泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!四十二話:包囲網
……しまった、完全にゲームの展開について忘れてた……。
このルートがクーデタールートであるのなら、あの男が攻めてくるのは分かってた筈なのに……。
皆を守らなきゃ……私の大事な人達を守らなきゃ!。
「レオナを探さなきゃ!一人じゃ危ないよ!」
「そうですわね、敵は幸いな事にまだ外に居る……今なら隙を見て連れ出せますわ!」
外からは騒がしい騒音と悲鳴が聞こえる。
あいつら、全員が魔界の武器を持って攻めて来てる。そんな奴等を相手に戦うには人数が必要だ……一人だけでは生き残れない!。
それに、ジャンを守らないといけないから……。
「レオナを探そう!そしてジャンを安全な場所に---」
首を頷け合いながら駆け出そうとした私達は、周囲を取り囲む騎士達を前に足を止める。
……そうだった……ピュアニストの手先は城の内部にも多く潜んでいる。そして、そんな裏切り者の筆頭は……。
「これはこれは、御三方でどちらにお出掛けになるのですか?陛下を守り抜いた英雄とこの国を導く最高権力者を危険な城外へ出す訳には参りませんな……」
国防大臣のハインズ……この国の軍を指揮するコイツが城内部に入り込んだ裏切り者のリーダーだ。
相手が自分を裏切っている事など想像すらしていないのか、ジャンは必死な様子でその毛髪を剃り上げた大男へ言った。
「私達の大切な友人がまだこの城の内部に居ます!一緒に探し、友人達を安全な場所まで避難させてください!私は……この城に残ります!」
「ほう、大した責任感と使命感ですな……兄上達の愚行を見て妹君の貴女は実に素晴らしい君主へとなられたようだ。だが、全てがもう遅い……」
大男は唇を吊り上げると、手にした身長と同じサイズを誇る戦斧を忠誠を尽くすべき相手へと向けた。
事情を知らないジャンとティナは信じ難いその光景に思わず悲鳴のような声を上げる。
「なっ……あなた達、誰に武器を向けているのですか!こちらにおられるのはジャン・フィリップス・コルセア陛下!この国の偉大な王にあらせられる方ですのよ!?」
「……ハインズ……貴方は、まさか……」
怒りを剥き出しにして足を進めるティナの後ろで、状況を察したジャンは……信用していた相手からの裏切りに目を見開いて硬直していた。
真っ直ぐ歩いてくるティナの喉元へ鋭い刃先を持つ戦斧を突き付けながら男は愉快そうに笑った。
「ハハハハハッ!これはなかなかにどうして、こうなった今になりようやく気付いたか!実に無垢で純粋で、そして世間知らずのお嬢様方だな!」
「……ま、まさか貴方!ピュアニストの手先になったんですの!?……」
「ああ、その通り……ラウル・ホワイトホースはこの俺の友にして家族だ!。最初は彼等の監視役として俺は部隊に随伴したが……そこでこの国家の歪みと腐敗、騎士の誇りを凌辱するこの国の本性を目の当たりにする事となった!ジャン・フィリップス・コルセア……いや、名も知らぬ汚れた血を引く女よ!貴様は辱めた多くの同胞の命を血で贖う必要がある!」
そう語る男の背後で一斉に騎士達が動いた。その瞳には強い憎悪が込められ、何も知らないジャンは殺気と共に向けられる剣を見つめ小さく声を漏らした。
「……そ、そんな……最初から、全員……」
「ああ、その通りだ……いつか来る決起の日を待ち侘びながら、内に燃え上るお前への殺意を隠し私達はお前に仕えてきた。偉大なるコマンダンテがこの王城へ足を踏み入れ、貴様の一族の齎した呪いが清算されるその時までな!」
それ以上は何も言う事が出来ず、ジャンは青ざめた顔で俯き震えていた。
……堪らなく、イラつく…。
前の王族達は確かに最低だ、恨まれても仕方のない事をした。でも、ジャンは……この子は違う!。必死に世界を良くしようとして、その為なら命すら捨てる覚悟をしてた。
そんな彼女の想いを踏み躙り、嘲笑うこいつらが許せない……。
「……最低、信用しきってた相手を傷付けてそんなに面白いの?」
「ああ、愉快だとも!何も知らずにこの小娘は我々へ平和な理想の世界とやらを説いてきたのだからな!魔族との調和?恒久平和だと!?笑わせてくれる、我々騎士の命を使い捨てにし葬ってきた貴様ら王族がどの口でそれを語るか!」
「うるさいっ!この子はそんな父親やお兄さんを見てきたから懸命に世界を変えようとしてるの!アンタ達みたいな無茶苦茶なやり方じゃない、誰も死なない平和な世界を作ろうとしてるの!」
「言うではないか、エリシア・スタンズ……物影に隠れそんな高潔な意志を持つ女の尻を弄りながら口吻をせがむ汚れきった貴様がよく言えたものだ!」
「な、なっ!……」
……サイテー!あんな場面まで、見られてたなんて……!。
思わず熱くなった顔を下に向け、唇を噛む私を嘲笑いながら男は言葉を続けた。
「貴様達の意志などそんな物だ!所詮は俗物の抱く戯言に過ぎん!……我等のコマンダンテは違う、ラウル・ホワイトホースこそが真の武人にして英雄だ!貴様ら俗物の理解の及ばぬ地獄で大義を見出し……そして、そんな世界を変革するのはあの御方しかいない!」
「……貴方達は……何をしようというんですか……」
小さく声を振り絞るジャンの問いに、男は狂気と高揚感に満ちた声色で応えた。
「理想を共にした魔界の同胞と共に我らは世界をもう一度燃え上がらせる!人間と魔界の全面戦争だ!両世界で同時にクーデターを引き起こし調和路線などというおめかし事を消し去った上で今度こそこの地上からどちらかの種を殲滅する!そして、生き残った種がこの世界の支配者となるのだ!」
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「魔槍隊、前へ!」
「我等の進路を開け!人類の道を拓け!腐敗した国家の象徴を落とし我等の勝利を手にしよう!」
「偉大なるコマンダンテ、万歳!」
両手に構えた長方形の魔導兵器を手にした彼等は男女問わずに死を恐れない殉教者と化し主の進むべき道を切り拓く。強力な魔術を射ち放つ武装で陣形を組むコルセア王都を守護する騎士達を蹂躙し、殲滅した。
「我等の理想はコマンダンテの理想!我等の肉体はコマンダンテの手足、我等はラウル・ホワイトホースと共にある!」
対騎兵用の貫通力を高めたクロスボウに体を貫かれた青年は血反吐を吐きながらそう絶叫すると、雄叫びを上げながら最後の力を振り絞り隊列を組む王都親衛隊の騎士達へ突撃する。盾を構えながら剣を向け迎撃姿勢を取る彼等へ、自らの肉体を巻き込み魔導槍から放つ爆炎魔術により自爆した彼はとうとう王城の前まで到達したピュアニスト達の士気を大いに高める事に成功した。
「クソッ、クソッ、何だアイツらは!?死を恐れていないのか!?」
「リベーヌ隊長が居ない中で俺達にどうしろって言うんだ!?」
「いいからやれ!このままでは城を落とされるぞ!」
電撃戦により城下町から猛スピードで進軍する彼等を止められるだけの力は王都親衛隊の騎士達にはなかった。指揮を行う隊長であるリベーヌは数日前に惨殺され、混乱と不安が広がる中で突然の奇襲を受けた彼等は隊全体の戦闘能力が大きく下がった中で敵との交戦を余儀なくされた。
死物狂いで抵抗を続ける彼等の攻撃は、一人の男を心から愛する純粋なる者達の強固な意志により尽く防がれていく。
「……コマン、ダンテ……ラウル……我等の……父……」
ラウル・ホワイトホースは王都親衛隊所属の魔術師の放った炸裂魔術から自身を庇う為に身代わりとなった十代後半という年頃の少女の無惨な体を抱きかかえると、伸ばされた腕を握り静かにその最期を見守った。
「……よくやった、私はいつまでもお前達と共にある……」
「……戦争で、みんな……亡くした……みんな、殺された……あなた、だけが……私の……家族……」
「……ああ、私はお前の……お前達の家族だ……」
「……ラウ、ル……」
瞳を細めた彼女の手が、力無く崩れ落ちた。腰から下を損失し、片腕の千切れ飛んだ少女の体をゆっくりと地面へ下ろしピュアニストの指導者は至る所から煙が立ち昇り間もなく陥落するであろう王城を睨み付け口を開いた。
「……我々はようやく、ここまで来たのだ……」




