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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!四十八話:肉薄

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉあっ!!」


全身を焼き尽くすようなその衝動に任せ、私は地面を蹴ると弾丸のようなスピードで距離を詰めその男の前で身体の動きを止めた。


狙う個所は一つ、頭だ。


バラバラにしてやる……全身をボロ雑巾みたいに引き裂いて、グチャグチャにしてやる!。


まずは頭を潰す、その後に手足、そして胴もぶち抜く。



殺す、殺す、殺してやる!!。



「死ぃぃぃぃいねぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええっ!!」


一撃で鎧すら貫通するその一撃を、私は顔面に向けて放つ。


身体能力を強化された今の私は一本の矢であり、槍だ……正確無比に相手を殺す武器だ。



拳に伝わったのは血の温かさではない、硬い金属の冷たさだ。


「今の貴様は、まさに獣だな……血に飢えた野獣だ……」


「うるさい!死ねっ、死ねっ、死ねぇぇぇぇぇぇっ!!」


どれだけスピードを上げても、素早く拳を突き出しても……この男は私の殺意から動きを予測して、次々と攻撃を防いでくる。


ゲームをプレイしていてもなかなか勝てなかった……何十回、何百回と死んで……やり直した。


正直、随分このゲームをやり込んだ私であっても一度も死なずに勝つのは難しい……。


それでも、隙を見せるタイミングは知り尽くしている!。


私の腹部を蹴り飛ばすと、男は静かに剣を両手で構え攻撃魔術を放つ体勢を整えた。


これが、唯一の……攻撃のチャンス……!。


「レオナ!」


私が名前を呼ぶ頃には、既に彼女は動き出していた。


サーベルを手に血走った瞳で相手を捉え、レオナは頭部を斬り飛ばすべく横へ刃先を振るった。


身体を後ろへ傾け、その一撃を避ける相手の懐へ飛び込むと……私はその黒い鎧ごと、相手の心臓を貫こうと青い魔力の輝きを纏う右腕を咆哮と共に突き出した。


拳は確かに、分厚い重金属の感触を捉えた。


だが、しかし……。


「……魔剣で防ぎを入れ、この……威力か……!」


それは偶然だったのか、あるいは英雄と呼ばれた男が条件反射として繰り出したカウンターなのか……。


私の拳の先には鎧ではなく、胸を守るように構えられた魔剣の剣身が軋みを立てて震えていた。


だが、渾身の一撃は分厚い剣越しにすら凄まじい衝撃を与え男の臓器を激しく揺さぶる。


吐血しながら唇を吊り上げた男は、荒く息を漏らしながら魔剣の周囲に漂う魔力を一気に放出させる。


マズい……マズい!アレが、アレが来る!……。


広範囲に対象に大ダメージを与える超特大級の大技が……!。


この男の持つ、ダインスレイブの放つあの技が……!。


コイツが最も殺したい相手……それは、それは恐らく……。



「ジャァァァァァァァァァァァァァンッ!!」


私は迷う事無く相手に背を向け、ジャンの元へと走る。


コイツは恐らく、水と雷の魔術を複合した大技……インディグネイト・ドミネーターを使う気だ!。そして、その対象は私達だけではない……ジャンも狙っている!。


水の誘導線を敷いた後に強力な雷の一撃を流し込み、まるで電子レンジのように相手の肉体を破裂させる魔導兵器の悍ましい一撃をコイツは使う気だ!。


キング・クリムゾンの魔石の効果で守られた私達は何とか生きているかもしれない、でも……効果を得ていないジャンが死ぬ!。



やらせない……やらせて、たまるか!!。


「やらせるか!……」


レオナがその異様な魔力の高まりを察し、剣を持ち上げ足を踏み出した。


だが、その体が上空から放たれた閃光により弾き飛ばされる。


……ちく、しょう!!こんな時に……こんな時に……!!。



『こちら、竜騎空挺師団第一大隊!制圧目標を視認!対象以外のニンゲンを上空より攻撃する!』


鎧を纏った騎士とは違う、緑の野戦服に身を包んだ小柄な怪物……近代化された武装と戦闘技術を持つゴブリンの兵士達が空挺兵輸送用の比較的小柄なドラゴン、ワイバーンの背に跨り手にした魔導兵器を乱射する。分厚い対魔力装甲で身を包む巨大なドラゴンが……兵隊を乗せ上空を旋回していた。


「レオナ!!……」


「これが世界を憎む我々の意志、これが世界を焼き尽くす我々の力!!さあ、焼かれるがいいエリシア・スタンズ!……」


青いラインは真っ直ぐ、ジャンの身体へと伸びている……。


へたり込んだまま動けないでいる彼女は恐怖で引き攣った顔をしたまま息を飲み込んだ。


……もっと、もっと……もっと力が要る!。


守るべき力を、敵を倒す力を……。



アノクソヤロウヲ、ブッコロスダケノチカラヲ……!!。


私は自身の無力さと、そして……敵であるその男を呪いながら絶叫しジャンの体に覆い被さった。



「インディグネイト・ドミネーター……!!」


男の声と共に、眩い閃光が私の背中を焼いた……。



------


「……エ、エリ……シア……?」


「……だい……じょ……ぶ?……」


「……は、い……」


「……よか……た……」


ジャンを抱き締めていたエリシアは、そこで唇から大量の血液を吐き出した。


魔石の加護により肉体の蒸発は免れたものの、強力な雷の一撃を受けたその背中は醜く爛れ……溶けた士官服の背中からは焦げた肉が無惨にその姿を覗かせていた。


瞳を震わせるジャンの手がその痛々しい傷跡に触れると、既に痛覚すらも焼き切れた彼女は弱々しく笑みを浮かべた。



「……もっと……かっこ……よ……く……まも、れたら……よかった……の、に……」


「……あ……あ……あぁぁぁぁあっ!!……エリシア……エリシアァァァァァッ!?……」


「……ごめ、ん……ね……ジャ、ン……」


自身の掌を覆う赤黒い血液と溶解した肉片を見てその惨たらしい状況に気が付いたジャンは、自分を守る為に瀕死の傷を負ったエリシアの体を抱き締め泣きじゃくる。


そんな二人の元へ歩み寄る男は、静かに魔剣を構え言い放った。


「貴様の理想は誰も救えない、貴様の言葉は誰も守れない……それが貴様の力の限界なのだ、ジャン・フィリップス・コルセア……」


「……わた、し……わた、し……そん、な……エリシア……エリシア……やだ……やだぁぁぁぁぁっ!……」


「貴様の否定した我々には守るべき力がある!この力で我々は世界から見捨てられた者達を救済する!……目の前で守りたかった者を失う気分はどうだ?心から信頼した者が処刑される絶望はどうだ?私はそれを二十年前に一晩の内に味合わされた!家族の様に愛してきた部下、守る筈だった人々……その全てを殺された!他でもない、貴様の父親の罪によって!」


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!……殺すなら、私を殺して!!私を殺してよ!!なんで、エリシアを……エリシアがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!……」


「殺してやるさ、これからな……」


心の折れたジャンと、彼女の抱き締めるエリシアに向け剣先を向けると、ラウル・ホワイトホースは淡々とした表情を浮かべ宣告する。


自身に刃向かう二人の少女を処刑すると、その場で通告する。



「さあ、死ね。何も守れぬ後悔と己の非力さを呪いながら死ね……そして理解するがいい、守るべき力とは絶望の擦り切れた先にある呪いのみによって生まれるのだと……」


「う”、う”ぅぅぅぅっ……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……エリシア……」


湿り気を帯びた背中の熱傷を撫でながら、ジャンは目の前の相手に自身の非力さを詫びた。


心からの後悔と、悲しみに溢れた彼女の声を聞きながらエリシアは自身の心臓の鼓動が少しずつ弱まっていくのを感じた。


全身の感覚が消え失せ、音すらも聞きづらくなる程に命の灯火が弱まる中で……自分の体を包み込む彼女の体温と涙に濡れた声だけは、異様にはっきりと感じ取る事が出来た。


霞む視界が白い霧に覆われた瞬間、エリシア・スタンズは唇の端を僅かに吊り上げる。



彼女は自分の死により、相手に勝てる事を確信した。



-------


ラウル・ホワイトホースは無言のままに魔剣を両手で構えると、身を寄せ合う二人の心臓を貫き確実な死を与えるべく突きを放った。


膝を突き抱き合う二人の胸部目掛け、低い位置へと繰り出された一撃が鈍い音を立て……その肉体へ入り込む。


零れ出た鮮血が剣を伝い、男の手元へと流れ落ちていく。


しかし、手に伝わるその刺突の感触は男の想像していたものとは違っていた。



「……命拾いしていたものを、死にに来たか……レオナ・ハミングバード……」


「ぐ、ふ……!」


「死にたいのなら止めはせんさ……無価値に、無意味に死ぬがいい……」


膝を突く二人の心臓目掛けて放たれた突きは、レオナの腹部を貫いた。水音を立て引き抜かれた刺突創からは赤い液体と共に皮膚の下に納まっているべき器官が垂れ下がり……生命活動を続けるうえで深刻な危機的状態にある事を見る者へと伝えてくる。


「……エリシア、は……わたしの、モノ……だ……」


「下らぬエゴで命を懸けるか、それもまたいいだろう……」


「……だか、ら……しぬ、ときも……いっしょ……」


「是非もない……その黒い欲に溺れて死ね、二度と這い上がる事の出来ない泥沼の様な感情に沈んで死ね!」


女は苦し気に息を吐きながらも、それでも……心の底から幸せそうに笑っていた。


ラウル・ホワイトホースは高々と掲げ相手の頭部を刎ね落とすべく息を整える。



その時だった。


涙に濡れた声で愛する人の名を呼び、詫び続ける少女が抱き締めていたエリシア・スタンズの肉体が青い光に包まれる。


その異変を感じ取った男は死にかけている目の前の相手ではなく、死んだはずの相手を包む怪異へと意識を向けた。


青く、そして白みがかった光を帯びるエリシア・スタンズはゆっくりと立ち上がる。


そして、目の前で呆然とする相手の髪を撫でると穏やかな口調で言った。



「……貴女の託してくれた力が……私とレオナを守ってくれた……」


「……エリ……シ……ア……」


「……この魔石の本当の力は、手にした者が死んだその時に初めて効果を発揮する……。だから、本当は自分が守りたい人に託すのが正しい使い方なの……」


ジャンは王族が独占し続けてきたその魔石について、何も知らなかった。手にした者の身体能力を上げるという表面的な効果しか教えられてはいなかった。王政政治の終焉というそれまでの立場が崩れていく中で、彼女の兄はその真の価値に気付く筈もなく王子の証としてその魔石を押し付けた。


そして、ジャンは……その隠された魔石の正しい使用方法を知らぬ内に行っていたのだ。


王の至宝、キング・クリムゾンは生きたいという人間の意志に呼応し奇跡の力を与える。


傷を癒し、敵を打ち倒す術を齎し、あらゆる敵を殲滅する。


加護の光は共に魔石の能力を付与されたレオナにも注がれ、意識を失った彼女の腹部の致命傷を癒していく。



王族に伝わるその魔石の完全な加護を受けたエリシアは、ゆっくり振り向くと全身に纏う青い光を反射させた瞳で敵対者を睨みつけた。


拳ではなく剣で、相手を殲滅すると決意した。


















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