泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!五十一話:アナタの内臓までもが愛おしい
目の前には、ジャンの顔があった。
私のよく知るジャンは……男の子みたいな端正な顔立ちで、国の王子様なんていう立場を背負い一生懸命頑張る女の子で……。
でも、そんな彼女が時折覗かせる弱々しい顔や泣いてしまいそうな脆さが放っておけなくて……好きだった……。
……私が見たかったのは強さの中にある弱さであって、目の前の顔は……この、表情は……。
「……失望したか?エリシア……彼女に……」
目の前のジャンは……鮮血で濡れた唇を半開きにして、損耗し尽くした精神を表すように少し開いた瞼から上を向く眼球を覗かせ……絶望と苦痛に擦り切れてしまった表情をしていた……。
仰向けに倒れる私の目の前に切断されたジャンの首を掲げ、静かに微笑むレオナは嗚咽を漏らす私を観察するように見つめると……手にしていた彼女の残骸を放り捨て私の体へと指を這わせる。
そして、ズボンのポケットを弄り……それを取り出した……。
「こんな物はもう、私達に必要ない……敵を倒すのにあの女の力を借りる必要なんてないんだ……」
「……レオ、ナ……」
「……私にはもう力がある……お前をずっと守り、手にするだけの力がある……」
……青い宝石は、ジャンが私に贈ってくれた愛そのものだった……。
死した人間に加護の光を授ける王の至宝、キング・クリムゾン……それは、あの子が知らず知らずに伝えてくれた愛そのものだった……。
……だから、それを……魔女として得た凄まじい力によって握り潰そうとする彼女を必死に……必死に止めようとした……。
「……やめ、て……おね、がい……ジャンの、好きの、証……こわさ、ないでぇぇっ……」
「……壊してやるさ……私以外がお前に向ける感情の全てを、他の肉を全て私は壊す……やっとお前をモノに出来たんだ、諦めてたまるか……」
パキパキ、ミシミシ……。
そんな、ガラスにヒビの入るような……何かが軋む音が聞こえる。
それは、魔石の上げる悲鳴であると同時に……私の心の悲鳴だった……。
なんで……なんで……。
皆を好きで居ちゃ……いけないの?。ずっと、ずっと、ずっと……母さんが死んでから私は一人ぼっちで誰にも嫌われないように生きてきたのに、皆に好かれようと努力したのに……心を押し殺して無理やり笑ったのに、皆それを気味悪がって仲間外れにする……。
好かれたいと思って身を削った私の生き方を、全員が否定する……。
「ひっぐ……う”、う”ぅぅぅぅぅっ!……なんで、なんでぇぇっ!……どうして、がんばったのに……すきになってくれないのぉぉぉっ!?……」
「……私はお前が好きだ……お前以外に必要なものなんてない……」
「ちがうっ、ちがうぅぅぅぅっ!……みんなに、みんなに好きでいてほしいの!……転生モノって、誰からも好かれるハーレムモノが流行りなんでしょ!?……カッコよくなれて、かわいい女の子たちにチヤホヤされて、愛されてぇぇぇぇっ!……」
「何を言っているのかよく分からんが……これでお前と私は永遠に二人だけで居られる……」
「こんな、こんなことなら……こんな、ゲーム……やらなかったのに!……もっと、乙女ゲーとか……そういうの、やったのに!……」
……もう、嫌だ……。
私の理想はこんなゲームでは叶えられない……此処に地獄はあっても、理想の世界なんてない……。
好きになってくれる子が他の好きになってくれる子を殺して、私を傷付ける……そんな悪夢の繰り返し……。
もう、ダメ……助けて……助けて……誰か、私を……。
私を、助けて
「ぐっ、ぎ、ぎひあぁぁぁぁぁああああっ!!お”っ、あ”っ、ぬ”い、で、ぬ”いでぇぇぇぇっ!!」
「……さあ、その焼けるような痛み、苦しみ……そして私の愛を刻み込め……」
「いだ、い!!いだい、いたい、いたい、いたい、いだい”ぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!!じぬ、じぬ、じんじゃう”っ!!やめで、やめでぇぇぇぇぇぇぇっ!!……」
魔石が割れるのと同時に、再生能力の失われた私の体が悲鳴を上げる。
ジャンの……好きの証が……消えた……。
私を好きでいてくれたあの子の気持ちが……砕けた……。
……もう、耐えられない……耐えられるわけ、ない……!。
出して、出して、出して!!私をここから出して!!こんな悲しい思いを何度も味わうぐらいなら、地獄に行った方がマシだった!!本当に好きだったのに、愛してたのに!!……なんで……なんで……!!。
「エリシア、お前は私を抱く時に……その細い指で私の尻をよく触っていたな……。最初は正直言って、あまりいい気はしなかった……自分の体に自信がないから、恥ずかしかったんだ……」
「ごほっ、お”っ……もう、だし……て……ここ、から……出してぇぇっ……」
「だが、お前はそんな貧相な私のカラダに触れて……興奮してくれた……。お前に教えられたんだ……愛する者に触れたいという気持ちに形や大きさなど関係はない!どんな汚らわしい場所であっても、どんなに醜い場所でも触りたいと思う気持ちこそが真の愛なんだ!……だから、だから……ひ、ひひひひっ、いひひひひひひひひひひひひひっ!!」
「あぎゃぁっ!!あ”っ、や、め、で、さげ、ぢゃう、さげ、る”、ざげ、あ”っ、お”ォォォう”っ!!……」
お腹に突き立てられた剣を、グリグリと……まるでこちらの悲鳴を楽しむ様に動かすと……その刃が、私の中身を割いていく……。
死ぬ、このままだと死ぬ……殺される……。
そして、何もかもを見られてしまう……お腹の中に詰まった悍ましい臓器の全てを、好きだったこの人に見られてしまう……。
もう、これ以上……私を……私を犯さないで……
「ふ、ふふっ!フヒャハハハハハハハぁぁぁっ!エリシア、エリシア、エリシアぁぁっ……お前がそうやって私の尻に触ってくれたように、私もお前の触りたいところに……お前のより深くて敏感なところに触りたい!快楽なんて比にならないような、お前の魂が上げる悲鳴の様なよがり声を聞きたい!」
裂けたお腹を、グチャグチャにかき回して……彼女は指先をそこへ這わせた……。
……まさ、か……まさか……そんな、まさか……!。
涙と鼻水を垂らし、どうにか身を起こした私の視界に……その地獄絵図は飛び込んできた……。
「……お前のハラワタに……私は触れたい……」
……こんな光景、嘘であって欲しかった……。
何もかも夢なら良かった、全部夢なら……どれだけ狂った光景であっても目が覚めれば嘘になるから……。
でも、これは夢じゃない……その指から伝わる焼けた鉄を押し付けられたような熱さも、全身に針の雨が降り注いだような痛みも、そして……相手の狂った顔を見て感じる薄ら寒さも……全てが現実……。
「あ”、あ”、あ”ぁぁぁっ……ひぃぃぃああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
涙で滲む視界の中、真っ赤な液体に濡れた管を私の中から引き摺り出したレオナが……愛おしそうに目を細め、湯気を立てる私の大腸にキスをした……。
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「な、何だ……あの連中は何を……?」
威圧感を与える軍服と鋭く光る牙が見る者に恐怖心を与えるオーク族の男はひどく困惑した声色で動揺していた。
サラマンダー級竜騎兵空母ジーク・ルーネの艦橋内部は大きな混乱に包まれた。
圧倒的な武力を用いて人間側の反抗の象徴であるコルセア王都を協力者と共に制圧し、革命成功の先陣を切り膨大な数の竜騎空挺部隊を降下させ人間という種を敗北に追いやる筈だったその作戦は大きく狂い始めた。既に魔界本国は空中戦力の要であるジーク・ルーネが人間界へ独断で進行している事実を把握し通信用の魔石を通して彼等へ幾度もなく警告を発していた。
人類との全面戦争に慎重姿勢を取る魔界の最高権力者の元にこの計画が知られれば、待っているのは反逆者として粛清される未来しかない。
滝のように汗を流しながら緊迫した様子で状況を知らせるオペレーターのサキュバス達が声を上げる中、偵察に送り込んだ竜騎兵が水晶石を通して船へ齎すその映像を見てオーク族の男は背筋に冷たい何かが走るのを感じた。
女が、女の腹部を切り開き……その内臓を引き摺り出して笑っていた。
その女達は人間側の協力者を打ち倒した敵対者であり、彼等にとっては排除すべき最大の障害だった。
だが、そんな彼女達が何故か……唐突に殺し合いを始めたのだ。
ノイズの走る水晶石の中では、灰色の髪をした女が泣き叫ぶ栗色の髪の女の腹部から悍ましい姿形の臓器を次々と掴みだし……血の滴る肉塊に舌を這わせて恍惚とした笑みを浮かべていた。
その背筋が凍るような光景を見た男は、長年の従軍経験から本能的に危機を察すると絶対的な忠誠を誓う主へ進言する。
「アルトリウス様!どうも様子がおかしいようです、ここは退くべきかと!……今ならまだ人間側からの求めに応じて艦を派遣したという事実さえ押し通せば魔界本国との折り合いも付く!貴方様が抱く真の理想にまで気付かれる事はないでしょう!どうか、ここは……」
ラウル・ホワイトホースが死したその時から呆然とした表情を浮かべ、顔を俯かせ沈黙する青年へ祈るような気持ちで彼は声を掛けた。
彼にとってラウル・ホワイトホースという男がどれほど重要な存在であり、そしてどれほど愛しているかも知っていた。だからこそ、理性の箍を外してしまわないか、副官を務めるオーク族の男はアルトリウスという一人の個人へ全てを捧げた青年の精神を不安視していた。
やがて、顔を上げた彼はそんな不安を払拭するような穏やかな笑みを浮かべ口を開いた。
「ああ、確かに……この状況は難しい判断が必要とされ、オレは最善の決断を下す必要がある……どうすべきかはお前に言われずとも分かっているさ……」
「……アルトリウス様、よくぞ耐えてくれました。我らは貴方様の意志に従います……」
胸を撫で下ろすと、濃緑の肌に包まれた顔に安堵の表情を浮かべる男は主の指示を待った。
そして、彼の発した言葉に再び大きく目を見開いた。
「……主砲、デアシュヴェータ・ディーヘルシェリンを最大出力であの城にぶつけろ……ラウルの亡骸ごとあの忌々しい蛮族共を殲滅するんだ……」




