泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!四十四話:衝突
……やっぱり、来てくれた……!。
このままイベントが進んでいけば、必ず来てくれると思ってた!私を助ける為に、そして……そして……レオナはきっと……。
「……エリシア、お前が好きだ……愛してる……」
「……レオ、ナ……レオナァァァァッ!……」
「誰にも渡したくない、私だけを見て欲しい!この世界で最も大切なのはお前だ!お前の居ない世界なんて、想像すらしたくない!……ずっと、一緒に居て……!」
……敵に囲まれている最中だというのに、目の前の恐ろしい存在と激しく剣を交えているというのに……。
赤らんだ顔で必死にそう叫ぶ彼女の愛の告白を聞き、私は声を上げながら泣き崩れてしまった。
……私がバカだった……こんなに大事に想い続けている人が傍に居たのに……信じられなくて、それでまた他の誰かへ心を寄せる……。
最初は依存だったのかもしれない……お互いの寂しさを埋め合わせる歪な愛だったかもしれない。
もう、私は迷わない……レオナ・ハミングバードと共に歩む事を躊躇わない!。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
涙の伝う顔を上げると、私は吠えながらレオナと鍔迫り合いを繰り広げる相手の腹部を刺突しようと吠えながら突撃した。
その殺気に気付いた相手は目の前のレオナを蹴り付けると、向けられた私の突きを切り払い隣に居たジャンの肩を掴み盾にする。
反射的に動きを止めた私は卑劣な策を用いる相手に怒りをぶち撒ける。
「この、卑怯者!ジャンを離して!」
「狂犬どもが……私はまだ倒れる訳にはいかないのでな、悪いが手段は選ばない。この城は必ず私の物にしてみせる……」
「うるさい!ここでアンタをぶっ殺す!」
「清々しいまでのエゴだ、私とお前は案外……似ているのかもしれぬな……」
うるさい!私はアンタなんかとは違う!。私は……私は……!。
剣を構え相手を睨み付ける私とレオナの周囲を漂う殺気が取り囲む。主の敵対者を排除すべく剣や魔導槍を手にした兵士達が血走った目でこちらを凝視していた。
「ハインズ!此処はお前に任せるぞ!……魔族側の侵攻開始の狼煙はこの城から上がる手筈になっている!それまでの間、私の元に彼女達を近付けるな!」
「御意!……さぁ、同志達よ!今こそ命を主へと捧げる時だ!こいつらを始末し新しい時代の幕開けを迎えよう!」
大男の言葉に殉教者と化した兵士達は力強く声を上げて応えた。それを聞き届けたラウル・ホワイトホースはジャンを連れて城の上階へと続く階段を登っていく。
「エ、エリシア!」
「ジャン!待ってて!必ず助ける!……」
「これを!……」
必死に抵抗を続けるジャンは、上着のポケットを弄ると何かを取り出し……それをこちらに向けて放った。
美しい輝きを放つそれを、私は掲げた腕で掴み取る。
これは……この魔石は……。
「ジャン……貴女は……!」
「……待ってます……貴女の助けを……」
……こんなに身勝手な私の事を、この子は……まだ……。
視界の先では、私へ力強い眼差しを向けるジャンの顔があった。
こんなに大切な物を彼女は私へと託した……だとしたら、何が何でも負ける訳にはいかない……。
レオナと一緒に必ずジャンを助け出す!。
「エリシア……後ろの連中は私に任せて、貴女はレオナ教官と共にジャンを救出して……」
「テ、ティナ!……魔導槍を持ってる奴等に一人で立ち向かうなんて無茶だよ!」
「あら、昔は私が何から何まで面倒を見てあげていたのにそんな事を言われると寂しいですわね……」
振り返ったティナはどこか寂しそうに笑うと、不安感のまま立ち尽くす私を勇気付けるように言い放つ。
「……貴女はもう、私が居なくても大丈夫……自分で大切な誰かを守る事ができる強い子になりましたわ……」
「……ティナ……」
「……それが私でない事が……ちょっと寂しく感じますけど……」
……ティナ……。
もう、そんな風に……命すら投げ出す覚悟に満ちた顔をされたら……私は立ち止まれない!。
後ろはもう振り返らない、前だけを私は見る。
私達の背中はティナが守ってくれるんだから、ひたすら前だけに進む!。
私とレオナは首を頷け合うと、上階へ続く階段を守るべく剣を構える兵士達へ向けて吠えながら駆け出した。
レオナ……ジャン……ティナ……。
もう、私は絶対に……絶対に迷ったりしないから……。
だから、今度こそ……誰も死なないで……!。
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「行くぞ!エリシア!」
「うんっ!」
足を踏み出す二人の前に立ちはだかる数人の兵達が長剣を引き抜き斬りかかる。王城を守るべく鍛え抜いたその身体能力と剣技を世界を滅ぼす男の野心へ捧げ、彼等は二人の女を抹殺すべく駆け出した。
「ジャンの託してくれたこの力……王族のみが所有する事を許された最強の魔石の力をアンタ達に思い知らせてあげる!」
それはコルセアという魔族との戦争における人類の最重要拠点とも言うべき国家の長が長年保有し続けてきた王たる力の証だった。
黄金に光るその魔石の名はキング・オブ・クリムゾン、王の中の王が持つべきコルセア王国の権力者が手にする事を許された至宝だった。
エリシア・スタンズは青く輝き出したその魔石を高々と掲げ、放出される魔力を全身に浴びた。
キング・オブ・クリムゾンは手にした者と隣に立つ者に対して強力な補助魔術の効果を付与する。
青い光がエリシア、レオナへと降り注ぎその能力を倍増させていく。剣を引き抜いたエリシアは両手で長剣を振り上げる兵士へ、人間を超えた速度で間合いを詰めると硬い鎧の上からその心臓を一突きにする。
王の至宝の加護を受けたレオナはエリシアと同じく五倍近くまで跳ね上がった身体能力を活かし引き抜いたサーベルで叫びを上げる二人の兵士の首を刎ね飛ばした。
青い光を纏いながら目の前の相手を斬り伏せる二人を見て、ハインズは動揺しきった様子で口を開く。
「王族に伝わる宝を渡したというのか!?ただの兵に!……」
「エリシアはそれほどまでにジャンにとって信頼できる相手だという事ですわ……そして、そんなあの子に背中を預けられた私は全身全霊で貴方達を止める!」
「ティナ・ガードナー!貴様の一族も身勝手な権力者により滅ぼされた王政政治の被害者だ!ならば、我らと行動を共にするべきではないのか!?」
「お生憎様ですが、私が剣を以て守りたいのは一族の名前じゃない……ガードナー家の人間として剣を振るった生き様を守り、残したいのですわ!」
「見事なり!ならば、その気高い信念を燃やし尽くし騎士として死ぬがいい!……魔槍隊、前へ!」
少女の覚悟を聞き届けた男は階段の前に立ちはだかる相手へ壮絶な死を与えるべく強力な武装を持つ兵士達に指示を飛ばした。片手を掲げる彼の両脇から黒いローブを纏った男女がライフルを向けるように魔界で開発された凄まじい破壊力を持つ魔導兵器を構える。
「ティナ!……」
階下に目線を向けたエリシアは親友の危機的状況を察し、思わず彼女の名を叫んでいた。
目線を向けたまま背後から切りかかろうとする兵士の喉に剣を突き立てると、彼女を救うべく一階に向け足を踏み出した。
そんなエリシアを、優しくも力強い声が制止する。
「来てはダメですわ、エリシア!」
「ティナ……」
「貴女はとっても優しくて、そして弱い子……此処で立ち止まってしまったら前に進めなくなってしまう……」
ゆっくりと振り向いたティナ・ガードナーは顔を俯かせ、肩を震わせる相手の背中を押すように……静かな声で言った。
「……私は大好きな人を守る為にそうやって迷う貴女が好き……だから、今は迷わないで……。好きな貴女が迷わないように、この命を使わせて……」
「……ッ……」
拳を硬く握り締めたエリシア・スタンズはそれ以上、発すべき言葉を失くした。決意と愛情に満ちた彼女の意志が愛に餓える少女の背中を強く押し、迷いを振り払った。
涙で濡れた瞳で向かうべき場所へ続く扉と、他の部屋から応援として駆け付ける反逆者の軍勢を睨み付けエリシアは吠えた。
「退ぉぉぉぉぉぉぉけぇぇぇぇぇぇえええええッ!!!……」
本来であれば両手で重量を支えつつ振るべき長剣を、まるで軽量なサーベルの如く片手で持ち上げると最上階へ続く扉の前で盾を並べ防護陣形を敷く兵達に向け青い魔力の輝きの軌跡を引きながら攻城兵器の巨矢と化しエリシア・スタンズは強化された肉体を活かし鋼鉄の守りを打ち貫く。
階段へ敵を突きばしながら木製の戸を破壊し侵入した二人をすぐさま廊下を駆けてきた兵士達が追撃する。
「階段で敵を挟撃しろ!コマンダンテの元へ通すな!」
反逆者達は通信用の魔石で連絡を取り合い、上と下から二人の女騎士を迎え討つべく優れた練度を見せ体制を整える。
大切な者を守りたいという決意と、大切な者を見殺しにした世界への報復という二つの巨大な意志の衝突する戦場にコルセア共和国の王城は変貌しつつあった。




