泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!四十一話:奇襲
「あの……エリシア……?」
「……へっ?ど、どうしたの?……」
ボンヤリと下を向いていた私の視界に、横から覗き込むジャンの少し不安そうな顔が広がった。
何を語りかけても上の空で返事をする私の様子はひどく相手を心配させてしまったらしい。
それでも、私はどうしても……あのレオナの顔が頭から離れなかった。
再び無言になったまま下を向く私を見て、ジャンは申し訳無そうに声を漏らす。
「……いきなり、すみません……あんな事を言い出して……」
「……いいよ、ちょっと驚いちゃったけど……」
「……返事は今すぐでなくとも構いません……ただ、私は本気で貴女を愛してると伝えたくて……」
「……奥手かと思ったら結構強引なんだね、ジャンは……」
苦笑いを浮かべる私の言葉を聞くと、慌てた様子で彼女は顔を赤らめ口を開いた。
「べ、べ、別に強制している訳ではないんです!貴女に他に好きな人が居るのなら私は……身を引くつもりです!そういった方が……他に居るんですか?……」
私を傷付けまいと必死で、そして私に他に好きな人が居るのではないかと不安がって……とても一生懸命にジャンは私を愛そうとしてくれる。
その気持ちはすごく嬉しかったし、ジャンの事も私は大好きだ。
それでも、私は……レオナに選んでほしかった……。
「……私、すごく寂しがり屋なの……私の好きな人は私を好きでいてくれる人……。それも女の子がいい、男の人は嫌い……自分の欲を押し付けて、私自身を見てくれないから……」
「……エリシア……」
「本当に勝手でしょ?……実は、ジャンにああ言われる前も……ある人とそういう関係を持ってたの。自分の寂しさを埋めたくて、相手と心の傷を見せつけ合って……慰め合ってた……キスやそれ以上の事だってしたんだよ?」
「……そ、それ以上の……こと?……」
やっぱり、ジャンはあまりにも無垢で純粋過ぎる。
私がどういう女なのか、彼女にも知ってもらう必要がある……。
王城の広大なホールには死角が多い、周囲には剣を携えた騎士達が主を守るべく目を光らせているもののその視界を掻い潜りそうする事は容易い。
私はジャンの手を掴むと大きな柱の影へと引っ張り、動揺する彼女の腰に手を添えた。
「……エ、エリシア……何を!?……」
「……此処で貴女にキスしたら、城中に私と貴女の関係がバレちゃうかも……こんな風に誰かに見られるかもしれない状況の中で王子様のお尻を触って興奮するような女だって……皆に知られちゃうかも……」
「……エ、エリ……シア……」
私は男物の少しキツいサイズのズボンによって無理やり締め付けられたその触り心地の良いお尻を撫で回し、頬を赤らめつつ言葉を失う彼女へ……自嘲しながら言った。
「……これが、私……本当に身勝手で汚れてて……真っ白な貴女を真っ黒にしてしまうぐらい……愛に飢えてるの……」
嫌な気分にさせてしまったかもしれない、誰かに見られるかもしれないこんな場所で欲に満ちた手で恥ずかしい部位を触るような女は嫌われて当然だ……。
でも、そんな私を好きになってほしかった……。
「……こわく、ないです……私、エリシアのこと……」
その一言が、私の胸を激しく高鳴らせた。
この子の言葉には、嘘偽りなんてなかった。
ただ、ただ……私を好きでいてくれるだけだった……。
「……エリシアが望むなら……私にこの場で……どんな事でも、してください……」
「……ジャン……」
「……貴女の事を少し誤解していました……。守る事に必死で、必死過ぎるからあんな力を奮える方だと思っていました……。でも、本当は……とても弱々しくて、儚い方だったんですね……」
……欲に満ちた私の頬を、彼女は優しく撫でてくれた。
他の女の人と関係を持っていたというのに、それでもこの子は私を好きで居続けてくれる。
寂しい、甘えたい、かまって欲しい、愛情を向けて欲しい、好きであり続けて欲しい……。
そんな大きな願いと感情が頭の中で渦を巻き、私は目を閉じると彼女へキスをねだった。
……私からするより、相手からキスされる方が……私は好きだ……。
「……エリ……シア……」
生唾を飲み込む声と共に、フワリと髪の毛が揺れる気配がした。
彼女も今回の戦闘を目の当たりにして、死というものに触れてそうした欲求が高まってしまったのだろう。ゆっくりと顎を撫でられ、小さく息を漏らす私の顔へと……その顔が……。
「エ、エリシア!ジャン!大変ですわ!」
そんな私達のロマンチックな空気は、突然足音を響かせて駆けて来たティナの声が吹き飛ばした。
思わず悲鳴のような声を上げ距離を離すと、私は動揺しきった様子で言った。
「ティ、ティ、ティナ!?こ、こ、これは、その、えっと……」
「それどころじゃありませんわ!王都の城壁の外に奴等が!」
奴等、その単語を聞くとボンヤリと私を惚けた顔で見つめていたジャンの表情が瞬く間に凍り付く。
……ああ!もうっ!よりにもよって、こんな時に……!。
このタイミングで王都に襲撃を掛けるような奴等と言ったら一人しか思い浮かばない。
あいつらのクーデターが、いよいよ始まった!。
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「過激派共め!この王都へは一歩も踏み入れさせはせんぞ!」
「貴様らの目論見、叶えられると思うなよ!我らが相手だ!」
勇ましい声と共に白銀の鎧を着込んだ騎士達が聳え立つ城壁の外へと展開した。横一列に並んだ彼等は相手を一歩を通さぬ強固な意志を見せつけるように重々しい音を立てながらコルセア首都を外敵から守る盾として立ちはだかった。
そんな彼等と対峙する黒い外套を纏う男女は静かに手にした奇妙な形状をした武装を構える。
「……待て、同志達よ……此処で諸君らが無闇に消耗する必要はない……」
そんな彼等の背後からゆっくりと姿を現した男は、殺意を滾らせる部下の肩へ手を添え彼等を後退させる。
ボサボサの黒い髪と伸びた髭は野性的な印象を与えた、だがその彫りの深い顔立ちと豪奢な意匠の施された鎧からは奇妙な気品すらも同時に漂わせていた。
戦場の装備を身に着けたコマンダンテは圧倒的な数で立ちはだかる相手へ言い放つ。
「王都の内部にも我等の同志が多数潜伏している!抵抗は無駄だ!この王都は既に我等の手中にある!」
「だ、黙れ!テロリストが!そのような脅しに我らが屈すると思うな!」
「そうだ!我々は与えられた使命を全うする!」
「残念だ、ならば我々は武力を用いて諸君らを殲滅する……」
黒い革製の手袋に覆われた手で男は腰の鞘からその武装を引き抜いた。
黒い剣身と黒い柄、全てが黒いその剣の中央には青と黄の魔石が組み込まれ妖しく輝きを発していた。男の殺意に呼応するように立ち並ぶ衛兵達へ向けられた剣はその姿を大きく変質させる。
二つに別れた刃先から青い術式陣が現れ、その後ろに更に規模の大きい黄色の術式陣が展開した。
それは、人間とは異なる世界で生まれた技術の結晶にして人間の作り上げる武装よりも遥かに勝る戦術兵器だった。
魔剣ダインスレイヴは戦争の完全燃焼という共通の目的を持つ魔界の同胞がラウル・ホワイトホースへ贈った親愛の証だ。彼は強力な殺戮兵器を躊躇いなく使用すると決断した。
「ま、魔剣だと!?バカな!貴様らは魔界とも繋がりを---」
二色の眩い光を放つ剣を見て、驚愕した様子で衛兵の一人が声を漏らした瞬間……魔剣に埋め込まれた魔石が相手を殲滅すべくその魔力を発動する。
魔剣士としての資質がなくとも、その武装を手にすればあらゆる人間が強力な魔術を発動する事が出来る。
ただ、精霊との契約において最低限の詠唱を口にするだけで戦術クラスの魔術を扱う事を可能とした。
男は静かに口にする、その数千人の命を殺戮する魔術の名を。
「インディグネイト・ドミネーター!! 」
刃先の手前側に展開した青色の術式陣からまるで霧のように青い飛沫が放出された。それは広範囲に散らされたターゲットに対するマーキングだった。水を司る青い術式陣から放たれた水の飛沫が複数の相手を包み込み、その範囲内の相手へ巨大な黄の術式陣から放出される電流が襲い掛かる。
水と雷、その二つの特性を持つ魔剣の一撃が眩い閃光と共に放たれ衛兵達を殺戮する。
声すら発する間もなく水の飛沫によって体を濡らした兵達の肉体は流れ込んできた高圧電流によって加熱状態となり、やがて沸騰した血液によって赤い霧となり溶けた臓物や骨の欠片を撒き散らしながら絶命した。
僅か五秒と経たない間に城壁を守護する百人近い命を刈り取った男はその強大な力に戦慄し、そして感嘆の声を漏らす同胞達へ勇ましく声を向ける。
「行こう、同志達よ!この世界の全てを今夜、破壊しよう!」




