泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!三話:私の戦い
「あ、あの……エリシア?……」
「いやー、私は優等生のティナと違って買い物も自由に出来ないぐらい切羽詰まってたから助かっちゃった!ありがと!」
「そ、それは構いませんわ……でも、こんな物をこんなに買い込んで何をしますの?」
ふふふ……下準備完璧!。
序盤のイベントでは買い物を行うチュートリアルでティナがお金を出してくれる。回復系の薬草や武器に防具、そういった物を買う手順を親切に教えてくれる初心者にとって大事な場面だが私はそこから更に先の備えをする。
この買い物の後に向かう戦闘試験の場で原作ではとんでもない奴が現れまさに初見殺しとも言うべき意地悪なイベントが起こるからだ。
試験中に突如謎の大型モンスターが乱入し、その場の大勢を食い殺す。最初はビックリしたっけなぁ……。
恐らくそこで初めての選択を私は強いられる事になる。
逃げるか、戦うか……。
二周目以降のデータがあれば戦って勝つ事も可能だが、今回は初回分のデータしかない。だとすれば、あの強敵に勝つには知識と経験が必要だ。
私は逃げない……逃げたらティナやあのズッコケ三人組、それにもっと大勢の人が死ぬ……。
「エリシア?本当にどうしたんですの?……何か、今日のあなたは本当に変ですわ?」
「あ、ごめんごめん!……ちょっと昔の事を考えててね……」
「昔の事?……」
いつの間にか辛気臭い顔をしていたらしく、心配そうにティナが私の肩に手を置いた。
その手を握りながら私は、目を閉じると現実の世界であった悲しい出来事を思い出した。
「私のお母さん、私が生まれたせいで色々と父さんと折り合いが悪くなって離婚しちゃったの……父さんは子供なんて産む予定はなかったらしいから……」
「そ、そんな……」
「でも、その分お母さんは目一杯……私を愛してくれた。お金も無いし貧しかったけど、お母さんと手を繋いで色んな所を歩けるだけで充分だった。大好きなお母さんの為ならもっと頑張れる、どんな事だって耐えられる……そう思ってた……」
「エリシア……」
「……でも、お母さん……一人で無茶をしちゃって、病気で亡くなったの……。亡くなる直前も泣いてる私の頭を枯れ枝みたいに痩せた指で撫でながら、必死に励まそうとしてた……そして謝ってた……」
……何で謝るのか私には分からなかった。
でも、きっと……お母さんは私の性格をよく知ってたから、だから謝ってたんだと思う。
誰よりも寂しがり屋で甘えん坊で、泣き虫な私を一人にしてしまう事が申し訳なくて……それで……。
ふと、私の耳に嗚咽が聞こえる。
見るとティナが口元を押さえながら目元から涙を溢し俯いていた。
ティナもこの歳で相当な苦労を背負い込んだ子だ、そんな彼女にとって私の境遇は胸を痛ませるには充分だったらしい。
本当に、優しい温かみに満ちた……良い子だ……。
「……ありがとう……ティナ……」
「……ごめんなさい、私……あなたが、そんな辛い思いをしてきたなんて知らずに……!」
「……嬉しい……そうやって、私の為に泣いてくれるなんて……」
……だから、今度は私が皆を守る。
現実の世界では必死に社会の役に立ってお母さんを安心させようと思った。でも、親を亡くし親類の家を盥回しにされた私は日々の生活だけで手一杯で……立派な会社に入るために勉強をする余裕なんてなかった。
やがて心が折れて適当な会社に入り、嫌な思いを散々して……ゲームの世界で現実逃避をして……。
そして、あまりにも無意味に死んでしまった……。
これはきっと、神様が私に与えてくれたチャンスだ。
お母さんに誰かを救えるぐらい立派になった姿を見せたいという私の願いを叶える機会……なら、私は全力でこの世界を駆け抜けようと思う。
……出来るかどうかじゃない、やるんだ……。
そうしないと、きっと後悔する……。
泣きじゃくるティナを抱き締めながら私は決意を固めた。
この世界の愛すべき人達を絶対に守ると……。
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「これより実戦も兼ねた剣術試験を開始する!制限時間内に周辺に生息するライガを多く狩った者を昇進対象とする!」
さてと、いよいよ試験が始まった。
試験内容は至ってシンプル……多く魔物を狩った者が勝ちというわけだ。ぶっちゃけていえばこの後にとんでもない事が起きるので試験自体が無かった事にされるんだけどね……。
皆の命が懸かってる……頑張らないと!。
「ライガが相手なら楽勝ですわ!頑張りましょう、エリシア!」
「うーん、そうだねぇ……」
顎に手を当てつつ森の中を進む私は他の事を考えていた。
確かに、ライガは序盤から出てくる雑魚敵ではあるものの……いちいち相手にしていたら今後の流れに支障が出てくる。体力やアイテムを消費するのは厳禁だ、持てる力の全てを今後の戦いにぶつける必要がある。
だとしたら、ちょっと心苦しいけど……ティナに全力で頼らせてもらおう。
「来ましたわ!気を付けて、エリシア!」
「テ、ティナ!囲まれちゃったよ、どうしよう!」
「私に任せて!……」
低い唸り声を上げ、彼等が森の中から姿を覗かせる。ライガは4足歩行のライオンのような魔物であり、その強靭な牙と爪で獲物を引き裂く恐ろしい怪物だ。それが周囲を取り囲むように四体現れた……。
最初にプレイしていた頃は毛並みすら鮮明に描かれたグラフィックと迫力に圧倒されていたものの、今の私からすれば単なる雑魚モンスターに過ぎない。
攻撃パターンや弱点の背中を落ち着いて狙えばあっという間に瞬殺はできる……できるけど……。
今はそうしない……。
雄叫びを上げながらこちらを食い殺そうと突進する巨体を躱しながら、私は上手い具合にティナの元へと誘導する。何だか押し付けているようで心苦しいけど、仕方ない!。
爪や顎による連撃をバックステップで躱し、回避不能な一撃は切り払いによって受け流す。高度に作り込まれた戦闘要素はどこまでも自由で様々な戦略を立てられる。今はそれらのシステムを最大限に活かし、避ける事に集中する。
「今助けますわ!エリシア!」
瞬く間に三体のライガを斬り伏せたティナが続々と森から飛び出してくるライガに四方を囲まれた私を助けるべく駆け出した。手にした長剣は美しい装飾の施された彼女の一族に伝わる宝剣であり、絶対的な切れ味を誇る彼女の誇りだ。
目の前で毛を逆立たせる獣に向け、ティナは恐れる事無く剣を振るい相手を打ち倒す。
ああ……カッコいい、美しい……!ゲーム中ではカメラが自分に向いてたからよく見えなかったけど、彼女が舞うように剣を振るう姿に思わず魅入ってしまう……。
ボンヤリと立ち尽くしていた私は、背後から迫る殺気交じりの爪による一撃を視線を動かす事なく受け流すと素早く剣を横へと一閃する。
顔を斬りつけたその一撃は相手を怯ませるには充分だったらしく、後退った獣へ私は更に追撃を行った。
顔へ集中して攻撃を加え、怯ませて、そして……。
「ハァァァァァァッ!!……」
そして、呻き声を上げつつ崩れ落ちるその背中へ深々と剣を突き刺した。
あれだけティナがカッコいい姿を見せてくれたのだから、私も少しだけ暴れたくなった……。
「その調子ですわ!行きましょう、エリシア!」
「うんっ、行こう!ティナ!」
ライガが相手なら何の問題もない。
問題なのはこの後だ……あの強敵を相手にどう戦略を練るか……。
それに、位置も大切だ……なるべく出現する場所の近くに居ないとあの三人を助けられない。




