泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!四十六話:侵攻
「それにしても、貴方も随分と思い切った事をなさるお方だ……サラマンダー級という最も名誉ある位を王女直々に賜ったこの艦を護衛も無しに一隻で敵地に送り込むとは……」
「ああ、その事なら気にする必要などない……この艦の開発責任者はこのオレだよ、奴等はオレが居なければどうせトロールの十倍はデカいこの艦の動かし方も分からないだろうからさ……」
緑の肌をしたオーク族の副官が呆れるような目線を送る中、その巨大な船の司令塔とも言うべき操舵室の中央に腰を下ろす青年は褐色の肌に覆われた端正な顔立ちに子供の様な笑みを浮かべ言葉を返した。
人間以上に魔力を扱う事に長けた彼らが建造した竜騎兵空母の名はジーク・ルーネ、彼が建造した空中機動艦という全く新しい戦術を可能とする概念の中で最も大きなサイズを誇る戦場の兵士達の母親であり帰るべき我が家とも言うべき巨大艦だった。竜族が支配を強める魔界において、様々な兵器や攻撃用魔術にランク付けが為される中で最高位を表すサラマンダーの位を与えられた魔界の武力の象徴とも言っても過言ではない旗艦だった。
船の中央部に位置する艦橋では椅子に腰を下ろした妖艶な雰囲気を纏う女性オペレーター達が水晶石に浮かび上がる文字を読み上げ艦の状況を青年へと伝える。
「魔動力炉、出力を落とし低速で戦闘区域へ突入!」
「魔導砲、剣の女王の出力調整!目標、コルセア王城周囲の建造物!」
「発射パターンを変更、四散型炸裂魔術弾頭による制圧射に設定!」
緊張に声を震わせる彼女達は魔族の中でも位の低いサキュバス族に属する女性達だった。弱肉強食の掟が支配するその世界の中、敵を打ち滅ぼす力のみが権力を握る無慈悲な世界で彼女達の様な存在は容赦なく狩られ種の絶滅という危機を迎える程に追い詰められていた。
艦の支配者である彼の隣で表情を引き締める緑の肌をしたオーク族もまた、上位者達にその命を体の良い戦力として消費され続けた結果種の滅びを迎えん程にその数を減らしていた。
一人のダークエルフの青年に救われ、絶対の忠誠と愛を誓う彼等の多くがそうした魔界という過酷な世界で滅びようという弱者達の集まりだった。
報告を受けた青年は不敵な笑みを浮かべ、束ねたブロンドの髪を揺らしながら勢い良く白いカッターシャツの生地に覆われた腕を掲げた。
「絶対にあの城には当てるなよ!……オレの大事な人があそこには居るんだ、この命と人生を全て捧げても惜しくない大切な人がな……」
「了解!炸裂魔術弾頭の軌道予測完了!王城へは破片一つ当てません!」
「よし……それじゃあ始めようじゃないか!オレ達の魂の闘争を!戦争という救済の光で世界の暗闇を払う第一撃を!」
「砲門解放、魔導砲デアシュヴェータ・ディーヘルシェリン発射準備完了!」
重々しい轟音と共に、巨大な三角形のシルエットを持つ空中空母の艦首下部からその砲塔が伸びた。重要拠点制圧という思想で設計されたその船は膨大な兵や武装、物資を運ぶだけに留まらずその一隻で戦艦と言っても過言ではない武装で身を包んでいた。魔界の最高権力者である女王に認められる程の絶対的な力を持つその船の武装は女王自らが命名した。
数ある武装の中でも最も火力が高く、そして様々な用途に使用可能な柔軟性を持った最大級の空対地砲は視察の際にその一撃を見た魔界の女王が感嘆しながら漏らした言葉をそのまま採用するに至った。
剣の女王は赤い術式陣を全長100メートルを超す巨体に見合う規模にまで広げ、その死と破壊を撒き散らす砲弾の射出を待った。
首を締め上げるネクタイを荒々しく引き下げ、頬を紅潮させた青年は高まる鼓動を鎮めるように大きく息を吐くと掲げた腕を勢いよく振り下ろす。
「主砲、発射!総員衝撃に備えよ!」
青色の髪を揺らし、サキュバス族の女性管制官が水晶に浮かび上がる文字に指を添え、勢いよく横へ滑らせた。武装の制御ユニットである水晶石を通して、発射の指示を受け取った船首下層ではオーク族やゴブリンといった命を搾取され続けてきた者達が力を合わせその一撃を放つべく計器類に目を光らせた。そして、砲撃手を務めるオーク族の青年が勢いよく巨大なレバーを押し下げる。
艦橋をまるで、小さな太陽が降ってきたような眩い閃光が包み込んだ。
誰もが小さく悲鳴を上げながらその網膜が焼けんばかりの閃光と鼓膜が破れるような轟音に耐える中で、その青年ただ一人が……。
かつて見殺しにされた自分を救う為に命を懸けて全てを失った男へ狂おしい想いを抱くそのダークエルフの青年、アルトリウスだけが目を見開いたまま正面を見据え叫んでいた。
「さあ!一緒にオレ達だけの世界を作ろうラウル!貴方の為ならオレは何だって、どんな物だって、どんな犠牲だって差し出すよ!二人で世界を壊そう!このクソッタレな世界をオレと貴方で変えよう!そして、オレとアンタで……二人だけの世界に染め上げてやろう……!」




