泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!五十二話:剣の女王
「……は?……今、何と……?」
「だから、この艦の主砲を最大出力で撃てと言った……。ラウルをオレから奪ったあの蛮族共に自分達が何をしたかを刻み込んでやるんだ……」
「……お、お待ちください!ジーク・ルーネの主砲を最大出力で撃てばこの国だけはない、人間の住まう大陸のおおよそ三分の一が焦土と化します!そこまでの虐殺を女王の許可なしに行えば我らは魔族全体の敵に……」
「それがどうした!?オレの味方は最初からラウルしか居なかった!ラウルだけがオレの全てだった!二人で必ず全面戦争を起こそうと約束したんだ!約束して、一緒にこの腐りきった世界を破壊しようと誓い合った!……彼は、死んだ……殺された……だからもう、オレには味方など誰も居ない!」
狂気と絶望に染まるその顔を見て、副官の男は察した。
彼はあの男が死んだ時点で、既に壊れていた。
正気を失っていた、理性などとうに金繰り捨てていた。
このまま放っておけば……彼は数十億人規模の大量虐殺すらも躊躇わずに行ってしまうだろう。
「ああ、ひどいじゃないか……ラウルゥ……アンタが勝手に助けたオレを置いて一人で逝ってしまうなんて……。目の前で家族を犯されて、そしてオレ自身も犯されて……そんな地獄の中でアンタはオレを救ってくれたっていうのに、あの真っ暗な闇の中で世界を照らす太陽みたいだったのに……。オレは足の爪から髪までアンタのモノになり、何もかもを捧げると誓ったんだ……なのに、それなのに一人ぼっちにするなんて……あんまりだ……あんまりじゃないかっ……!!」
フラフラと立ち上がる青年は両目から褐色の肌へ涙を伝わせると、既に会えなくなったその男を求めるかのように絶叫した。
「あのクソ忌々しい石の塊をラウル・ホワイトホースの墓標にするんだ!!ラウルが居ない世界などオレには必要ない!!人間も、魔族も揃って皆死ねばいい!!オレにとって世界とはラウルかそれ以外しか存在しない!!オレが欲しいのは彼だけだ、彼以外の全てがどうなろうか知った事か!!世界がオレから愛する者を奪うというのなら……こんな世界、消えちまえばいいんだぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」
彼はもう、弱肉強食が蔓延る魔族の世界で一方的な搾取を受ける者達を救う改革者ではなくなっていた。彼が弱者達に語り、そして巨大な基盤を作る原動力ともなった持たざる者達の反逆という理想の全てが嘘である事を自ら打ち明けたのだ。
彼を突き動かしていたのは、一人の男へ捧げる愛だった。
「警備兵!彼を拘束しろ!この男は反逆者となった!女王陛下の前に罪人として----」
「システム起動、オペレーターを一人残して全員潰せ……」
妄信してきたその青年の真意に強い憤りと失望を抱いたオーク族の男が声を荒らげたその時、艦橋内部に設置された防衛機構が作動した。敵対勢力に船が乗っ取られた事態を想定し備え付けられたその装備は、アルトリウスという絶対的な支配者のみが発動する事を許される処刑器具だった。
敵対者の侵入だけではない、意にそぐわない行動を取ったその場の人員全てを抹殺する青年の狂気だった。
天井全体に張り巡らされた巨大な術式陣が発動し、声すら発する間もなく紫の魔力を帯びた何かが階下の彼等を食らった。
首や胴を一瞬の内に食らったソレは、魔導兵器の優れた開発者にして魔術を極めたその青年の飼い慣らす使い魔だった。頭上から血を滴らせながら降りてきたソレらは血に染まる口から時折舌を覗かせ、その身を主の傍へと寄せる。
「こいつらはお前達と違ってオレの命令に忠実だ……そして、常に耐え難い飢餓に苦しみ苛立っている……。せっかく一人だけ残してやったんだから、オレの言う事をちゃんと聞いてくれよ?……」
隣の席に座る同僚の肉体が激しく痙攣する様を唖然としながら見つめていたサキュバス族の女性オペレーターは恐怖心や悲鳴を上げる前に彼に屈服した。歩みを進める彼に寄り添うように、巨大な蛇の姿形をする使い魔達が天井から次々と長い胴を垂らして降りてくる。人間を容易く丸呑みにする程の大きさを持つ頭を擡げ、体中から液体を垂れ流し体を震わせる彼女を四方から取り囲んだ。
両隣から噴き出した鮮血で全身を赤く染めた彼女の肩に手を置くと、アルトリウスは嗚咽を漏らす彼女の耳元で囁いた。
「お前達は一人残らず抱いてやったな、どいつもこいつもサキュバスだというのに涙を溢しながら激しく乱れ、オレに抱き潰されてきた……それは何故だ?」
「は、ひ……アルト、リウス様を……私達、全員が……本気で愛していたから、です……」
「そうか……今でも愛してるか?オレを……」
「あ、あ、愛しています!貴方様の、アルトリウス様のお役に……立ってみせますぅぅぅぅっ!……」
「オレはお前達を愛した事などない、そうすれば効率的に利用できるから抱いたまでだ……そして、これからもお前を愛する事はないだろう……」
「……あ……あぁ……あ……う”、あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!……」
唯一生きる事を許されたその女は、軋んでいた精神が遂に崩壊するのを感じながら頭を抱えて泣き叫んだ。
自らの理想や夢を託し付き従ってきたオーク族やゴブリン達とは違い、サキュバス族の彼女達は全員が男として彼を愛してきた。
そして、そういった感情を利用するためにアルトリウスも彼女達の愛情を使い絶対の服従を誓わせてきたのだ。
「さあ、主砲の発射には二人の認証が必要だ……だからお前を生かした、だからお前を必要とした……」
「わだ、じ……ずぎなんれす!アルトリウスさま、すきなんですぅぅぅっ!せめて、あいじでるっで……わだじを、あいじでるっで……いっでください”ぃぃぃぃぃっ!……」
「ああ、お前を愛してる……オレが最も愛した男に捧げる報復の一撃に手を貸してくれるお前の脆く汚れた依存心をオレは愛してやろう……。ラウルを殺した連中を共に殺してくれるお前をオレは愛そう……」
「あ……あ……あぁぁぁぁぁぁぁああ!!ありがとうございまひゅ!ありがとうございまひゅぅぅぅぅぅっ!ニンゲンを、ころせば、いいんですねぇぇぇぇぇえええっ!!?」
「……ああ、殺してやろう……!ラウル、ラウル、ラウル!アンタにこの一撃を捧げるよ!アンタの事が好きだったんだ、アンタと一緒に居たかった、アンタと一緒に夢を見たかった!アンタと森で再会したあの時にオレの中で復讐しかなかった灰色の世界に色が宿った!アンタは世界の彩りなんだ!アンタの為なら何でもやった!オレは抱かれても良かったのに決してオレを抱こうとはしないアンタの優しさが、温かさが、全てが好きだった!!好きなんだ、好きなんだよ!!だから、だから、だからこそォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
決して混ざり合う事のない大きな感情が、愛という名の狂気が全長100メートルを超す竜騎兵空母の艦橋に蔓延した。
赤く輝く警告シークエンスの浮かび上がる魔晶石に二人は手を重ねると、まるで二重螺旋のように独立した二つの感情が共通の目的を持ちながら線を描いた。
やがて一方通行の巨大な愛は、人間を殺戮するという同じ目的で繋がった。
「ひゃははははははあああああ!ニンゲンども、殺せば、アルトリウス様は喜んでくださるのです!!」
「ひひひひゃははははあああああああ!!ラウル、ラウル、ラウル!!殺すよ!!アンタを殺した奴らを殺す!!だから褒めて、褒めて、褒めてくれよォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
大蛇の使い魔がその祝祭を祝うかのように至る所から目線を送る中、二人は揃って声を上げながら自身の願望を叫んだ。
「「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええああああああああああああッッ!!!!」」




