泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!四十七話:救世主
「……あ、あぁぁ……」
「……見届けよ、王子よ……これが、虐殺なのだ……」
「……い……あ……いやあ、ああああああああああああああ!!あ、あ、あぁぁ、あ……なん、で……わた、し……わたし……しらない、のに……」
「ならば、これから知ればいい……これから刻まれればいい……」
「いやああああああああああああああっ!!わたし、知らないぃぃぃぃっ!!こんな、こんなの知らない!!あ”ああああああああああああっ!!」
「……これが、失った者が抱く……喪失者の痛みだ……」
自身の顎を持ち上げるその手を振り払うと、ジャンは両手を地面へと突き嘔吐した。
高々と聳える王城の屋上からは、その権力の象徴以外の全てが焼け落ちた煉獄が広がっていた。何もかもが焼け落ち、コルセアという国の全てが崩壊した。
胃が引き千切れるほどの痛みと共に、その重圧に負けた口からは醜い音を立てて吐瀉物が吐き出される。恥じらいや、自尊心すらも捨てさせる大虐殺を前にひたすら嘔吐を繰り返した。
「……貴女には心底、失望させられた……」
「ひっ、あああああああああっ!!えり、しあっ、えりしあ、えりしああああああああっ!!やだ、やだぁぁぁぁぁぁっ!!だずげで、だずげでぇっ!!」
「こんな奴らの為に……私の、私の家族は!!あの村の罪もない人々は!!……アルトリウスは!!……」
男は引き抜いた魔剣を彼女の首筋へと宛てがった。
民の為に命を捨てる覚悟でその生き方を選ぶ彼女には、もう……その先の未来が思い浮かぶ事はない。
恐怖心と絶望によりズボンを濡らしながら言葉として意味を為さない悲鳴をジャンが上げたその時だった……。
「……アンタ、なに……してんのよ……?」
その背筋を震わせる殺意に満ちた声と共に、男の左頬骨を砕く一撃が殺意に満ちた言葉と共に繰り出された。
顔面の骨格全体が軋むような衝撃を受け、男の肉体は大きく真横へと吹き飛ばされる。
床を転げ回り、やがて揺れる視界の中で鼻血を一筋垂らしながら起き上がったラウル・ホワイトホースは霞む視界の中で怒りと殺意に満ちた二つの視線を認知した。
「……私はお前を許さない……アレッサを私から奪ったお前からまずは殺す……。そして、死体を八つ裂きにする……」
返り血を顔面に浴び、灰色の髪を赤く汚した女は静かではあるものの凄まじい怒りの籠もる声で言った。
レオナ・ハミングバードは血液の付着した剣先を払うと、確かな殺意を以て相手と対峙する。
「……この子は、もう充分に苦しんだ……それなのにもっと苦しめて傷付けるなんて許せない……。だからアンタの言ってる事はどれだけ崇高に聞こえてもただの八つ当たりなのよ……自分の痛みを他人に転嫁しないと生きていけないクズ野郎……!」
震えながら呆然と目を見開く相手の肩を強く抱き寄せ、エリシア・スタンズは格闘武装であるタイタンのリングを嵌める手で少女の髪を撫でた。
包囲した兵達の全てを打ち破り、疲弊した肉体を引き摺り階段を駆け上がってきた二人の女は脳を焦がさんばかりの怒りを宿し変革者と対峙する。
「……驚いた、この短時間で同志達の包囲を破るとはな……」
「時間なんて掛けない、下では私の為にティナが一人で戦ってる……私はあの子の事だって好きだし守ってあげたいの……。だから、速攻でアンタをブチのめして三人で帰る……」
「貴様は状況を理解しているのか?魔界最強の空中空母がこの城以外の全てを焼いた……もうお前達が帰るべき場所はない、此処で死ぬ以外に道はないぞ……」
「……悪いけど、好きな子達以外の事なんて考えてる余裕ないの……私が今すぐやるべき事は皆の心をズタズタにしたお前をバラバラにしてやることだけだよ……」
そのどこまでも自身の欲望に忠実な言葉は怒りを通り越し、笑みすらも男に浮かばせていた。小さく声を漏らしながら笑うと、ラウル・ホワイトホースは魔剣の剣先を立ちはだかる敵達に向け血の滲む唇を吊り上げた。
「やはり、お前達も私と同じだ……どれだけ崇高な言葉で人を酔わせても、その心は醜いエゴに満ちている……!」
「……一緒にしないでって言ってるでしょ……私はアンタと違って亡霊なんかじゃない……」
「……亡霊、か……」
死者を想い、死者の無念を晴らすために行動し続けた自分を亡霊と評した彼女に清々しさすら覚えつつ男はその魔力を解放させる。
胸元に縋り付き、泣きじゃくるジャンの額にキスをするとエリシアは子供をあやす母親のように穏やかな笑みを浮かべ怯える彼女を勇気付ける。
「……大丈夫だよ、ジャン……もう貴女を泣かせるような事は絶対にさせない……」
「……ひっぐ……エリ、シア……エリシアぁぁっ!……」
「……私、寂しがり屋なのに……貴女が泣いてると甘えられなくなっちゃう……」
「……エリシアぁぁっ、エリシアッ、エリシアッ、エリシアッ!……」
肩に手を添え、エリシアは自身の名を何度も叫ぶ少女の頬にキスをすると静かに立ち上がった。
そして、剣撃を凌ぐスピードで一撃を繰り出す格闘戦を行うべく冷たい殺意に満ちた瞳を相手に向け武装した両手を掲げた。
隣に立つレオナもサーベルの刃先を真っ直ぐ斬り倒すべき対象に向けると、エリシアの動きに追従するべく静かに膝を落とした。
「これは、信念の衝突による高貴な決闘などではない……私怨に満ちた愚かな闘争だ。私の抱く呪いとお前達の抱えるエゴ、どちらかが生き残る……」
魔剣ダインスレイヴの刃先が二つに別れ、その膨大な魔力を周囲に四散させる。
水と雷の二つの魔石を組み込んだ魔剣を構え、黒い鎧を纏う変革者は吠えた。
「さぁ、始めるぞ!再生の為の破壊、創造する為の戦争を!……」
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最上階が大きく揺れ、凄まじい魔力の高まりを感じた。
どうやら、彼女達は遂にあの男と戦闘状態に入ったようだ……。
だとしたら、もう……遊んでいる時間はあまりない……。
「貴様!貴様はいったい、何なんだ!?……なぜ魔導槍が通じない!?」
「ああ、そういえば私……人間ではありませんのよ?」
「ふざけるな!この、バケモノがあぁぁぁぁぁぁあっ!!」
あまり早く片付けてしまってもエリシアに違和感を悟られてしまう、だから適当に彼等と遊んでやっていた。
だが、もう充分だ……あの男を殺せば全てが私の計画通りに全てが動く。
エリシアの……アスカさんの心を砕く残酷な罠がいよいよ……あの人の四肢を締め上げる。
ふふ、うふふふ……。
「あはははははははははははぁぁぁぁぁっ!!ひひ、いひひひひひひひぃぃぃっ!!……待っていてエリシア、自由奔放な貴女の心を私が閉じ込めるまでもう一息!!硬く冷たい鎖を貴女の柔肌に食い込ませて拘束し、キツく首を嵌めて窒息させ、貞操具で貴女の欲を支配する!!私の愛が貴女の全てを支配する!!もう、私以外に見なくてもいい……欲情も、胸の高鳴りも、頬の紅潮も、濡れる唇も、流す涙も……ぜえんぶ、私のものですわ!!」
ああ、体が焼けてしまいそう……溶けてしまいそう!!。
きっとこの世界の結末が貴女に残す爪痕は、貴女の何もかもを破壊する!。無垢な愛を汚し、私の愛が体内へと肉を突き破りながら侵入して掻き回す。
貴女が、貴女が悪い……全部、貴女が愛してくれないのが悪い……。
犯してやる、犯してやる……エリシア・スタンズという肉体を凌辱し尽くして、サド・アスカの魂の何もかもを……私だけのモノにする……。
気が付けば、周囲で人が燃えていた。
昂った精神に呼応するように、私の中の魔力が暴走を始める。
焼けろ、焼けろ、何もかも焼け落ちろ。
魔女の恋は狂気的に全てを破壊する。
そして、魔女の愛はどこまでも一途に……唯一人の想い人を見つめ続ける。




