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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!五十六話:涙の日

女の体は接続した大容量の魔石へ瞬時に全身の魔力を吸われ、その残酷な変化を迎えつつあった。


まるで雨風に長い年数の間晒された岩のように肉体が硬質化と劣化を同時に迎え、朦朧とする意識の中で彼女は必死に水晶石に手を添え続け愛する人を守るべく残された全てを捧げ続けた。


苦悶の声を上げるセシールの姿を見て、胸が張り裂けるような痛みを抱きつつアルトリウスは震える手でその体を背後から抱き締めた。


無理やり引き剥がしてしまえば劣化した全身が崩れ落ちてしまいそうで、心の底からやめて欲しいと願いながらも力で彼女を止められないもどかしさに精神を軋ませた。


「もう、やめてくれ!……頼む、やめてくれ!……」


「……アルト……リウス……」


「なんで、なんで!?どうして……オレなんかの為に命を捨てられる!?オレは君に最低な事をしたんだぞ!?……」


「……うれしかった、です……私達は……他の魔族と違って、色で誘惑するしか……武器がありません……。だから、性欲処理の道具として他の強い種族に弄ばれ……死ぬまで、その残虐な余興の犠牲に……なってきました……」


「……それはオレだって同じだったろ!君達を利用するために抱いて、さっきも仲間を無残に殺した!……」


「……でも、貴方は……夢を私達に……与えてくれた……」


冷たくなった体に泣きながら縋る彼の体温を感じ、セシールは目を細めると空いた片手を胸元に回された腕へ重ねようと持ち上げた。


だが、既に魔力の多くを吸われ劣化の進んだ肉体はそれを許さなかった。


まるでガラスが割れるような音を立て、愛する人と重ねようとした腕が破断し……床に叩きつけられ砕けた。


艦橋の正面では魔女が殺意のままに放った一撃とセシールが残された全ての魔力を注ぎ構築した防護陣が衝突する眩い閃光が太陽のように夜闇を照らしていた。


並みの魔族であれば肉体がとうに粉々に砕け散っているであろう状況にも関わらず、愛のみでセシールは姿形と意識を保ち続ける。



「……力強い、言葉の……奥で……どこか、貴方は……寂しそうだった……。どれだけ、野心を……語っても……その目は……何かを、怖がってた……」


「……こんな時に何を言ってる!?オレは……」


「……今、分かりました……はっきり、確信が持てました……。貴方は、一人になるのが……怖かったんですね……」


セシールの言葉を聞き、アルトリウスはその孤独な本音を吐き出すか否かを迷った。


だが、この場で話さなければ永遠に自分を理解してくれる人は居なくなるだろうと理解し、目を硬く閉じると涙を溢し叫んでいた。



「ああ、そうだ!オレは……僕は……もう、守れなくなるのが……怖いんだ!。父さんの死体の横でラウルが来るまで、母さんも妹も救えずに延々と……地獄を味合わされてきた!お前は無力な存在だって、散々現実を突き付けられてきた!……だから、ラウルを守って……力に、なって……!」


「……そんな貴方だから……もっと尽くしたいと、支えたいと……思ったんです……」


「せっかく力を手にする事が出来たのに!……世界を変えられるだけの、武力を……手にしたと思ったのに!……なんで、なんで……どうして僕はいつもこうなんだぁぁぁっ!……どうして、守りたい人が守れないんだ!……」


魔術によって青年の姿を偽ったダークエルフ族の少年はその身を引き裂くような悲しみと絶望のままにパキパキと音を立てながらヒビ割れていく彼女を一層強く抱き締めようとして、やがて……もはや抱擁にすら耐えきれない程にセシールの肉体が結晶化していく様を見て回していた腕を解いた。


触ってしまったら崩れてしまう、触れていれば消えてしまう。


まるで風によって少しずつ身を削る砂の城のように、結晶化していく肉体から輝く粒子を漂わせセシールは床に横たえられたまま弱々しく笑みを浮かべ自身の愛する人の泣き顔を見つめた。



「……ほんとうに……運命は……残酷です……」


「もう、何も言うな!お願いだ、何も言わないでくれ!……お願いだから……!」


「……そんな、悲しそうな顔をされたら……ますます貴方が……好きになってしまいます……」


「ッ……セシールゥゥゥゥッ……!」


「……もっと、はやくに……そんな、あなたを……みたか……った……」


涙の雫が彼の頬から零れ落ちる度に、その水滴が魔力を吸われ尽くしたセシールの肌へ沁み込んでいく。


生命の灯火を今まさに消そうとしているサキュバス族の女は、やがて限界を迎えた肉体が砕け散る前に彼へ最期の言葉を遺そうと口を開いた。


それは、女がアルトリウスという男に誓った永遠の愛だ。



「……来世、でも……あなた、を……想い、つづけます……アルトリウス……」



その時、船体が爆音と共に大きく揺れた。


彼女の生命によって辛うじて維持されていた防護陣が、魔女の一撃にとうとう耐える事が出来なくなりガラスが割れるような音を立てて打ち破られていく。


そして、そんなガラスが砕けるような音は艦橋の中からも聞こえた。



「……あ……あ……あぁぁぁぁぁッ!!……」



アルトリウスは見た、大きく見開いた瞳でその瞬間を見た。



愛した男を守る為に全てを懸け、その身に流れる魔力の一滴すらも彼を守る為に捧げた女の肉体が床に落とした皿のように、粉々に砕けていく様を……。


頭を抱え絶叫する彼の傍には、彼女だった肉体の破片が結晶となり散らばっていた。


「……やめ、ろ……いやだ……行くな、行かないでくれ……僕を残して……行かないで……おねがい……」


消え入るような、か細い声でそう漏らすと……アルトリウスは大きく揺れ始めた天井を見つめ褐色の肌が覆う頬に涙を伝わせた。


必死に追い掛けてきた夢に裏切られ、再び孤独の身となった彼はその願いを口にしていた。



「……ちゃんと、今度は……僕を見てくれている人に気付くから……だから、やり直させて……おねが----」


その願いは、膨大な量の魔力をぶつけられた事により誘爆した巨大な魔石の爆発に掻き消された。


-------  


船が沈む……。


船体後方のスラスターが破壊され、動力源である魔石が爆発した瞬間に青白い閃光に包まれた巨大な空母が爆発した。


網膜を焼き切るような閃光と、鼓膜を突き破るような轟音が鳴り響き……最も憎く、そして最も愛していた一人の魔女へ向けた特大級の目晦ましがその威力を発揮する。



「……殺してやる……殺す……レ”オ”ナ”ァ”ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


爆風や破片から身を守るべく防護陣を展開させ、核爆発のような巨大な爆炎の中へと私は飛び込んだ。


どこだ……あの女は、魔女はどこだ!?。


殺してやる……殺してやる……!!。



……居た!!。


数百メートル先に忌々しい暗い蒼色の光が見えた。


それは一分一秒でも早くこの世から消し去りたいあの女の痕跡……レオナ・ハミングバードという魔女の放つ虚ろな魔力……。



殺す……必ずお前を殺してやる……。



ゼッタイニ、ニガサナイ



「死ねぇぇぇぇぇぇえっ!!レ”ェェェェェオ”ォォォォォォォナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


「いひゃはははははぁぁぁぁっ!!食い千切ってやる!!エリシアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!」


暗蒼の刃を構え、彼女はこちらを視認すると青い残光を引きながら一直線に突撃する。


まるで発射されたミサイルと、それを迎え撃つ迎撃用ミサイルのように高速域を維持したまま私達は手にした凶器を衝突させる。


まるでじゃれ合う犬のように絶叫を上げながらぶつかり合い、殺し合う。


互いに向け合う憎悪と願望を吐き出しながら、急所を狙った一撃を至近距離で躱しながら果し合いを行う。



「お前は!!本当に!!悪い子だ!!……孤独な私の心に入り込んで、かき乱して!!そのクセに飽きたら捨てる悪い子だ!!エリシア、エリシア、エリシア!!私よりあんな小娘を選んだお前が許せない!!私を捨てたお前が許せない!!だから、だから……ふひひひぃぃっ、いひゃははははははははははあああああああああああ!!」


「黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!アンタの事だって欲しかった!!ちゃんと愛そうとしてた!!なのに勝手にぶち壊しにしたのはアンタの方でしょ!?アンタは黙って愛されてればよかったのに私の邪魔をするな!!皆に愛されたかった私の夢を邪魔するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


「ひどい……ひどい、ひどい、ひどいぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!!やっぱりお前は切り刻んで一生飼い慣らしてやらないとダメだ!!こんなに好きなのに、こんなに想い続けてるのに私の気持ちを無視して他の女に欲情するなんて!!お前がそうである限り何百人でも何千人でも殺してやる!!あの泣き虫の役立たずの小娘みたいに目の前で首を斬り落として処刑してやる!!その後にお前の内臓をまた犯してやる!!壊してやる、壊してやる、壊してやるぅぅぅぅぅぅぅううあああああああああああああああっ!!」


黒い涙を流しながら私達は吠え、穢れきった本音を吐き出し軋む心のままに魔力を暴走させる。


魔女として備わった能力を最大にまで高めた私達の背中から光の羽根が生えた。


それは、私達の肉体へ吸い込まれていく世界の魔力が放つ殺意の光だった。


距離を離す私達は息を荒らげながら互いの顔を睨みつけると、手にした剣を掲げた。


白光に包まれる終焉を与える処刑人の魔女の剣は相手の存在そのものを押し潰すような勢いで取り込んだ魔力によって質量を膨張させていく。


冥色の閃光を放つ虚の魔女の剣は自分の周囲の全てを呑み込むように霧状の魔力を展開し世界の全てを無に帰そうと破滅の力を解放する。


この一撃で世界が終わる。


全てが、終わる。



「……殺してやる……レオナ……」


「……壊してやる……エリシア……」


私は目の前の女を殺す、私を好きでいてくれた人を葬ったこの魔女を抹消する。


もう、この先の事なんて知らない……こんな世界の事なんて知らない。


どうでもいい、何もかもどうでもいい……。



もう、楽になりたい……。



雄叫びを上げながら、私達は世界を終わらせるその一撃を振るった。



















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