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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!三十五話:ブラック・サバス

エリシア・スタンズの纏う色は全てが黒く染まっていた。


凛々しさの象徴であるブルーの士官服と白いロングパンツは濃いブラックのゴシックドレスへと変化し、その髪は大きく伸び地に届く長さにまで達していた。手にするのは騎士の象徴であるサーベルではなく、巨大な大鎌だった。


大きく開いた胸元と鎌を手にする腕の白い素肌と赤く輝く瞳以外の全てが黒く染まっているその姿は魔女以前に死神を彷彿とさせる。



欲と本能のままに殺戮を行うブラック・サバス(黒き魔女)へ変貌したエリシアは呆然とするアレッサに向けその身長すら超えるサイズの大鎌を構えた。



「こ、殺せ!!そいつを叩き潰せ!!」


殺したと思った相手が突如蘇り、まるで異なる姿形をして蘇生した事実に動揺しつつアレッサは魔石を埋め込む左手を掲げて猛り狂う巨人に指示を飛ばす。


トロールには恐怖する心など無かった、残された飢えと怒りのままに黒き魔女に向けて大木の幹のような両足で大地を踏み締め疾走する。



「エ、エリシア!……」


「レオナはそこに居て……大丈夫、私は死んだりしないよ……」


「……お、お前は……」


「……貴女を抱くまで死なないから……」


「……ッ……」


あまりにも無垢で、そして狂気すら感じる透明な笑顔でそう言い放つエリシアだった何かを見て思わず絶句するレオナの横で魔女は鎌を天高く掲げた。


空気の震える騒音と、激しい風が吹き荒れる。


極限まで高まるエリシア・スタンズという名の魔女から溢れ出る黒い欲望が迫り来るトロールの肉体をより効率的に切断すべく変化する。重々しい重金属の軋みを上げながら鎌の柄が更に膨張し、天頂部分に位置する半月状の刃の後部にもう一枚の刃を構成していく。横にした三日月の中央に柄が生えた様なデザインへ変質した武装を手にすると、禍々しさを感じる霧の様な黒い空気を纏い魔女は地面を蹴った。


そして、飛翔する魔女は狂気に満ちた絶叫と共に振りかぶった大鎌の刃を目前にまで迫るトロールの胴へ突き立てた。


痩せ細っているとはいえ、その巨体を支え素早い動きを可能とする強靭な筋肉と骨を備える巨人の胴は、まるで刀の試し切りを行う藁束のように研ぎ澄まされた刃先と長い刃渡りにより両断される。


荒々しい雄叫びを強制停止され、呻くような声を上げながら死と破壊を振り撒く怒れる巨人は大量の鮮血と臓器をエリシアの肉体に降らせながら地面に崩れ落ちる。


上半身が地面へ倒れ込むのと同時に雨のように血を噴き出しながら痙攣する下半身が切断された臓物を垂らしながら轟音を立て地面に崩れ落ちる。


目を見開き信じ難い速さで絶対の自信を持っていた切り札を潰されたアレッサは顔中に汗が伝うのを感じ身を強張らせた。



「バ、バカな……バカな!都市制圧用のアームド・トロールが……たった一人に……!」


「……さあ、次はアンタの番だよ……アレッサァァ……」


「ひっ、いぃっ……」


赤く爛々と輝く瞳を向けられ、思わず後退るアレッサは我に返ると栗色の髪を振り乱しながら必死の形相で叫んだ。


「で、出てこい!!巨人共!!コイツを食らえ!!今すぐに食らえ!!殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


その瞬間、アレッサの周囲から次々と巨大な手が地面を突き破り姿を覗かせる。


土煙を立てながら潜んでいた土中から出現したのは、総勢で十体の武装したトロールだった。


その巨体と手にした武装、何より故意に飢餓状態を強いて強化した凶暴性により侵攻した都市の戦力を大きく疲弊させ摩耗させる事を目的とした都市制圧用兵器が絶叫を森に響かせながら黒い魔女を睥睨する。


「は、はは……あはははははははははっ!!王都を制圧する際に使うはずだった全戦力をお前にぶつけてやる!!この数なら十分で王都中の騎士を殺せる数だ!!勝てるわけがない……勝てるわけが、ない!!」


しかし、その声に不敵さはなく……まるで己にそう言い聞かせているようだった。


たった一人で都市の戦力を圧倒する力を指揮するその女は、異様な力と空気を醸し出す魔女の存在に怯えていた。


複数の雄々しい絶叫が木霊し、手にした戦斧や槍を構えトロールが駆けだした。


顔面を汚す赤黒い液体を舐め取ると、唇を歪め魔女は嘲笑う。



「そんな案山子をどれだけ用意したって……無駄だよ……」


「殺せ、殺せ、殺せ、殺せぇぇぇぇぇぇぇぇええっ!!その女を一分一秒でも早く磨り潰して食い千切れ!!」


殺意を滾らせる魔女の不敵な言葉と、恐怖心で震える魔獣使いの女の絶叫が重なった。


赤く輝く瞳の残光を残しながら地面を蹴った魔女は万物の法則を無視し推進力を得たミサイルのように巨人達に向け飛翔する。


やがて、あらゆる生命体の活動を停止させる命を刈り取る大鎌の刃が狂気と愉悦に染まった笑い声と共に縦に振り下ろされる。


「あひゃははははははははっ!!死ね、死ね、死ねっ!!何もかもブチ撒けて、死ねええええええええええええええええええええええっ!!」


その凶刃が分厚い兜により守られたトロールの頭部を鋼鉄ごと切り裂き、両断していく。10メートルにも及ぶその巨体を真っ二つに切断した瞬間、割れた肉体の間に浮遊する彼女に向けて巨人達が殺到した。


それ自体が強力な武装になりうる巨大な腕を伸ばし飢えのままに小柄な肉体を食らおうと群がった。


黒い魔女は自身を求めて突き出されるその腕の一本一本を切り落とし、そして更にその巨躯を殺戮欲求のままに殺傷しながら踊るように大鎌を振るう。彼女が身を翻す度に粘液質な音を上げ四肢が吹き飛んだ。


まるで舞台の上で紅の緞帳を背負い輪舞を踊る役者の様に、魔女は都市制圧用の巨大生物兵器を嗤いながら殺戮していく。



「……そん、な……そんな、そんな、そんなバカなぁぁぁぁぁぁぁあっ!!ありえない、ありえないっ!!私のトロールが、たった一人の小娘に!?……」


死の輪舞を踊る魔女を目にした魔獣使いは激しい混乱と恐怖により全身をガタガタと震わせ叫んでいた。


仕えるべき主の為に絶対の自信を持って用意した兵器群をたった一人の魔女が瞬く間に殲滅した。


その受け入れがたい光景を見て、アレッサは心が捩じ切れるのを感じた。


そして、それまで彼女を奮い立たせていた愛や忠誠の何もかもかなぐり捨て……アレッサは自身の生存を優先すべく行動した。



一曲の舞を終え、全身を血と肉片で汚した魔女は両足を切断され倒れ込む巨人の首を刎ねトドメを刺すと最後に殺すべき敵へ向け狂笑を浮かべた。



「さあ、アレッサ……次はアンタの番……」


「ひ、ひぃぃいあああああああああああああああああああああああああああっ!!……」


まるで残された最後の希望に縋り付くように、アレッサは駆け出した先に映った相手へと……放心したまま立ち尽くすレオナの肩を掴み手にしたダガーナイフをその首筋に突き付ける。


現実離れした殺戮により精神を打ち壊された彼女は最早かつての愛憎など忘れ、ただ恐ろしい敵が執着している女を人質にすれば命が助かるのではないかという唯考えうる望みに全てを賭けた。


「う、動くな!!近寄るなぁぁぁぁっ!!……近寄れば、この女の喉を掻っ切る!!」


「……アレッサ……」


「アイツは何なのよ!?あんなの、聞いてない!!エリシア・スタンズは騎士育成学校の普通の生徒じゃなかったの!?グリーン・ディクテイターなんて比にならない都市制圧用の私のトロール達を何故あんなにあっけなく!!……」


「……私にも……分からない……」


「ふざけるな……ふざけるなあぁぁぁぁぁぁぁっ!!……」


錯乱状態で叫ぶアレッサの耳に、血塗れの魔女の放つ嘲笑が聞こえた。


震える内股を尿や汚汁が濡らしていくのを感じながら、魔獣使いはレオナの白い首筋に刃を突き付け叫ぶ。


「く、く、来るな!!それ以上、来ないでよ!!……ほ、ほんとに……こいつ、殺すわよ!?……」


「ふふ……ぜぇんぶ漏らしちゃったんだ?可愛い……」


「こ、来ないで……来ないでよ……来るなぁぁぁぁぁあっ!!レオナ!!コイツを止めて!!アンタの言う事なら聞くんでしょ!?止めてよ、お願いだから!!」


「レオナの言う事だったら仕方ないなぁ……でも、その前に私のレオナを傷付けた罪を身を以て償ってもらわなきゃ……ねっ、おもらしアレッサちゃん♡」


「ひ、ひっ!……や、やめ----」


凍えるような殺気が周囲を包み、アレッサはまるで相手を盾にするようにその背中へ身を隠す。


そして、一迅の風が吹き荒れた。



「……あ……えっ?……」


目を開けたアレッサは、何故か視界いっぱいに木の隙間から覗く青空が浮かんでいる事を不思議に感じていた。


上を見上げた覚えはないというのに、視界には空が映っている。


やがて、彼女は体から聞こえる水音に気付くと……ようやく自身の状況を察した。


自分の肉体から勢い良く何かが抜けて、溢れていくその感触の意味を……歯を打ち鳴らし顔を震わせて目視する。



魔女の凶刃によって切断された右手と両足の断面からは、その惨状を覆い隠すように鮮血が噴き出していた。










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