泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!五十五話:愛
「……か、艦の魔力が……動力があの光に吸われていきます!航行するだけの機能が既に失われています!」
「……何だ……あの、バケモノは……」
「分かりません!とにかく、メインデッキのハッチを開き竜騎兵達を向かわせ敵の迎撃を……」
前方で繰り広げられる二人の魔女の戦闘を呆然と見つめるアルトリウスの横で、残された僅かな魔力を使用し敵を迎え撃つべく女は魔晶石へ指を這わせた。
その時、轟音と共に船体が大きく傾く。
死闘を繰り広げる魔女の放った流れ弾が全長百メートルを超す鋼鉄の空母の上側面を掠めた。暗い青色を帯びたその一撃は虚の魔女が放つ桁外れの魔力を帯びた破壊光線だった。
甲板部分に位置する昇降用ハッチを掠め、並の攻撃魔術を跳ね退ける防護陣が刻まれた鋼鉄の船体が破損し、変形した。想定を遥かに超えた魔力という名の呪いを浴び、負荷に耐えきれなくなった機器類が軋みを立てて爆発する。最大で5匹の飛竜を収納できる格納庫にまで達した破壊のエネルギーは広大なその空間で出撃の瞬間を待っていたゴブリン族の竜騎兵と彼等を運ぶ多目的機動飛竜、ワイバーンの肉体を爆発と炎により焼き尽くした。
赤い警告メッセージと共に水晶石に浮かび上がる船体の状況を見て、女は悲鳴のような声を上げる。
「へ、兵員格納庫……損傷大!竜騎空挺兵の出撃は不可能です!……」
「バカな!ありえない!この船は魔界の支配者である竜の王、サラマンダー族との戦闘すら想定してオレが造ったんだぞ!?たった一発掠っただけで、こんな……こんなバカな事があるか!?」
「あの光の直撃を受けたらこの船は沈みます!防護陣を敷かなければ……!」
「ダメだ……ただでさえ最大出力で主砲を撃った影響で魔力を大幅に失っているうえにアイツらに残りの魔力を全て吸われた!もう、打つ手はない!」
自分達がいかに絶望的な状況にあるかを悟り、男は混乱しつつもその場で出来る限り最善の行動を取ろうと決意する。
「アンタ、名前は……?」
「セシール……」
「セシール、君だけでも今は艦から降りるんだ!そして、一人でも生き延びろ!……オレはここでやれるだけの事をする!」
「アルトリウス……」
「……オレのやった事は間違いだと気付いてたさ、正しくない事だと分かってた!……だから、もうこんな事に付き合う必要はない……」
肩に手を置き、静かに首を頷ける青年の表情は自らの死を恐れず何かを為そうという覚悟に満ちていた。彼は命懸けで自分を守ろうとしてくれている、そう理解したサキュバス族のオペレーターであるセシールは彼の言葉とは裏腹に……その持てる全てを彼に捧げようという決意を強めていった。
彼の為に、死のうと決めた。
白金と蒼い光の衝突が距離を詰め、こちらに近付いてくる。
もう間もなくあの怪物同士の散らす死と破壊にこの船は巻き込まれる事になるだろう。
女は大きく息を吐き出すと、水晶石に手を添え……自身の捧げる殉愛の念を口にした。
「……私の肉体をメイン動力炉に接続、魔力の全てを使い防護陣を構築します!」
「……は?……アンタ、何を……」
「……こう見えても、私はサキュバスなんです……ダークエルフの貴方より、魔力は優れていますから……」
「お、おい!正気か!?この船の動力炉の魔石がどれだけの容量なのかは知ってるだろ!?そんな物に肉体を接続させたらどうなるか----」
「はい、私……貴方の為に……死にます……」
迷わずにそう断言するセシールを見て、アルトリウスは息を飲み込んだ。
そして、一筋の涙を頬に伝わせながら微笑む彼女を見て感じた。
彼女を失いたくないと……。
「セシール!お願いだから聞いてくれ、オレは---」
アルトリウスはその瞬間、自分が長い時間を築き作り上げてきた復讐鬼としての自分が死んでいくのを感じた。そして、大切な者を汚され自分自身も汚された哀れな少年へ戻っていくのを感じた。
縋りつく様に叫ぼうとする彼の言葉を遮り、再び船体が大きく軋みを上げる。
慌てて顔を横に向けた青年の眼前には、巨大で禍々しい暗い蒼色が広がっていた。
死者の魔力を喰らう虚の魔女が展開させた攻撃魔術の術式陣が視界いっぱいに拡がっていた。
小さく声を漏らしながら再び青年が再び顔を相手に向けた時、彼は遂に感情を決壊させ泣き叫んでいた。
「やめろ、セシール!!……」
巨大な空母の動力源である魔石と接続し、一人の男へ心身を捧げた女の体には……まるで注ぎ込まれた呪いのように青白い刻印が浮かび上がっていた。
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殺す……殺す、殺す、殺す!!。
もう分かった、もう理解した。
この世界はあのイカれた女のせいで徹底的に私を苦しめる風に出来ている。全てが私に牙を剥き、全てが私に突き刺さるように構築されている。
誰を愛しても、誰を好きになっても、誰に夢中になっても……全てが無駄だ。
私の……私の何もかもを……否定する!!。
それなら、もう……こんな世界、いらない……。
「……消えろ、消えろ、消えろ……私の目の前から今すぐに消えろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「消えない!!ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと!!!お前を苦しめる為だけにお前の前に立ち続けてやる!!壊してやる、破壊して破損して摩耗して損耗して溶解させてやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!ひゃへへへへ、ぎひゅへへへへへへへへへへへへへへへへぇぇぇぇぇあああああああああッ!!!♡」
「殺す、殺す、殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
「ああああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひいいいいいいいいいっ!!好きっ、好きっ、だぁい好きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!また血の滴る内臓を凌辱してやる!!泣きながら喘ぐお前の腸にキスしてやる!!二度と離れないように手足を切り落としてやる!!舌を切り取ってしゃぶり尽くしてやる!!お前の肉体の全ては私のモノだ!!お前の感情も私のモノだ!!いひっ、ひひひひひひひひひひひひひひ!!こんなに愛してあげてるのに、なんて悪い子なんだお前は!!こんなにも好きなのに私の気持ちを弄んでぇぇぇぇぇぇぇえええっ!!!」
「だぁぁまぁぁぁれぇぇぇぇええええええええええええッ!!!」
気色悪い……私という存在を縛り付けるコイツの愛という呪縛がただただ、気色悪い。
死ね、お前は死ね。
すぐに死ね、今すぐに死ね、一分一秒でも早く死ね、コンマ数秒すらお前の命が存在する時間が忌々しい。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね!!。
「死ぃぃぃぃいねええええええええええええええええええええええええッ!!!」
何度もそうしてきた様に、金色に光る剣から最大限の魔力を乗せ……相手を縦に裂こうとその一撃を放つ。
当たれば一撃で叩き斬る事が出来るのに、あの不愉快な害虫はまるで降り下ろした掌を躱す蚊のようにその一撃を避けていく。
腹立たしい、心底腹立たしい……。
薄暗い冥色の軌跡を引きながら害虫が避けた先には邪魔な物体が鎮座していた。
それは魔界が送り込んだあの巨大な船だ。
今の私からすればそれは、単なる邪魔な障害物に過ぎない。
いや、これは……使える……今、アイツはこの船の後ろへと回り込んだ。
この巨大な鉄屑をここで破壊すれば動力炉の魔石が砕け猛烈な勢いの爆炎が周囲を包む。
そうすれば、あの目障りな害虫の視界をほんの一瞬でも奪える。
その隙を突けば、あいつを……レオナを殺せる!!。
「ひ、ひひっ!……殺してやる……殺してやる、レオナ!……」
脳が焼ける、心臓が体から飛び出しそうになる……。
唇の端を吊り上げながら、私は剣先を船の後部へ向けると全身から無尽蔵に湧き上がる魔力の全てを乗せ……その一撃を放つ。
技の名前もない、ただ殺そうという殺意のみで放たれたその一撃は船体後部のスラスターへ伸びる太軸のビームだ。
実に苛立たしい事に、さっさと爆発してくれればいいものを防護壁を張った船はその一撃に懸命に耐えている。
舌打ちしつつ私は船を破壊すべく剣先を向け続ける。
もう少しで殺せる……アイツを殺せる……!!。
全ての痛みから、私は解放される……!!。




