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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!四話:初見殺し

「は、はぁっ、はぁっ!これで50体!……これなら、この試験は私達の勝ちも同然!」


「キャハハ……しんど……」


「は、張り切り過ぎよぅ……もう、動けないぃぃ……」


その三人は試験会場となる森の奥深くにまで進みライガを狩り続けていた。


意中の人物に気に入られたい一心で死力を尽くした彼女達の衣類はあちこちに傷が入り、薄く血が滲んでいる。周囲には狩られたライガの死骸が散乱し、濃厚な血の臭いを漂わせていた。


「でも、これで試験で最上位の成績を収めればきっとガードナー様もあのヘンチクリン娘なんかより私達を見てくれるはず!頑張りましょう!」


「キャハァ♪そうなったら次は三人で競争だねぇ♪」


「うふふっ!ガードナー様は私がかっさらちゃうしィ♡」


三人は手を取り合いながら立ち上がると痛々しい傷跡を晒しながらも笑みを浮かべはしゃいでいた。


漂う戦闘の熱気と血の臭いに引き寄せられたその異形の巨体がすぐ背後にまで迫っている事にすら、疲労に喘ぐ彼女達は気付けなかった。


笑い合う三人の内、最初に犠牲となったのは左端で笑みを浮かべていた少女だった。


開かれた巨大な顎が上半身を覆い、腰までを吞み込むと上下の歯をその華奢な肉へと食い込ませ咥え込んだ。肉が抉れる粘液質な音と、硬い骨の潰れるバキバキという音が響き……笑顔を浮かべたまま凍り付く二人の顔面へ生暖かい液体が降り注いだ。


「……え、えっ?……」


「……キ、キャハ……ハ……?」


肉塊と化した少女の体を食い千切り、腰から下を叩きつけるように放るとその異形は唸りを上げながら更なる獲物へ目を細めた。


全長20メートル、濃緑の黴が浮んだ鱗を持つその異形の名はグリーン・ディクテイター……緑溢れる森の王にして全ての魔物の生態系の頂点に立つ緑の独裁者だった。


翼に傷を負った事により地上での生活を選んだ竜族の成れ果ては、更なる獲物へ向けて大地を震わす咆哮を上げながら襲い掛かった。


--------


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


その声はすぐ近くから聞こえた。


本当に、本当に……ランダムであんなバケモノを登場させるなんて悪趣味もいいところだ。


「い、今の悲鳴は……それにさっきの鳴き声……」


「行こう!」


「ちょ、ちょっとエリシア!?」


戸惑うティナに脇目も振らず、私は駆け出した。


この戦闘イベントで対峙するグリーン・ディクテイターはゲーム中トップクラスの性能を誇る魔物、ドラゴンの一種だ。そんな奴がどうしてこんな序盤から登場するかというと、それは今後私が行う事になる選択の重みを体験させるためだった。


冗談じゃない……冗談じゃない!。


私は助けると決めた……例え、本編中では助からない命であっても助けるって決めた!。


露悪趣味丸出しのシナリオの犠牲になんて、絶対させない!。


やがて、緑色の巨大な影が見えてきた。


そいつは、二本の足で立ち上がるとゆっくりとこちらを振り向き……そして……。



「……ギャ、ハ……だ……ず……ぇ……」


……少女の下半身を咥え込み、その口元を真っ赤に染めて血走った瞳で私を睥睨する。


息を飲み込む、叫ぼうとしたその瞬間……。


ベニヤが割れるような音と共に、千切れた上半身が地面へと落ちた。



「……あ、あれは……グリーン・ディクテイター!?……森の……独裁者……!」


「……うん、そうだね……」


「……あの子達は……もう……」


いや、まだ……まだ、生きてる……まだ一人……!。



「……あ……あぁ……いやぁぁぁぁあっ!!」


腰を抜かした彼女は立ち上がる事もできず、無残に食い千切られた友達の亡骸を前に頭を抱えて泣き叫んでいた。


……覚悟を決めよう……自分の命を投げ捨てる覚悟、大切な人を守る覚悟、そして……そして……。



無念のまま、死んでしまった人の想いを継ぐ覚悟を……。



「ティナ!その子を連れて助けを呼んできて!」


「な、何を言ってるのよエリシア!あなたこそ、その子を連れて逃げなさい!今のあなたでは無理よ!」


「……いつものお嬢様口調、抜けてるよ……」


「な、なっ!そんな事を言ってる場合じゃないでしょ!?」


「そんな場合だから言ってるの!!……お願い、言う事を聞いて……ティナ……」


半ば怒鳴るような私の声を聞き、彼女は呆然としていた。


……きっと、そうすればティナは言う事を聞いてくれる。


心優しく、身も心も美しく……そして、正義感の強い彼女であればこういった時にどうすればいいかを理解してくれる。



「……助けを呼んで、すぐに戻りますわ……死なないで、エリシア!……」


「……死ねないよ、皆を守りたいから……」


「……ご武運を……」


低く唸り声を漏らす緑の独裁者の前へ、私は一歩踏み出した。


背後で腰を抜かした少女に肩を貸すティナへ振り返ると、未だに迷う彼女の背を押すべく笑顔を浮かべた。



「またね、ティナ!」


「また、会いましょう!エリシア!……」


もう、言葉は要らない。


私達はまた……再会する……。



絶対に、また……会うんだ……!。



<……さあ、選択を……己が信念と想いを載せた決断を……>


世界が、割れる。


ガラスが砕けるようなエフェクトと共に、真っ暗な空間が広がった。



<天秤の皿へ自らの決断をお載せなさい、切り捨てる物を選びなさい……>


ゲームの中では、私はどちらかを選ばなければならない。


逃げるか、戦うか……二週目以降のデータならともかく、初期データの今あのバケモノと戦えば死ぬのは分かってる。


こんな異常な状況で死ねばどうなるかなんて分からない。本当に死ぬかもしれない……。


でも……それが、何だって言うの?。


私は既に一度死んだ、惨めで滑稽で……最低な死を迎えた。


そんな私に今更死の恐怖なんて……感じる筈もない。


死ぬ事なんかよりも、とっても怖い事がある……それは……。



「……何にも残せずに、死ぬのだけは嫌なの……」


母さんの細い指を思い出す、必死に嫌な現実と戦っていたあの頃を思い出す、私という人間の人生を思い返す。



「……今の私には経験がある……そして、まだ誰かの死に悲しむ心がある……!」


だったら、それなら……だとしたら……。



答えなど、決まっている……。



「私は戦う!戦って死んでやる!何度でも、何千回でも死んで皆を守る!それでも救えなかった命があるなら、私はその百倍の命を救う!この体が髪の毛一本まで消滅するその時まで、私は誰かを救う!」


迷いなんてあるものか、躊躇いなんてあるものか……。


救うんだ、私は……この残酷で悪趣味な世界の中で……。



-----死んでも、救ってみせる!!。



目も前の天秤が大きく左へと傾いた。


再び世界が再構築される。


選択を行った私の世界が動き出す……。


さあ、死のう……誰かを助けるために、死のう……。















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[気になる点] 流石につっこませてくれ。 貴女達も助けるよ!とか意気込んでたのに、事前作何もなく死なせちゃってるのどうなん? 主人公ちゃんは物語の展開知ってたんだよね? 悲鳴が聞こえて現場に向かう、じ…
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