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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!二十五話:破壊者達

息を切らしながら駆ける女は洞窟の中に足音を響かせ懸命にその場所を目指していた。


舞い込んできたその緊急事態を自身の主へと伝えるべく、汗を浮かべ必死に駆けた。


やがて辿り着いた最深部の広大な空間に佇むその背中へ、切羽詰まった口調で女は報告した。


「申し上げます!王都内部で我々の計画に賛同していたリベーヌ・アリエッタが何者かの手で殺されました!……」


「……リベーヌが?我等の計画に勘付いた国王が先手を打ったか……」


「分かりません!……ただ、殺され方も……異様でして……」


「……どういう意味だ?」


ゆっくりと振り向いた男は普段冷静な部下が酷く困惑している様を見て只ならないその状況を察した。


「……首に……手で締めた跡が……残っていたのですが……」


「それがどうした?死因が絞殺であれば跡など残るであろう……」


「……指の形に……肉が、抉れていたんです!骨は折れ、ほぼ首が千切れかけていました……」


「……刺客が筋力を増強する魔術か薬品を使用したという事か……?。だが、そんな物を使ったとはいえあのリベーヌが呆気なく狩られるなど……」


「……とにかく、リベーヌは本日の作戦には参加出来なくなりました……」


青ざめた顔で報告する部下を見つめながら、伸び切った髭を撫で男は思考する。


本日、視察から帰路へ着く国王を彼等は襲撃する計画を立てた。コルセア共和国を戦禍に陥れるべく暗躍するその組織から腕の立つ二名の幹部が襲撃に参加する手筈だった。


残る幹部は二名、その内の誰かを襲撃へ宛行わなくてはならなくなった。


男は即座に決断を固めると、目の前で跪いたまま俯く女へと声を掛ける。


「ならば、お前が襲撃に参加しろ……」


「わ、私……ですか!?……」


「襲撃地点は森だ、そこなら充分にお前の実力を発揮できる……」


「で、ですが!……お言葉ですがコマンダンテ、そうなれば貴方を守る人間が一人になってしまいます!……」


「それは違う、リベーヌの代わりになる程の実力者はお前しか居ないと言いたいのだ……。彼女の信念ある剣の腕はコルセアでもトップクラスだった、事情は分からぬがそんな彼女が息絶えた以上はそれに次ぐ強力な力が必要となる……」


男は相手と目線を合わせる為に膝を地面に下ろし、その細い体を抱き締めた。


静かに目を閉じ、ピュアニストの長は愛を以て部下へ言い聞かせた。



「……同胞の死とはいつでも悲しく、耐え難い喪失感を生むものだ……私は戦争により多くの友を失った……。その一人一人の顔と名、性格や言葉も私は昨日の事のように思い出す事ができる……」


「……コマン……ダンテ……わたしの……あるじ……」


「……私にとってはお前は部下などではない、誰もが友であり家族だ……。だからこそ、これ以上誰も死なせて欲しくない……お前にも死んで欲しくないからこそ、私はお前の実力と戦術から判断したのだ……」


「……あなたには、どれだけ尽くしても返しきれない恩がある……。誰もに見捨てられた私を救ってくれた恩、衣食住を与えてくれた恩、こんな私に新たな人生を与えてくれた恩……そして……」


自身を強く抱き締めるその背中へ手を伸ばすと、歓喜と絶対的な忠誠……そして、愛に満ちた震える手でその背中へと指を這わせた。


右手は人間の腕をしていた、そして左手は……。



「あのグリーン・ディクテイターに左手を食い千切られて、死を待つばかりだった私を助けてくださり……感謝しています……コマンダンテ(司令官)……!」


魔石の埋め込まれた義手で相手の背中を硬く抱き寄せながら、アリッサという名の女はその覚悟を示すように涙の濡れた瞳で男を見つめた。


伸びた栗色の髪を結い、忠誠と愛を誓った彼女は男へと宣言する。



「私は必ず作戦を成功させます!そして……私を見捨てたレオナ・ハミングバードを必ず殺します……!」



------


ふふーん……これで準備は完璧!この先で敵を迎え討つ準備はオールオッケー!。


「あ、あの……エリシア?いきなり陛下と会う前だと言うのに学校のお店に引っ張り出されかと思えば何なんですの?」


「ごめんね!ティナ!」


「まぁ、いいですけど……それにしても何で騎士見習いの貴女が拳闘士の装備なんて買う必要があるんですの?」


不思議そうに小首を傾げるティナを見ると、私はそのゴツい五つのリングが空いた打撃武器を嵌め高々と掲げた。


「タイタンのナックルリング!これはちょっと私の今の手持ちじゃ買えなかったんだぁ!……まあ、騎士とはいえ剣を失ったら拳でやり合わなきゃいけなくなるワケだし?」


「は、はあ……それにしてもヘンテコな武器だけでなくアイテムまでヘンテコなものばかり、備えは大切とはいいますけど……」


「あ、あははっ!ティナ、ありがとう!ティナだーいすき!」


「ひゃっ!……」


怪訝そうな顔をするティナの腕を抱き締めると、彼女は驚きつつも満更でもなさそうな顔をして私に笑みを向ける。


……ごめんね、ティナ……前の世界ではあんなに、友達の仲なんて軽く超えてしまうぐらい愛してくれたのに……。


でも、グリーン・ディクテイターさえ倒せば貴女の命は助かる可能性が高くなる。今はもっと危なっかしくて救いたい人が居るんだから……。


「二人とも、こんな所に居たのか……間もなく陛下がお見えになるぞ、すぐに準備を----」


噂をすれば、今回のルートで最も命を落としやすい女性がやって来た……。


廊下の奥から歩み寄って来るレオナ教官は……普段の凛々しい士官服とは違い、来客用の真っ白なドレスを着用していた。こうして見ると高い背丈と長い髪、そしてスレンダーでありながらもベルトによって締め込まれ露わになった女性として理想的な体系が嫌でも目を引く。


すごく、綺麗だった……。


「あ、あまり……ジロジロ見るな……」


「……き、綺麗です……レオナ教官……」


「ひゃひっ!……あ、う……あ、ありが……とう……」


ボンヤリと見惚れている私と、目尻に涙を浮かべながら恥ずかしそうにこちらを見返すレオナ教官は暫く見つめ合っていた……。


ああ、やっぱり……今はこの人を守ってあげたい……。


こんなに綺麗で美しくて、それでいて内面はこんなにもか弱く繊細で……心の底から守ってあげたくなっちゃう……。


息をする事すら忘れるぐらい目の前の相手に夢中になっていると、後ろから肩を掴まれやや不機嫌そうな声が聞こえた。


「ほらっ!エリシア!陛下がお目見えになりますので行きますわよ!教官もしっかりしてくださいまし!」


「そ、そうだな!……す、すまない!……」


私の手を取ると、小さく鼻を鳴らしながらティナは引きずるようにして歩き出した。


ティナ……ひょっとして、ヤキモチ妬いてくれてるの?……。


えへ、えへへ……あんなに綺麗な人が私にだけ心を開いてくれて、こんなに綺麗な子が嫉妬してくれるなんて……。


……本当に苦しくて悲しい事ばかり起こる世界だけど、皆が私を好きになってくれるのは嬉しい……。


だったら頑張ろう!救えなかったエルメスの分も大好きな皆を守る!。


備えは既に万全だ、この先の襲撃イベントだって私は知り尽くしてるんだから!。



-------


学園の門を潜り一台の馬車が騎士育成学校の正面玄関へと向かった。


豪華な装飾や権威を表すような紋様は一切施されていないみすぼらしさすら感じるその馬車は大勢の人間が出迎える玄関前に停車し、黒い外套を纏う護衛と騎手を兼ねた男が素早く馬から降りると後部の客席の戸を開いた。


差し出された腕を握りゆっくりと馬車から降りてきたのはやや質素さを感じさせる白いシャツとロングパンツ、そして革製のブーツを履き込む若き皇子だった。


黒い髪を束ね、青年とも美女とも取れる中性的な顔立ちを出迎える人々に向けながら彼は口を開いた。


「王らしくない格好ですまない、昨今は私の命を狙おうと目論む輩も多くてな……目立たないようこうしろと周りに言われ、仕方なく衣類も馬車も目立たぬ地味なものにした……」


「い、いえっ!……陛下直々にこのような場所までお出でいただき、光栄です!……」


レオナを先頭にした育成学校の教官達は一斉に跪き、その若い最高権力者に心からの敬意を向ける。


身なりや装飾などなくとも、その若く美しい彼からは充分な王としての威厳があった。


年齢でいえばその学校の生徒と変わらない年頃だというのに、人々を惹き付け魅了するだけの何かが彼には備わっていた。


コルセアの歴史において、共和政は長らく続いた王政に比べ日の浅い政治体系であり国家自体の適応も進みきってはいなかった。故に国を束ねる王という存在のみが形骸的に残され今に至る。


不安定な政治の象徴として残された若き王はその使命を最後の瞬間まで果たすべく、毅然とした表情で育成学校の校舎を見上げた。


ジャン・フィリップス・コルセアは王政政治の終焉を告げるラストエンペラーである、そして……複雑な時代故に歪な立場に苦悩する孤独な若者でもあった。

















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