泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!三十話:発露
……男なんて、大っ嫌い……。
会社の中でないと威張れないような奴らが言い返さない私に目を付けて、やりたい放題に欲をぶちまけてくる。
家政婦扱いする男、やたら体を触ってくる男、トロフィーみたいに女を考えてる男……思い返すだけで吐き気がしてくる。
嫌だったのに何も言い返さないのは私が他人の顔色を伺いながら生きてきた代償だ、だから彼等は余計に調子に乗る。
……一度、会社の倉庫で本気で襲われそうになった事を思い出す。
そこそこ顔は良かったが性格は最悪な企画部の名前も知らない男に倉庫に呼び出されて……無理やり壁に背中を押し付けられてキスされた……。煙草の臭いがしてすごく嫌だった……。
それから、腰やお尻を触られて……それでも私は笑顔を貼り付けて必死に恐怖に耐えていた。
その笑顔が余計に相手を勘違いさせたのか、気味の悪い声で耳元で囁かれて……ズボンのチャックを相手が下ろそうとした瞬間に偶然倉庫の前へ誰かが通りがかり、その隙を突いて私は逃げ出した。
怖くて、恐ろしくて……その日は、眠れなかった……。
そいつは次の日も何事もなかったように笑顔で挨拶し……今度は違う女の子を倉庫の中へ連れ込んでた……。
あんなに怖い思いをさせておきながら、まるで反省も罪悪感すらもない。
もう、あの会社での日々はそんな地獄の連続で……心の中の大切な何かが凍り付いてしまっているように感じた。
でも、今は違う……凍り付いていた心がこの世界に生まれ変わった瞬間から再び動き出した。
もう、諦めなくていい。
もう、耐えなくていい。
もう、無理して笑わなくていい。
もう、やり返しても……いい……。
ふひ、ふひひ……あはははははははははははははははははぁぁぁあああああああっ!!。
「私はもう自由なんだ!!私はもう何をしたっていいんだ!!私はもう、私はぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああっ!!……」
体中が熱くなる、これから自由になれるんだと思うと……とても興奮する。
補助アイテムであるハチドリの羽根を使用し、風のように軽くなった体で駆け出した私は後ろで何かを喚いているティナを無視して体を動かせない男達に向かい走る。
そして、打撃武装であるタイタンのリングを装着した指を握る拳を……鎧越しに腹部に叩きつける。
グリーン・ディクテイターを仕留めた事により大幅なレベルアップを遂げた私の体はあちこちが強化され、全体的なステータスが底上げされている。本来であれば地道な訓練や雑魚狩りでレベルを上げる必要もない!たった一撃で、成す術もなく敵が倒れていく……!。
めり込んだ拳は鎧を突き抜け、そして体の内側にまで入り込む。
目を見開きながら吐血する敵は、腕を引き抜くと血を噴き出しながら崩れ落ちた。
ああ、何て……何て気持ちいい!!。
こいつらはあの気色悪い男に従い大勢殺してきたクズ共だ……だから、私に何をされたって文句は言えない。
死ね、死ね、死ね……死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで
私にぶっ殺されろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっ!!。
二人目の顔面を殴る、頭が爆ぜた。
三人目の胸を殴る、心臓が潰れた。
素早く地面を蹴ってスキップでもするように次の集団へと向かうと、同じように始末する。
ひひ、いひひひっ!……。
やり返してこない相手を一方的に痛めつけるのって……こんなに……こんなに……。
楽しい、事だったんだ!!。
「あひゃははははははははっ!!死ねっ、死ねっ、死ねっ、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええっ!!」
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「……レオナ、どうか我々と共に来てほしい!我等の革命は戦争により傷付けられ、奪われ続けた者達の正当な報復だ!この国の腐敗によって使い捨てにされた苦しみ、貴女であれば分かる筈……」
「……断る!私は確かにこの国の身勝手さには心底呆れたし嫌気が差していたのは事実だ。それでも戦争を更に燃やし尽くすお前達の案には乗れない!」
馬車の外へ出た二人の周囲を黒い外套を纏う男達が取り囲む。
馬車を操っていた騎手すら、馬から降りると剣を引き抜きレオナへ向けていた。
「なるほど、私を引き入れようとこちらの馬車には色々と仕込んでいたようだな……」
「……ああ、アンタを説得し我等の同胞として迎え入れようと私が彼等に進言した。アンタはこの腐った国の中にありながら忠誠と人としての温もりを持った真の騎士だ。我々にはそんな志を持つ同胞が必要になる……」
「……そこまで惚れ込まれていたとはな、嬉しくないかと言われれば嘘になる。だが、今の私はこの腐り切った国の騎士である以上にあの育成学校の教官だ。それ以外の立場になる気はない……」
「何故だ!?なぜ、そこまでしてあの学校に拘る!?あんな場所ではなく今度は我々の組織の教官になればいい!」
「それではダメだ……騎士として戦い生き延びるだけの強さを得たらまたあの学校に戻ると私は心に決めていた。もう私と同じ過ちを繰り返させない為に、騎士を目指す生徒達に愛する人を守る強さを与えるのと決めた……」
「……アンタが昔言っていた、見殺しにしてしまった友達の事か?……」
「……ただの友達じゃない、私は本気で彼女を愛してた……だから、今でも私は剣を捨てなかった……」
どこか遠くを見つめるようにレオナは目を細めると、腰に差したサーベルを引き抜いた。息を飲み身構える男達の前で握り締めたサーベルを掲げると、彼女は刃先を地面へ突き刺し静かに腕を組む。
そして、目を閉じると自身の覚悟を述べた。
「私の心に居座り続けていた悪夢は私の教え子、エリシアが晴らしてくれた……だとしたら、もう心残りなんてない。私にはお前を殺す事も出来ない、だとしたら辿るべき命運は一つだ……」
「……レオナ……貴女は……!」
「バーンズ、かつて死線を共に潜ったお前に殺されるなら本望だ……お前の腕なら苦しめる事無く一瞬で首を刎ねるだろうからな……」
女は信用する部下に殺される道を選んだ。そうする事が最も正しい道であり、最善の選択だと信じて疑わなかった。
重苦しい沈黙が流れる中、穏やかな笑みを浮かべる気高き騎士は震える手で剣の柄を握る友へ声を掛ける。
「最後に、エリシアに伝えて欲しい……」
「あちらも我らの同胞の手が迫っている……生きてはいないかもしれない……」
「いや、エリシアは強い子だ。負けはしないし皆を守りきるだろう……だから、伝えて……」
彼女は心から信じていた。エリシア・スタンズという放っておけない危うさと騎士としての強さを身に着ける少女を信じ、愛していた。
「こんな私を愛してくれて、ありがとう……」
その時、地響きのような騒音と共に馬車が停まる道の脇から……その巨大な影が姿を現した。
まるで保護色の様に全身を緑の塗料で覆い、深い緑の中で息を殺して待ち構えていた巨影は木々を薙ぎ倒し……その二本の足で地を揺らすと呆然と見上げる人間達を赤く光る双眸で見下ろした。
10メートルを優に超えるその人型は、痩せ細った老人の様な外見をした森に古くから住まう精霊の一種だ。トロールと呼ばれる巨大な森林の精霊は本来であれば美しい自然の象徴であり、穏やかな気性を持つ守り神だった。
だが、レオナ達の目の前に現れたその守り神は上半身に巨大な鎧を纏い、手には剣というにはあまりに巨大過ぎる鉄塊が握られていた。
真っ先に状況を理解したバーンズは狼狽した様子で悪態を吐くと、森に向かい叫んだ。
「待て!約束が違うぞ!……レオナは殺さず計画に賛同しなかった場合は見逃すと、確かにそう言ったはずだ!!」
そんな彼の声に応えるように、巨人の足元から姿を見せたフードを被り込む女は見える口元を歪めつつ言った。
「計画が変わった、リベーヌは律儀な性格だからその口約束を守ったんだろうが私は違う……」
「ふざけるな!この方を殺すなど、そんな事は……!」
「だったらお前も死ね……」
唇の両端を吊り上げ嗤う女が静かに左手を持ち上げた。
その腕は、人間のものではない鉄と魔石により構成された人工的な義手だった。甲に埋め込まれた紫の魔石が輝き、その魔力を通して巨大なトロールへ激しい憎悪を植え付ける。
人間も魔物も意のままに操る洗脳魔術はその女の最も得意とする術だった。
雄叫びを発し、操り人形の兵士と化した荒神は手にしたナイフを振り上げた。
そして、恐怖と混乱により身動きの取れない彼等へとその凶刃を振り下ろす。
「レオナ!……」
そんな中で、その男唯一人が懸命に守るべき人を守るべく動いていた。




