナ・ガードナーは静かに目を開けて空中を見上げた。


浮かんでいたのは白光を纏う処刑人の魔女だ。


虚の魔女による一撃を膨大な質量と魔力によって押し切ったエリシアがこの戦いに勝利した。


そして、終わった世界のみが残された。



「それにしても、魔女の力って本当にデタラメもいいところですわ……本当にこの大陸の全てを無人の荒野に変えてしまったんですもの……」


改めて周囲を見回したティナは魔女同士の戦闘の凄まじさを思い知った。


建造物は勿論のこと、地面すら硬い岩盤が剥き出しになり生物の存在を許さない死の空間がどこまでも広がっていた。魔族への反抗の希望であるコルセア共和国という国家がその歴史ごと跡形もなく消滅した。


そして、そんな一つの大国を滅ぼしたのはお互いに拗れた愛情を向け合う魔女の些細な痴話喧嘩なのだから後に残された人間達は大いに絶望を深める事だろう。


「まあ、この世界もすぐに都合の良いように作り変えてしまうのですから……使い捨ての舞台上でどれだけ人間が死のうとあまり関係はありませんわね。幸いな事にエリシアの心はもう限界寸前、これまでの世界で流れてきた多くの血は無意味ではなかった!あの方の心を打ち砕くという私の目的はこうして無事に果たされたんですわ!ふふ、うふふふふふふっ!あははははははははははっ!!」


狂愛の魔女は嗤った。


これから罅割れた相手の心にトドメの一撃を自分が見舞うのだと胸を高鳴らせ、滾る激情のままに赤く爛々と瞳を輝かせながら犯すべき相手へ目を向け続けた。



-------


……終わった……ぜんぶ、終わった……。


肩で息をしながら、私はゆっくりと地面に降り立った。


視界の先には、土が消滅し剥き出しになった岩盤の上に黒い液体がぶち撒けられているのが見える。


黒い魔女の血に溺れるように、彼女はそこに横たわっていた。



肩から斜めに深々と入る傷からは、未だに血が留まる事無く噴き続けている。



「ぐ、ふっ……う”っ……」


「……まだ生きてるなんて、本当にアンタは目障りね……今、殺してやる……」


「……ごめ、ん……なさ……い……アレ、ッサ……アレ……サ……」


……本当に、心底……腹が立つ……。


勝手に私に溺れて、勝手に私をその気にさせて、勝手に……勝手に……。



「……わ、た……し……バカ……だ……た……あなた、だけ……みてれば……よか……た……のに……!。こん、な……こんな……魔女に……こころを……うばわれ、て……」


「……黙れ……」


「……おまえ、なんかに……お前なんかにっ……愛を、弄ばれ……て……!。あの子、より……おまえみたいな、バケモノを……えらんでしまう……なんて……!」


「……うる、さい……うるさい!!」


「……おまえ、なんかに……出会わなければ……よかったのに……!!」



自分の中で、何かが音を立てて割れた。


それはきっと、それまで縋りついてきた何かだった。



……私は、誰かに……愛されたかった……。


だからレオナを殺そうと思った。


レオナを目障りに感じた。


レオナを邪魔に感じた。


レオナを許せなくなった。



……だけど、レオナは確かに……私を愛していた……。


わからない……わからない……もう、なにも……わからない……。



その分からない答えを聞きたくて、涙と鼻水を垂れ流しながら目を開けた瞬間……。



「……レオ……ナ……」



……彼女の体は、無数の冥色の羽根になって消滅した。


呪いだけを残して……私の前から消えた……。



可笑しくなった、何もかもバカらしくて……あまりに滑稽で……。



「……ふ、ふひ……ひひひひ……どうすれば、いいのよ……私……。誰かに、好きになってもらう為だけに……今まで、頑張って……頑張って……ぎだのに……いひ、いひひひひっ!ひひひっ、ひひゃはははははははははははははっ!!……あ……あ……あ”ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!」



-------


「もう……これで満足したでしょ!?イヴ!!散々な目に遭って、色んな人に裏切られて、グチャグチャにされた私が見られて満足でしょ!?どう!?気持ちよかった!?いっぱい満足出来た!?……アンタにとっては最高のオカズでしょうね私は!!誰かに愛されたくて、誰かを愛したくて足掻けば足掻くほど……どんどん拗れて、苦しめられて……!!。もう、いい加減にしてよ!!こんなクソゲーなんかにハマった私がバカだった!!もっと平和なゲームをやってればよかった!!ペットを育てるゲームでもしてれば……こんな……こんな思いなんてせずに済んだのにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


膝を突くと、エリシアは両腕を抱きかかえ絶望の全てを吐き出した。


自分自身が抱いてきたそのゲームへの身勝手な願望、そして悪意を以てそれらを歪め襲い掛かる悲劇に精神を折られ何もかもを吐き出した。



「誰かに愛されたいのはそんなにいけない事なの!?誰かに必要とされたいのがそんなに悪い事なの!?意味分かんない!!アンタの異常なフェチで傷付けられるこっちの身にもなってよ!!アンタがグチュグチュに濡れたアソコを指で弄ってる間に地獄みたいな目に遭ってきた私の気持ちも考えてよ!!こうやって泣き叫んでる私の顔ですらもアンタは興奮してるんでしょうね!!……もう、嫌……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるしてぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


自身を絶望の淵に放り込む女神への憎悪と恐怖を喚き散らしながら、エリシアは嗚咽を漏らし完全なる自身の死を願った。


そして、あの女神は悲痛な願いを聞き届ける事はなく再び愛に餓えた佐渡明日香という女の生き方を凌辱し続けるであろう未来を予想し全身から力が抜けるのを感じた。



「……もう、嫌……出して……出して、出してよぉぉっ……この地獄から誰か、私を----」


その言葉は、突如背中を襲う鈍い衝撃と痛みによって遮られた。


小さく声を漏らしながら視線を下げるエリシアは、自身の胸から血塗れの剣先が突き出している事に気付くと……必死に声を発しようと唇を開いた。



「お”、ごっ……う”、う”ぅぅ……」


しかし……心臓という血を押し流すポンプを貫かれた彼女の体は大量出血により即座に死に向かって冷たくなっていく。必死に振り向こうと動かす頭は油切れを起こした機械のようにぎこちなく揺れ、やがて大量の血液を吐き出した後にその動きは完全に止まった。


瞳孔を上に向け、涙と鼻水で濡らした顔を俯かせ絶命するエリシアの体から光が消える。


処刑人の魔女は死んだ、そして栗色の髪をした人間の少女の死体のみが残された。



「……寂しい事を言わないでくださいまし……エリシア……」


背中越しに心臓へ突き立てた長剣を引き抜くと、ティナ・ガードナーは力の抜けたエリシアの体を支えながら絶望に沈められた愛する者の肉体を穏やかな笑みを浮かべ硬く抱き寄せる。


血で汚れた掌でその青白い頬を撫で、彼女の存在を穢す様に狂愛の魔女はその肉体を愛でた。


「そんな貴女だからこそ私は貴女をここまで愛した……私だけが貴女の孤独を知っている、私だけが貴女の苦しみを知っている、私だけが本当の貴女を……アスカという優しく弱々しい女性の全てを知っている……。私は貴女が嫌いだからこんな罠を用意したわけではございませんわ……貴女が迷わずに一人の女性を愛する事が出来るように、私以外の何もかもを壊しているんですのよ……」


目を細め愛を囁いた魔女はゆっくりと無残な死に顔を晒す彼女の体を地面へ横たえると、冷たい死者へ覆い被さり沈黙するその唇へ己の唇を重ねた。


頬を紅潮させゆっくりと顔を離した狂愛の魔女は相手の血で汚れた口元を緩め……腰から引き抜いた短剣を静かに首筋へ添える。



「貴女がやっと壊れてくれて嬉しいですわ、アスカさん……貴女が私にそうしてくれたように私も貴女を次の世界でめいっぱい愛してあげますわ……。さあ、行きましょう……もう貴女が傷付く心配のない愛に満ちた世界へ!私と貴女が永遠に一緒に居られる世界へ!」


心からの幸福に満ちた表情と声色を向けながら、ティナは短剣で自身の頸動脈を引き裂いた。


噴水の様に散る鮮血が青白いエリシアの顔面を汚し、笑みを浮かべたまま死を選んだ魔女の体は寄り添うように彼女の隣へと倒れ込む。



魔女達の狂愛によって破壊された世界が終わる。


生命の感じられない闇と沈黙の世界の中、指を鳴らす乾いた音が響いた。



----リセット、世界を再構築する。



-------


「……ふふっ……知れば知るほど、覗けば覗く程に……私は貴女の事を好きになってしまいます……」


女として恵まれたスタイルを持つ豊満な肢体を露わにしつつ、女神は彼女を抱き締めていた。


潤んだ瞳と紅潮した頬、そして僅かに吊り上げた口元は心からの愛情と色欲を相手へ向けている証だった。劣情に溺れる女神は物言わぬ彼女の頬に唇を這わすと、自身の膝に座らせる彼女の胸元へ指を這わせる。



女神は欲のままにその体に触れた、そうする事で彼女と……そして、過去の自分自身を慰めようとするかのように……。



「私も……貴女と同じだった……。神として人間を見守る立場にあった私は様々な人間の営みを見つめ、鑑賞し続けてきた。人間は我々を純粋に愛してくれているのだから、私も彼等を愛そうと全てを見つめ続けてきた……。誰かに必要とされるのはとても嬉しい事ですし、私のような存在が救いになるのならそれに勝る幸せはないと本気で信じていました……」


生まれ落ちたばかりの頃、創造の女神であるイヴは純粋に彼等を愛していた。愛する人間という生物の繁栄の為に時に実りを齎し、彼等が幸せに生きていけるように出来る限りの事をした。


しかし、人間はやがて彼女の期待とは異なる方向へ進んでいった。


「……人間という種が文明を持ち始め、更に生物として高みへ登った頃に……人間は同族間で殺し合う術を身に着けてしまった。あの星に芽吹いた命には呪いが掛けられているのです……自身の大切な者の生活を脅かす者を力で排除しようとする暴力的な本能が……。それは哺乳類であれ、爬虫類であれ、昆虫であれ変わらない……それでも、人間という種は縄張り争い以上の価値を醜い行いの中で見出してしまった……」


人類が戦争という行為の旨味を知ったその瞬間から、世界は血腥い暴力へ大きく依存していく事となった。


深い愛情を傾けてきた彼等が殺し、殺されていくその様を女神は見つめ続ける事しか出来なかった。その姿は誰一人として認知する事が出来ない……手足や首の転がる戦場の中で幾ら泣き叫んだところで、その悲痛な懇願は誰の耳にも届かない。


領土の拡張、資源の奪取、貿易路の確保……果てしない人類の野心は慈愛に満ちた女神の精神を軋ませ、粉々に打ち砕いた。


やがて、人類が戦争の大義名分として神の存在を掲げ出した頃にイヴは人間という種を完全に見限った。


抱き締める相手の背に顔を埋めると、その孤独な胸の内を明かしたイヴは嗚咽を漏らしながら語った。



「……私は、一人しか……居ないのに!……人間は異なる神を作り上げて、愛して、そして殺し合いの理由に使った!……私はそんな事を望んではいないのに!……異なる神を信じる者を、殺そうと躍起になった!……幸せになってほしかった、愛してほしかった……それだけで、それだけで……よかったのに……!」


涙に濡れた声でそう漏らすイヴは物言わぬ彼女を強く、皮膚に爪を立てながら抱き締める。



死後一ヶ月が経過し腐敗した紫色の皮膚に、その指が食い込み湿った音を上げて沈み込んだ。


創造の女神がその力により具現化させた佐渡明日香の腐乱死体は穴という穴から体液を漏らし濁った瞳を開く顔を俯かせユラユラと揺れる。


「……貴女は愛に殉じてこんな姿となってしまいました……。ゲームという架空の世界で愛を求め、命を削り切るまでその世界を駆け抜けた……どこまでも純粋で、どこまでも無垢で……そして今の私にとってそんなにも愛を信じる事が出来る貴女が眩しく感じるのです……。好きです、愛しています……アスカ、貴女を心から私は愛しているのです……」


黒く濁った眼球から血と粘液の混じる涙を零す無惨な亡骸の顎を持ち上げ、凄まじい異臭を漂わせる彼女の頬に創造の女神は唇を這わせた。


愛の為に魂を削り、そして孤独に死んでいった彼女の姿はイヴにとっては最も美しく輝かしい姿であると感じた。


甘く息を漏らす女神は漏れ出た体液により色の変わったシャツを剥がしながら一層濃くなる腐敗臭にも構う事なく……孤独死した佐渡明日香の肉体を愛撫する。


屍肉を貪るスカベンジャーの如く、その亡骸を指と舌で慰めた。




















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