泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!三十八話:完全包囲
……あれ?……私、いったい……。
どう、しちゃったんだっけ?……。
「……ん、んん?……」
ゆっくりと目を開けると……。
……レオナ教官の……とても綺麗な寝顔が目の前に……。
……睫毛、長い……唇もプルプルで……灰色のサラサラな髪の毛が私の鼻先をくすぐっていた……。
……この人の寝顔ってこんなに可愛かったんだ……ますます、好きになっちゃうかも……。
って、そうじゃないでしょ!!。
「な、なななななな、何!?何でレオナ教官が私のベッドで!?え、えっ!?私……!?」
そこで、私は……先ほど魔女として彼女を救った際の記憶を完全に思い出した。
……頭の中に浮かんだ欲望と依存心のまま……彼女を……。
ベッドから飛び上がった私は顔が熱くなるのを感じながら頭を抱えた。
わ、わ、わ、私……私……また、やっちゃった……。
前のルートでもティナと……しちゃったのに……今度は別の相手と……。
「……エリ……シアァ……」
……あ……これ、ダメだ……。
普段はあんなに凛々しく振る舞っていたこの人の……こんなに寂しそうで、守ってあげたくなるような顔を見たら……。
……好きになるなっていう方が……無理だ……。
思わず頬を緩ませると、私は彼女の頬にキスをした。
その感触によって目を覚ましたのか、レオナ教官は小さく声を漏らすと……その長い睫毛に覆われた瞳をそっと開く。
「ん……エ、エリ……シア……?」
「目は覚めましたか?レオナ教官?……」
「……確か、意識を失ったお前を連れて森を歩いてたら……巡回中の馬車と出会って……それで……陛下と合流しようと、王都へ……城の一室までお前を運んで、それから……」
「も、申し訳ありません!あんな事を自分からしておいて……私の方が意識が飛んじゃうなんて……」
「……あ、う……」
……あの体験は、ある意味で私達の共有する罪になった。
あんな無残な姿になったレオナ教官の想い人の死体の横で……あんな事をするなんて……。
激しく心と脳が揺さぶられる。
私は最低だ、最悪な事を彼女にしてしまった……まるでアレッサというあの女へ抱いていた恋心を上書きするように彼女を……。
自己嫌悪と罪悪感で頭に昇っていた血の気が引き、顔が青ざめる。
顔を俯かせ涙を溢すと、私は声を震わせて彼女へ謝罪した。
「……ごめんなさい、レオナ教官……貴女に最低な事を、私は……」
「……エリシア……」
「……何てことを、何てことを!……私……!」
その時、私の唇が柔らかな弾力のある感触によって塞がれ……片手が強く握り締められた。
目の前には、身も心も私に預けると決めた無防備な顔が……視界いっぱいに広がった……。
唇を離した彼女は、静かに自身の孤独を打ち明ける。
「……私はずっと、アレッサが帰るのを待ってたんだ。生きているなんて勿論考えてはいなかった、死体が見つかるその日まで……あの子を探し続けるつもりだった……。それが、まさか生きていて……あんなに私の事を憎んでいたなんて……思わなかった……」
「……レオナ……教官……」
「……あの子に憎しみをぶつけられて、初めてそれがいかに身勝手な自己満足だったかを思い知らされた……。思えば、当然だったんだ……憎むなという方が無理だったんだ……きっとあの子も、私を愛していたんだから……」
まるで自らの想いを嘲笑するように、涙を零れさせ笑うその姿はとても痛々しかった。
握られた手に片手を添え、私は両手で彼女の手を握り締めるとその孤独な傷付いた心へと寄り添った。
「……自己満足でも、いいじゃないですか……。死んじゃった人がどう考えているかなんて生きている私達には分からない、だから死にたくないと思えるし生きてくれていたら嬉しい……。私はレオナが生きてくれていて本当に嬉しいです……」
「エリシア……」
「あっ、ご、ごめんなさい!何だか馴れ馴れしくレオナって今日は何度も呼んじゃいましたね……」
思い出したように私はそう謝罪すると、苦笑いを浮かべた。
彼女はそれに怒る様子も見せず、ボンヤリとした表情で私を見つめると静かにベッドのスプリングを軋ませ私の胸に頭を預けた。
まるで子犬が信頼する相手の足元にお尻を向けてくるように……私に身も心も預けると物言わずに示してきた。
「……こんなにも、貴女に溺れてしまったら……私はもう、貴女の教官では居られなくなる……」
「……レオナ……きょう……か……ん……」
「……貴女を部屋へ運び込んだ後に……介抱しようと思っていたら……いつの間にか、ベッドに潜り込んで……抱き締めてたんだ……。そうしないと、不安で……」
……レオ、ナ……。
縋るような震える瞳で見つめられた瞬間、自分の中で辛うじて保たれていた理性がブチブチと音を立てて引き千切れるのを感じた。
……この人が……欲しい……この人の全部が、欲しい……。
ぐちゃぐちゃに泣いてしまうまで、この人の何もかもに……触りたい……。
息が荒くなっていくのを感じながら、私はゆっくりと彼女をベッドへ押し倒すと張りのある革製の濡れたロングパンツの上から鼠径部を撫でた。甘く声を漏らし、彼女は愛した人しか触れる事の許されないその場所への愛撫を受け入れている。
「……私は……馬鹿になってしまった……貴女が居ないと、もう……生きられない……」
「……私だって……レオナが居ないと、生きられないです……」
「……エリシア……エリシアぁぁっ……」
お互いに向け合っている危うい感情を打ち明け合い、私達は更に混ざり合うべく決意を強めた。
ズボンの上から、内股に私はキスをした。
何を履いていようとも、私を感じてほしかったから……。
朝に着替える時、ズボンに足を通す度にこのキスを思い出して欲しかったから。
口元を押さえながら涙を溢し、硬く目を閉じる彼女の額にキスをすると……私はその戦闘で汚れた白いズボンを締め上げるベルトのバックルへ手を伸ばす……。
愛し合おうとしたその瞬間だった、突然部屋の戸がノックされた。
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「お二人共!目を覚まされたんですね!」
ドアノブを回し部屋へ入り込んだジャンは窓際に立っていたレオナとベッドの縁に腰を下ろすエリシアを見て安堵するように声を上げた。
ぎこちない動作で振り返ったレオナは頬を赤らませたまま無理やり笑みを張り付けて言った。
「は、はい!私もエリシアもこうして無事です……」
「良かった……あの後に巡回中の軍の馬車隊と出会って貴女達を探してもらっていたんです。そちらも襲撃を受けたと聞きましたが……無事で本当によかった……」
ジャンは足を進めると、不自然に動揺しているレオナの様子も気にせずにその手を握り締める。
そしてエリシアの元へと歩み寄ると、小さく息を漏らしその体を抱き締めた。
「ど、どうしたの?……ジャン?……」
「……貴女が無事で……本当に、本当によかった……」
「……ジャン……」
体を離した黒髪の少女は心の底から安堵した笑みをエリシアへと向けると、手を握ったまま彼女の横へ腰を下ろした。
そして、自身の抱くある決断をエリシアへと打ち明ける。
「あの……これは、この部屋に居る全員に聞いて欲しい事なんですが……レオナも証人として聞き届けて頂いていいでしょうか?……」
「は、はっ!……そう仰るのであれば……」
「……ありがとう……」
そこで言葉を区切ると、ジャンは大きく息を吸い込み深呼吸をしながら自身の感情を落ち着ける。
そして、その中性的な整った顔立ちに緊張と僅かな気恥ずかしさを覗かせながら言った。
「……エリシア・スタンズ……私と、結婚してください!……」




